「鳥蟲篆における字画と屈曲の変化について—小篆との字形比較の報告—」(第1回 日本漢字学会 研究大会 ポスター発表記録)
2018年12月1日・2日に京都大学で行われた、第1回 日本漢字学会 研究大会でのポスター発表を冊子にまとめた。鳥蟲篆(ちょうちゅうてん)の字形がどのように変化され、装飾されているのかという調査。会場で配った冊子に、会場で出た質問と回答を追加した。(あと、恥ずかしいので顔写真を消した)
鳥蟲篆は装飾や変形が激しく、印面のなかで文様のように見え、とても読みにくい。そのような字形にそれぞれの文字本来の字体がきちんと保持されていることがわかれば、鳥蟲篆が「文字」として機能するため、文様ではなく「文字」のデザインであるということが明言できる。
普通に考えて、印璽に彫られているのは文字だろう。なぜわざわざ鳥蟲篆が文字であることの裏付けを取っているのか。その理由は、私がある仮説を証明したいからである。
鳥蟲篆のルーツである鳥蟲書(ちょうちゅうしょ)は、春秋戦国時代の中国で作られた書体である。前の記事でも書いたが、この書体は「列国金文(れっこくきんぶん)」と言われる書体群の一つである。私は、鳥蟲書や列国金文が、東アジアで一番最初に「デザインされた」文字ではないかと考えている。「鳥蟲書が文字デザインの始まりである」と主張するためには、まず、鳥蟲書が文字であることを、はっきりさせなければならない。
しかし、鳥蟲書のサンプルはけっこう少ない。(王墓から発掘された青銅器くらい)なので、もう少しサンプルの多い鳥蟲篆(秦・漢時代)を調査した。
鳥蟲篆は古すぎて元々の字体が現代の漢字と全く異なるし、ものすごく変形・装飾されているので、パッと見てとても読むことができない。現代人にとって文字として機能しないものを、「これは文字である」と主張するには、「印面に彫られているのだから、文字に決まっている!」というだけでは、根拠に乏しい。そこで、当時使われていた書体のうち、装飾がなく本来の字体に近いと思われるもの(小篆)と比較して、きちんと元々の字体が保持されているかどうかを調べた。
結果、字画がかなり曲げられていたりはするが、字画の組み立て方は変わっておらず、字体が保持されている=鳥蟲篆は文字だと言えるようだ、というのが今回の発表。
研究発表という性質上、様々な書籍などから文字の画像を引用した。それぞれの画像には著作権表示を入れている。本文や画像の無断転用はご遠慮願いたい。