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北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【44】15日目 白糠〜厚内① 2016年11月5日

11月5日(2016年)土曜日。
釧路空港からレンタカーを運転して、半年ぶりに戻ってきた白糠駅前は、みぞれ混じりの雪が降っていました。
気温はマイナス1度。

◆ 早く走りたい…

1日も早く、またペダルを踏み出したい。
釧路、厚岸、網走、阿寒、十勝とレンタカーで走った道東への小旅行は「週末北海道一周」の埋め合わせどころか、走れないもどかしさと欲求をかき立てる結果となりました。
旅行の翌週末、腰の腫れはすっかり引き、ヒビの入った肋骨の痛みも和らいできたので、私にとってはホームコースのような高麗の里へと、事故後初めてルーベに乗って走りました。幸いフレームから妙な軋みや振動を感じることもなく、身体にも大きな負担を感じることもなく、50キロほどを走り切ることができました。

これなら、年内にもう一度、道東へ走りに行けないだろうか…

10月の下旬ともなれば、北海道ではそろそろ初雪の便りも聞かれます。ただ、比較的積雪の少ない太平洋側、しかも海岸線のライドならば、11月上旬くらいまでは走れるでしょう。
上旬のドライブ旅行で散財してしまったばかりですが、幸い、この季節の道東ならば、連休さえ外せば特典航空券が取りやすいため、低予算で旅行できます。

ただ、3月から担当しているプロジェクトが、経営トップへ上申の段階を迎えており、悠長に3連休など取れる状況にはありませんでした。1泊2日でそこそこ走れるコース組みができないものか…。怪我も完治していないので、一日100キロ以上の距離を、3日間走り続けることへの不安もありました。
それでは1日あたりの行程を短縮できるかというと、白糠から先のルート上、このエリアでは町らしい町は内陸に集まっており、宿泊できる場所が極めて限られます。海岸沿いでそれなりの町に泊まろうとしたら、襟裳岬に近い広尾まで走り切るほかありません。その沿道には、行楽シーズンのみ開設される民宿やライダーハウスは点在しているものの、十月下旬でも営業しているような宿がなかなか見つかりませんでした。
また、厚内から先は、鉄道はおろかバス停すら広尾近くまでなく、走り終えた後の輪行手段も悩みどころでした。

◆ 旅程確定、しかし…

そんなさなか、大樹町の海辺にポツリと建つ温泉があり、ここに隣接する公共施設に宿泊できることを知りました。
まさに救いの神。
ここを中継地点にして1泊二日で、白糠から襟裳岬まで走破するプランが思い浮かびました。

▼ 晩成温泉 (当時は、こんな便利なサイトはありませんでした)

土曜の朝、始発便で羽田から釧路に飛び、昼前に白糠着。初日、二日目とも80キロ強のライド、これくらいなら今の体調でも走れるはず。
日曜の午後、襟裳岬に到着したら、路線バスを3本乗り継いで帯広空港まで輪行し、夜の便で帰京。特典航空券を利用すれば、宿は公共施設なので格安であり、航空券以外の交通費と足しても1万円程度の予算で済みます。

これはかなり出来のいいスケジュールだと悦に入り、取り急ぎ十月最後の週末の特典航空券を確保しました。

ところが、頼みの綱の宿泊施設に電話したところ、その週末は満室。この区間に代替の宿泊施設は見当たりません。
ほかに考えられる手といえば、内陸の大樹町の中心部まで走って泊まるか、それとも一気に広尾まで走るか。いずれも、初日の走行距離は100キロを超えます。怪我からの回復途上であること、当日朝移動して白糠からのスタートは11時半頃になること、さらにこの季節の道東の日没の早さを考慮すると、この選択肢はあり得ませんでした。
泣く泣く、1週間の先送り。

当初予定していた週末は、また肋骨やヘルニアを痛めぬようソファの上で楽な姿勢を探りながら、iPadを片手に、十勝晴れの空の下、紅葉が燃える写真がSNSにアップされているのを、恨めしく眺めていました。
来週こそは…

◆ 冬の到来…

ところが、次なる問題が発生しました。翌週後半は、低気圧が連続して北日本を通過し、十勝にも雪が降るというのです。

ちらほら舞う程度なら問題はありませんが、積雪15センチとか25センチとかいう予測が出されています。気温も上がらず、最高気温は3~4度、朝晩は氷点下まで下がると報じられました。
これでは、ロードバイクでのロングライドなど不可能。
本当に、ガックリきてしまいました。その日は働く意欲もなくなってしまったほど。
そして、また無気力に週末を過ごす自分の姿を想像し、悲しくなりました。

その週の木曜は、文化の日でした。
前夜、自暴自棄気味に会社の同僚たちと深酒し、そのせいで寝坊、9時近くにようやく起き出して、宿をキャンセルしなきゃ、飛行機も…と、コーヒーを飲みながら、しばらく落ち込んでいました。
ともかくも、その日は素晴らしい晴天だったので、最近は街乗り及びポタリング専用になっているCORNAGO Primavera で、入間川の堤防を走るサイクリングロードを走り出しました。

気持ちよくペダルを回すうちに、心の中で、天使か悪魔か知らないが、「行きたいんでしょ?行っちゃえば?」と囁きかけます。
雪だろうが、低温だろうが、ロードバイクに拘りさえしなければ、走れないことはありません。昨冬の札幌では、MTBにスパイクタイヤを履かせて雪道を走り回っていました。厳冬期用のウェアも豊富に取り揃えてあります。

問題は、天候悪化がどのレベルか、また路面がどんな状態になるか、その日になってみなければわからないこと。襟裳岬まで走破する計画はリスクが大きすぎます。
途中、十勝川河口あたりまでならば、近くの根室本線の駅へ逃げ込んで輪行で移動する手があります。但し根室本線は8月末の台風10号で深刻な被害を受け、大幅に減便されています。十勝川を渡ったその先はといえば、広尾までの間、公共交通機関どころか人家すら殆どないエリア。雪に埋もれた針葉樹林の中の道で、夕闇の中、パンクで途方に暮れる自分の姿が脳裏に浮かびます。

行程の大幅短縮はやむを得ないものの、ともかくも行ってみることにしました。

バイクはMTBを選択。ウィリエールXC303にスパイクタイヤを穿かせていくことにしました。ロードバイクで北海道一周を走り切りたかったけれど、安全には代えられません。ロードバイクの細いタイヤで凍結路面に捕まり、また肋骨を折ったりしたら、もう誰も同情してくれないでしょう。

彼方に新雪を頂く富士山を望みながら入間川畔を走り、川越の南郊にある天然寺などを巡って、自宅へ戻ってからレンタカーを予約しました。今回のエリアでこの天気予報では、自転車と鉄道とレンタカーを併用して行ったり来たりする旅程にせざるを得ません。乗捨料金を含めて2万円近い追加出費。今回は節約を旨としていただけに、懐に響きます。

◆ トラブルは続く

そして出発前夜。今更ながら、手持ちの縦型輪行バッグ2つの何れにも、XC303を収納できないことが判明。考えてみるとこのバイク、これまで一度も輪行したことがありませんでした。ジャカルタ駐在中に購入し、その後バンコク→札幌→川越と、4か所も点々としてきたのに、引っ越しの時は全て業者任せで、国際間輸送もダンボールを使ってうまくパッキングして頂いて、船便で運んだのです。
全く想定外のトラブル。

後輪を外さないで収納するタイプの横型輪行バッグを試してみましたが、これも無理。こんなことで出発を諦めねばならないのか、と、つくづく自己嫌悪に陥りました。
幸い、最後に試してみたモンベルの横型輪行バッグに何とか収めることができました。これはコンパクトさが気に入って昨年購入したものの、袋を上から被せて下部をコードで引き絞るという構造は使いづらく、これまであまり活躍場面がなかったのです。

テレビの中で、この週末、関東地方は麗らかな小春日和の週末になるでしょう、と晴れやかに語るキャスターに向かって悪態をつきながら、最後の最後になってバックパックにスノーブーツとダウンジャケットをぶち込み、翌朝は4時半に起床して、当初計画に比べると倍くらいの重量になった荷物を担いで、羽田空港行きのバスに乗り込みました。

あろうことか、土曜日の早朝というのに、首都高は渋滞が発生していました。バスの到着予定は飛行機の出発の一時間前。まさか乗り遅れたりしないだろうか。
何だか、朝っぱらから東京の街に息苦しさを感じてしまいます。かつて海外から一時帰国した時などは、ああ、東京は魅力的な街だなあ、と感じていたけれど、この無機質な景観、及び人と車の波の中に毎日身を置くことは、今では私には結構なストレス…
何だか、朝からネガティブ思考に陥っていました。

幸い、バスは10分程度の遅れでターミナルに到着。最近、マイレージのステータスが上がったので、長蛇の列を横目にスムーズに荷物を預けて保安検査場を抜け、ラウンジでコーヒーを一杯飲む程度の余裕はありました。

7時45分、出発。そして一時間半ののち、雪化粧した釧路空港に到着。

▲ 雪の釧路空港

不思議なことに、雪景色が視界いっぱいに広がり、降機して北海道の乾いた冷気が肌に触れるなり、気分が高揚してきました。

北海道の空気には、私を元気にしてくれる成分が含まれているのでしょうか。

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ここまでお読み頂き、ありがとうございました。雪の中の「週末北海道一周」、半年ぶりに完全防備で、ようやく走り始めます。よろしければ続きもご笑覧下さい。

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