#010 人生の結び目
Q.10
同じ長さのひもを35本結ぶと12.69mのひもになります。
それぞれのひもの10%を使って1つの結び目を作るとき、1本のひもの長さは何mですか。
学習院中の過去問です。
植木算のひもバージョンですね。
私の生徒が今年学習院女子中等科に受かったのですが
問題を見るだけでその子の頑張りを思い出して
何とも言えない穏やかな気持ちになります。
学習院というと「皇室の通う学校」ということでお坊ちゃま・お嬢様のようなイメージがありますが、意外とそういうケースは少数で、一般家庭の生徒も数多く在籍しています。
(幼稚園や初等科(小学校)からの入学者は、やはりお坊ちゃま・お嬢様が多いようですが…)
主人と結婚するちょっと前(シンガポールと日本の遠距離恋愛だった時)、実は学習院中等科まで徒歩1分のところに5ヶ月間だけ住んでいたことがあります。
目白駅の方へ歩くといつも校門の前を通り過ぎることになるのですが、
学習院の学生らしき中学生は、みな凛とした表情でした。
ちょっと高めなスーパーでお買い物をする親子も例外なく品があって、学習院の周りだけ洗練されたような非常に特殊な地域だったように思います。
一方私は、その学習院エリアと同じ空気を吸っているような場所にある、男女共同のシェアハウスに住んでいました。
一人4畳半の窓の無い四角い部屋に、二段ベッドと、「今の時代にまだあったのか」っていうくらいの立方体の小さなテレビが置いてありました。
テレビの写真が無いですが、ここです。(出していいのかな)
自分の部屋のドア開けてすぐの写真です。これが私の部屋でした。
前の住人の気配を感じる薄汚れた壁を見て、思わず「拘置所」と検索して比べると、案の定広島拘置所の方がキレイで驚きました。
床が冷たかったので、タイルカーペットを敷きました。
意外と面倒でした。
共同の玄関に入るとすぐ目の前で、タバコを吸うためのソファと灰皿が置いてあるのですが、いつも昼間は決まって茶髪のひょろっとした男性が陣取っていました。家の中なのにいつもハットを被り、挨拶どころか会釈すら返さない、「ミステリアスでクールな俺」に酔ったような男でした。
夜になると必ずいなくなるので、心の中でその男性を「売れないホスト」と呼んでいました。
家賃は月4万5000円。
月末になると帽子を深く被ったおじさんがドアをノックして集金に来ます。
シャワールームは2部屋ありました。
海の家でしか見ないようなコインシャワータイプです。
100円を入れると15分間シャワーが出ますが、お湯を止めてから5分以上経つと自動的にリセットされます。
手持ちに100円がないとシャワーが使えないので、最初の頃は玄関の近くにある自販機で飲みたくもないお茶を買って1000円を崩したりしていました。
たまに誰かがシャワーから出て5分以内に入るとまだ7分余ってたりするので、急いで入ってタダでシャワーを使ったりもしていましたね。
「最短2分でシャワーを終わらせる」という、特に使う場所のないスキルも身に付きました。
2段ベッドの1段目はAmazonで買った勉強用デスクを組み立てて、隠れ勉強スペースを作りました。
こういう秘密基地みたいなのが好きなのですが、この部屋自体ほぼ秘密基地だったのでここは特に必要無かったなと思います。
この生活が嫌だなと思ったことはありませんでしたし、合理的な自分の生活に満足すらしていました。
こんな貧乏くさい暮らしをしながらボサボサの髪で外に出ると、髪を綺麗に結ったお嬢様が通学路を悠々と歩いていて、目の前のコントラストに唖然としたものです。
貧富の差って貧しい人にしか見えないのかもしれません。
たとえ品のある地域に住んでいても、自分に品がないと、自分が踏んでるその土地だけくり抜かれたような気分になるのです。
このままずっといたら腐ると思い、その後3ヶ月だけ中野駅から徒歩10分のマンスリーマンションに引っ越して、少しだけ良い生活になりました。
(そのあと主人が日本に帰ってきたので結婚して新居に引っ越しました)
家具家電付き、これが月11万円の部屋です。
当時あった貯金はほぼ無くなりました。東京は恐ろしい。
今の自分に満足して、少し経ったら危機感を覚えて…この繰り返しで変化していくことが私の人生の理想ですね。
人は変化する時が一番心に残っているものです。
一本のひもよりも、色んなひもで結ばれた人生の方がおもしろいのです。
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