顔面
人生が変わるのであれば、整形手術もしてみたいと思っている。たった一度の人生だ。一度くらいは黄色い声援を浴びてみたいというものだ。だが、どうも「手術」と聞くだけでそれを遠ざけてしまう。痛い思いをするくらいであれば、若い女性の黄色い声援を浴びるより、ばあちゃんのしわがれごえを聞いていた方がまだマシである。
振り返ってみれば、この顔面のおかげで人生が1ミリだけ華やいだような気がしている。こちらが望まなくても体についている顔面である。それで1ミリでも人生が華やげば儲けもんだ。
私たちが『新婚さんいらっしゃい』に出演したときもそうだった。
実は私たち夫婦は2015年7月に、あの長寿番組『新婚さんいらっしゃい』に出演したのだ。内容については親戚一同から呆れられるような内容であったので割愛させていただくが、とにかく目の前で桂文枝師匠の「いらっしゃーい」を一番近い位置で見てきたのだ。
元気な声で「高松利行、32歳!」と、お決まりの棒読みで自己紹介を終えた後、ひかりが中国人であることの話題になった時に師匠から言われた言葉が、「旦那さんの方が外国人みたいな顔をしている。台湾のお土産屋に売っているお面みたいだ」と顔面をいじって頂けた。
「よく言われます」などと、大して面白くもない返しをしてしまったのだが、そのやりとりで会場はまぁまぁウケていた。「台湾のお土産屋のお面」を師匠が見つけたとは言え、私の顔面が人の笑顔を引き出したのだ。いくら師匠でも私の顔面が「台湾のお土産屋のお面」に似ていなかったらあのまぁまぁの笑いは引き出せなかったであろう。なんなら師匠に「台湾のお土産屋のお面でありがとう」などとお礼を言われたいくらいだ。
収録から3ヶ月ほどたった7月のお昼、私たちが出演した回の放送があった。放送が終わるやいなや、Facebookページへの「いいね」が止まらなく、携帯電話の画面がその通知で埋め尽くされた。そして、鳴り止まないメールや電話。挙句の果てにひかり畑HPのサーバーがダウンして、一時サイトがみれなくなったくらいだ。
翌日のニュースでYahoo検索ワード急上昇ランキング1位に「ひかり畑」の名前が上がったことが報道されたくらいだ。テレビの影響力とは恐ろしいものだ。あの経験は人生でも2度と味わえない経験だと思う。
そんな経験をすると人は芸能人にでもなったような気分になるものだ。頭の中では若い女性からの黄色い声援が鳴り響いていた。街を歩けば若い女性たちに声をかけられやしないか心配するほどだった。しかし「台湾のお土産屋のお面」などに黄色い声援はかけないものである。私に声をかけてくるのは、ニヤけた顔のばばぁたちの「昨日見たよ」だけであった。
どうしても黄色い声援が欲しくて、よせばいいのに芸能人気取りでエゴサーチをしてみたところ、2ちゃんねるの掲示板に「夫、サモハンキンポーじゃん」という文字を見つけて、そっとパソコンの電源を切った。
私の人生で黄色い声援を浴びるのは、どうやら難しそうだ。しかし、この顔面で残りの人生を生きていくのだ。せめて人の笑顔を引き出せる顔に仕上げたいと思う。