雪の声 | 陣痛のはじまり
明け方の静かな寝室
呼吸だけに集中していると
不思議とカーテンの向こうの、降っているかもわからぬ雪の声が聞こえるような気がしてくる。
明け方、寝ぼけた頭の中に冬の海のイメージが浮かぶ。
波がこちらの方に来ては、また遠ざかってゆく。
その波は、自分の身体の中で起こっているものだった。
陣痛のはじまり。
もうすぐ会えるんだ、とすぐにわかった。
静かな静かな寝室に
ただ波が、近くなったり遠くなったりを繰り返している。
もし、外で雪が降っていたら
空からこちらに降ってくるまでの話声が
脇に停めてある自転車に落ちる音が
聞こえてきそうなくらい静かな空気の中で
自分の呼吸と、寄せては返す波に気を集中させている。
寝返りを一つうつ。
身体を横に向けると、自分の影が壁に写っている。
その影が呼吸と一緒に小さく小さく波打っている。