赤い糸。/ショートショート
大人になれば、見えると思っていた。
小指に結ばれた赤い糸。
その先を辿れば、運命の人へ行きつくと。
当たり前だけれど
そんなものはいつまでたっても見えるわけなくて。
現に隣には、生涯を共にしようと思える相手が
相変わらず眠たそうにコーヒーを啜っている。
そのお互いの小指には、目を細めても何も見えない。
かろうじて細い皺が見える程度だ。
そんな彼と一緒になって、気付けば7年が経つ。
もういい年でしょ、なんて言葉が
身内以外からも出てくるようになってしまった。
いつまでも飲み歩こうねと
会う度に彼との進展を確認していた彼女でさえ、
数十年の仲を一瞬で裏切るように
結婚は素敵よ、と言うようになった。
そんな話を彼にしたことはないけれど。
毎朝こうやってコーヒー飲んでたらさ、
いつの間にかじいちゃんになってて、
コーヒーが緑茶に変わって、
大福なんか食べて笑ってたりしたら幸せだよな。
欠伸をしながら重たそうに腰を上げて、
キッチンへ向かう背中の向こうから
また一つ大きな欠伸の声。
それって、
プロポーズ?なんて言葉が出そうになって自嘲する。
関係ない、興味ない、ただの形式なんて、
そう思っている時点で
頭の隅ではいつも意識をしているのかもしれない。
なぁ、俺らどんなじいちゃんになると思う?
問いながらも体は寝室へ向かっていて、
休みの日はコーヒー飲んでも眠ぃよなと
また欠伸を一つ。
どうだろねぇ、と返しながら
視界から消えそうになる背中を追いかけた。