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水の中をめぐる旅【7】 沼津•獅子浜 2011年4月
トルコ・シリア国境で発生した大地震では、5万人近い方が犠牲になり、報道されるその数はなお、日々増え続けています。このような災害の報に接するといつものことですが、映像を通じてしかその惨状を窺い知ることができず、また僅かばかりの寄付程度しかできない自分の無力さを痛感させられます。
もう20年近く前に10日間ほど、バックパックを担いでトルコを旅したことがあります。今ではその記憶も薄れつつありますが、トルコと日本の絆を深める契機となったエルトゥールル号の海難事故や、イラン・イラク戦争時のトルコによる日本人救出などを引き合いに出すまでもなく、親日的な国民性、エキゾチックな街並みと自然の風景、それに食べ物の美味しさが強く印象に残りました。
この時は訪れませんでしたが、地中海に面するアンタルヤなど、潜りに行ってみたいスポットも少なくはありませんでした。
そのようなこともあってか、かつて、東日本大震災がダイビング業界に与えたインパクトのことが思い出されます。
津波に対する恐怖感などで海から遠ざかるダイバーも多く、幾つものショップが廃業に追い込まれている、と私の師匠が嘆いていました。
今回は、震災後最初のダイビングのことを、当時書いていたブログから転載•リライトして掲載したいと思います。
その頃、私は埼玉県に住んでおり、ライセンスを取得した地元のショップのツアーで1~2ヶ月に一回、伊豆方面を中心に潜りに行っていました。その後、この年の夏に東南アジアへ赴任することになり、以降、露天風呂のような環境にすっかり順応してしまうわけですが、この頃は真冬だろうが何だろうがドライスーツでもぐっていました。
2015年に本帰国して、久しぶりにドライスーツでビーチダイビングをした時には、よくもまあこんな重労働を平気でやっていたもんだ、と感じてしまったものです。
◆ 閑散としたダイブサイト
2011年4月。この日目指したのは、沼津市の獅子浜でした。
ショップの日帰りツアーでは、その日の海況によってポイントを決定することが多いわけですが、この日は、獅子浜に人が押し寄せてもおかしくないコンディションでした。昨日の強風の影響でうねりが残り、東向きのポイントがどこもクローズしていたのです。
しかし、震災の影響が、想像以上に深刻でした。
9時前にダイビングサービスに到着すると、先客は二人だけ。私達の後から2グループほど来ましたが、よく晴れた日曜とは思えない閑散とした状況。
それまでにも獅子浜では幾度も潜っていましたが、こんなことは初めてでした。
余震も未だ収まらぬ中、もし潜水中に津波が来たら…という不安と隣り合わせのダイビングでは、とても楽しむ気持ちになれないということでしょうか。
実際は、津波が発生するような大地震が発生したら、水中でも爆発音のような尋常でない地鳴りが聞こえるそうです。獅子浜の場合だと、それから津波到達までに9分程度はあるので、緊急浮上ができないような深場にいない限りは、近くの下水処理場に避難する余裕はあると、その当時聞いた記憶があります。
● 1本目
平均水深 13.3m 最大水深 22.7m
潜水時間 31分 透明度 7m
水温 16℃ スーツ ドライスーツ
● 2本目
平均水深 7.5m 最大水深 18.0m
潜水時間 39分 透明度 7m
水温 16℃ スーツ ドライスーツ
前日の激しい雨の影響で、川から濁水が流れ込み、表層は視界ゼロ。
しかし、3m程潜ると透明度は約10mとまずまず。
目ぼしい生物は、数匹のハナミノカサゴくらい。あとはヤリイカやウミウシの卵を見つけたくらいでした。2本とも、ディープダイブでもないのにダイブタイムが短いのは、「3本目は温泉に潜りに行こ〜!」的なシンパシーが暗黙のうちに生まれていたからでしょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1677113134612-jboygzwZnw.jpg?width=1200)
ただ、震災の発生からこのかた、関東も計画停電やガソリン不足などに見舞われて、私の仕事も大きな影響を受け、しかもこういう時に限って色々なトラブルも重なるもので、かなり精神的に参っていた時期でした。
そんな中、3ヶ月ぶりに、束の間ながら中世浮力を取って水中を漂う時間は、ストレス解消にもってこいでした。
午後から風が回って西風が強くなり、海には白波、富士山は雪煙を上げていました。
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◆ ダイビング中に津波に遭遇したら…
さて、ダイビング中に津波が発生した場合の対処方法については「オーシャナ」などのサイトに取り上げられています。スマトラ大地震で津波に遭ったダイバー達の体験談をまとめたサイトもありました。
これらを読むと、実際にそのような場面に遭遇した時「こうすれば良い」という正解はない、というのが結論とも思われます。
しかし、いざという時にパニックに陥らず、迅速な判断を図るためには、状況別の基本的行動パターンは理解し、例え脳内であってもシミュレーションを繰り返しておくべきとも読み取れます。
一緒にいるのが必ずしも沈着冷静なベテランのインストラクターとは限りません。色々なDSで潜っていると、中にはタンク本数が私と対して変わらず、かつ人生経験はあまりなさそうな若いDMがガイドにつくこともあります。
以下は私なりの理解ではありますが、その時にいる場所が「ビーチか、ボートか」「水面或いは浅場か、深場か」のマトリクスで対処方法は変わるようです。
ビーチで浅場にいる時ならば、浮上速度を守りつつエギジットし、水面で器材を放棄して、高台へ避難。ボートダイビング中で浅場の場合も、エギジットしてボートでなるべく沖合へ出、以後は引き波で流された人々の救出活動に全力を上げること。
一方、緊急浮上が難しい深場だったらどうか。以下のサイトにあるスマトラ沖地震の体験談を読むと、爆発音のような轟音に急激な透明度低下に続き、アップカレントとダウンカレントにもみくちゃにされる様が語られており、いざそのような場面に遭遇したら焦るばかりで身体が動かなくなりそうな恐怖感を覚えました。
ただ、海底の根の陰に隠れて岩に捕まり津波をやり過ごしたという体験談も中にはありました。
津波の破壊力は、そこにもともと海水がなかったところに、大量の海水がなだれ込んでくるところにある。最初からそこに海水があれば、潮位の変化のみなのです。
科 萩谷宏准教授 前掲「オーシャナ」サイトより引用
…ということは覚えておくべきと思います。例えば、ビーチダイビングで20メートルより深い場所にいるようなケースだったら、焦って浮上するよりも、残圧などの条件に左右はされますが、沖の深場へ逃げる方が生命が助かる可能性は高い、と理解しました。
ただ、津波には第二波、第三波があり得ます。1993年の北海道南西沖地震で発生した津波により壊滅的被害を被った奥尻島の南西部にある地区では、震源地から島を直撃した第一波、続いて島を一周してきた第二波、さらに北海道本土からの反射波と、繰り返し津波に蹂躙されたと言います。
残圧が許す限りは水中で物陰に隠れて、海が静まるのを待つべきかもしれませんが、今度は残留窒素の心配も出てくるでしょう。
取り越し苦労となることを祈りつつ、馴染みのポイントをイメージして、
ー ヨナラ水道でドリフトダイビング中
ー 水深30メートル、残圧70、あと5分でdeco stop
このような状況で津波に遭遇したら、どう行動すべきか。原則は素人判断ではなく経験豊富なインストラクターやガイドの指示に従うべきですが、自ら判断して行動しなければならなくなった時のことを想定し「どうすることが、生命の助かる可能性が最も高いか」をシミュレーションしておく必要があるのでしょう。
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最後までお読み頂き、ありがとうございました。ダイビング以外にも、もう一つの趣味である自転車旅のことなども綴っています。よろしければご笑覧ください。