アントニオ猪木の顎は
長くて汗ばんでいた。
一本指で、こわごわ触らせてもらった
ある夏の夕暮れ。
車の運転中、
ケツメイシが今年出したという
「GENKI DESUKA?」
という曲を聞くと
アントニオ猪木との思い出が
鮮明に蘇ってきた。
プロレスの地方巡業時、
私達は会場近くで部活動していた。
「猪木が走ってる!」
友人が近くをランニングをしている猪木を発見。
歓声・奇声を上げまくる私達に
猪木は実に、にこやかにファンサービスしてくれた。
恐れを知らない友人は
半裸で腹筋を見せてくれていた猪木に
「パンチしていい?」
とおねだり…
どうするのかと見ていると
猪木はにやりと笑い、
「よし来い!」
と気合を入れる。
周囲は皆、どうなることやらと
息を呑んで見守る。
恐れを知らない友人は
結構本気のパンチを猪木に見舞った。
少しだけ表情が歪む猪木。
そして一瞬後にニヤリと笑い
「次は俺の番だよな?」
と友人にパンチのモーション。
「無理無理!」
といって逃げようとする友人に
パンチはせずに…
身体全体持ち上げて、
グルグル回転させるプロレス技。
周りは一気に湧いた。
スーパーヒーロだった。