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合気ネギ
冬の間、ネギ農家の友人からネギバイトの誘いがあった。
もちろん喜んで引き受けた。
オーストラリアにいた時はファーム生活を転々として過ごしていたし、今も少しだが畑をしている。
身体を動かすのも、土を触るのも大好きだ。
前日に友人から連絡があり、明日は今シーズン最悪のコンディションだから、防寒対策と、色々覚悟をしてきてほしいとわざわざ連絡があった。
その日は前日に雪が降って地面はぐちょぐちょ、畝と畝の間は水が凍って分厚い氷の板になっていた。
作業は、ネギをひたすら収穫するお仕事。
ただネギを抜けばいいというわけではなく、意外と奥が深い。
ネギというのは、白と青の境目部分の首のところが一番大切。
ここが一番折れやすく、土が着くとなかなか取れないので、首の少し下のあたりを握って抜く。
優しく握るとネギはなかなか抜けないし、力強く握ると首が折れたり、途中でポキっと切れてしまう。
この微妙な力加減がキモなのだ。
何本か抜きながら、途中で思った。
「これって合気道やん、、、」
合気道では相手に技をかける時に、力技では技がかからない。
力と力がぶつかり合ってしまって、抵抗が生まれ、反発する力が勝り、技が決まらないのだ。
例えば、相手の腕を力いっぱい握って、強く引っ張ろうとしても、持たれたところに反発が生まれ、相手も抵抗する力が強くなるので、なかなか引っ張ることができない。
ましてや相手が体重の重い人だったり、力のある男性だったりすると全くダメだ。
しかし、相手の皮膚全体を包む様に優しく握り、相手の腕と自分が一体になると、相手は抵抗する力がなくなる。
そして腕の力で引くのではなく、全身を使って引く、言い方を変えると、相手の身体と自分の身体、地面が一体になった様になり、引っ張るのではなく、力を足裏から地面に流す(逃がす)という感覚だ。
そうすると相手は簡単にこちら側に引き寄せられる。
まさにネギを抜く動作がこれだと思った。
ネギの首の下あたりを優しく包む様に持つ、
ネギと自分の身体を一体にし、柔らかく全身を使って地面に力を流す。
そうするとネギはスポン!と綺麗に抜けるのだ。
おおー!これはすごい良い稽古になるぞ!
と、夢中でネギをポンポン抜いていたら、ネギオーナーの友人から、史上最悪のコンディションの中で笑いながら高速でネギを抜くおかしな女だと思われていた様だ。
休憩時間の時に、「ネギは合気道だ!すごい良い稽古になる!ありがとう!」と伝えると、最初は不思議そうに笑っていたが、これがこうでと理由を説明すると納得した様子で、なんかわかる気がする。と興味をしめしてくれた。
それよりも友人は、この最悪のコンディションの中でなんだか楽しそうにしている私の姿に安心した様子だった。
そして伝授した抜き方でみんなネギ抜きがロスなく早くできる様になっていた。
最初は怪しそうにしていたオーナーの友人も、次の週にはネギをブランド化する時には「合気ネギ」という名前はどうだと言い始めた。そして自分の子供に合気道を習わせたいと言ってきた。
おぉ、なんだかわからないけど、合気道の魅力が伝わったならよかった。けど「合気ネギ」という名前はどうかと思うと伝えた。