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★誕生日の物語#33

ほとりほとりと月が涙をこぼしている。
ここにはもういないあの人への切なく優しい記憶を抱いて、私が眠りにつくたびに、月はその痛みに泣いてくれる。
そうして夜明けには、いくつもの結晶が枕もとでキラキラと光るのだ。

彼は、聖域であるこの森へ迷い込んできた魂だった。
真珠のような光を内側に持ちながら、昏い傷みに覆われて、その重みで己の形も保てないままに地に堕ちて動けなくなっていた。
精霊たちのざわめきを制して拾い上げたのは、森の主として当然のこと。
そうして慈しむことで自我を取り戻した彼は、こちらが驚くほどに魂の格を上げ、いつしかその瞳は世界の綻びと崩壊の兆しすら見抜けるようになっていた。

『世界の理を正すチカラを得なければ、僕は、あなたもこの場所も護ることができない』

そばにいたい、けれど護られるだけの自分に望む未来はこないのだと告げた眼差しに、ここでそそがれたものすべてをとても丁寧に受け取ってくれた証が見て取れて。
止める言葉など浮かぶはずもなかった。
だから。
離別の痛みはいまも月の涙となってこぼれるけれど、位相を隔ててなお捧げられる愛もまた感じることができるから、私は今日もこの場所で世界の行く末を見定め続ける。

*誕生石・誕生日花*
真円真珠: 宇宙の謎・自然への愛
ダイヤモンド: 純潔・清浄無垢・純愛・永遠の絆
ピンクバラ:愛を誓います
ゴデチア: 変わらぬ愛・お慕いいたします

Copyright RIN

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あなたの誕生月&日の石と誕生日花をキーワードにつづる少し不思議な物語
正式なリリースの前にFacebookでモニター募集させていただいた34編を順次公開。


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