『ダーウィン事変 うめざわしゅん』ヒューマンジーという新しい種の先には…
人間とチンパンジーの中間というか、ハーフ?(こういう言い方をすると差別だと言われるのかもしれませんが、どう表現するのが正しいのかわからない)この作品の中では「ヒューマンジー」と呼ばれることとなるチャーリーと、その同級生であるルーシーを軸に物語は進みます。
「人間とは何か?」―― これは、古今東西の哲学者や思想家が問い続けてきた根源的な命題です。そして今、漫画「ダーウィン事変」では、この問いに新たな光を当てています。どのような結末を迎えるのか楽しみな漫画の一つです。
舞台は現代のアメリカ。人間とチンパンジーの間に生まれた「ヒューマンジー」の少年チャーリーは、テロ事件に巻き込まれたことをきっかけに、人間社会で生活することになります。チャーリーは高い知能と身体能力を持ちながらも、人間と動物の両方の特徴を持つ存在であるがゆえに、差別や偏見に直面します。
普通の学校に通うことになるチャーリーと同級生のルーシー、学校内の小さなイジメや差別の話から、テロ組織「ALA(動物解放同盟)」の話へと物語はスケールアップしていき、人間という種は果たして、特別な種であるのか、人間の醜さと動物の単純さとを比べるというのも、本当に人間というのが動物より上だと言えるのだろうかと考えさせられます。
ALAは、動物の権利を訴える点では共感できる部分もありますが、その過激な行動は多くの問題を引き起こします。
思想について一部は納得できる部分もあるのかもしれませんが、その思想に染まってテロに走ってしまう人間というのがいないと言い切れない世の中ですしね。
彼らの存在は、目的のためには手段を選ばないという危険な思想を象徴しており、現代社会におけるテロリズムを浮き彫りにします。
作者のうめざわしゅん氏は、緻密な筆致でチャーリーの心情を描写し、読者を彼の内面に引き込みます。チャーリーは、人間社会に馴染もうと努力する一方で、人間に対する不信感や、自分自身の存在意義への疑問を抱えています。彼の行動は、私たち読者に「人間とは何か」「他者とどのように共存していくべきか」という問いを突きつけます。
「ダーウィン事変」は、単なるエンターテイメント作品ではありません。人種差別、動物の権利、環境問題、テロリズムなど、現代社会が抱える様々な問題を提起し、読者に深く考えさせる社会派サスペンスです。
30代以降の読者であれば、作中に描かれる差別や偏見、社会の不条理に、自身の経験と重ね合わせて共感する部分も多いのではないでしょうか。
特に、仕事や子育てで多忙な日々を送る中で、自分自身のアイデンティティや、社会における自分の役割について悩むことがあるかもしれません。チャーリーの姿は、そうした悩みを抱える人々に、自分らしく生きるための勇気を与えてくれるはずです。
「ダーウィン事変」は、重厚なテーマと緻密な心理描写、そして美しい作画が融合した傑作です。読んでいない人は是非、この機会に手に取ってみてください。
そして、チャーリーと共に、「人間とは何か」「他者とどのように共存していくべきか」という問いについて、深く考えてみてください。
とはいえ、人間と他者という種の違いの前に、同じ人間の人種の違い、思想の違い、宗教の違いで殺し合う人間という存在があるわけで、よくあるSFですが人間を団結させるのは、人以外の人以上の存在、圧倒的な力を持ったエイリアンを前にする以外無いような気もするわけです。