"本物"になるための近道なんてない。
道東は手付かずの自然が残る場所。そこには人智を越える自然と対峙する人の営みがあり、訪れるたびに身が引き締まる思いがします。
"本物"に触れることは、自分を高めるには必要不可欠でありながら、そのストイックさに「また大変なことになったなあ」とも思います。
自分を磨くことはしんどい。でも、続けた先にしか得られないものがある。
このnoteは、アドベンチャートラベル界の第一線で活躍する安藤誠さんをはじめとする数名と過ごす中で、自分の基準点がアップデートされた旅の記録です。
旅の舞台は道東・鶴居村
今年3回目の道東。文字通り、北海道の東側で釧路や知床、北見などが含まれるエリアを指します。
そのエリアの中にある鶴居村という場所に、安藤誠さんが経営するウィルダネスロッジ・ヒッコリーウィンドはあります。
釧路で活動を続けるしみたつさん(@watermannemusic)・お世話になっている大瀬良さん(@ryosera_jp)の計らいで、安藤さんのツアーに参加できました。
安藤さんは世界的なアワードも受賞する写真家でありながら、北海道アウトドアマスターガイドとしても活動する方。他にもひと言では括りきれない人ではあるのですが、実際に訪れて自分の目で確かめてみてください。本当にオススメです。
参考:https://hickorywind.jp/makoto-ando.html
9/10~12で行われたツアーで主に行ったことは以下の通り。
・インタラクティブな座学
・ヒッコリーウィンド見学
・隼ウォッチ
・樹齢1000年のミズナラとの対面
・美味しいご飯に舌鼓を打つ
・知床での野生のクマウォッチ(※)
・ウイスキー&音楽談義
・サクラマスの遡上
※クマと会うには適切な準備が必要です。経験豊富なガイドとともに、スプレーなどの装備を怠らず。クマ渋滞と言われる現象もありますが、車を路駐しないようご注意ください。
テキストに起こしてしまうと、表面的になりますが、そのすべてに奥行きがあり、安藤さんの知識の深さや凄みを痛感するのに時間は必要ありませんでした。
数々の動物を見ることができたこと以上に、そこに至るまでのプロセスや全ての物事に対するスタンスの方が印象に残りました。
あなたにとっての"本物"ってなんですか?
この旅に来た理由のひとつが「本物を知りたい」ということ。
安藤さんはこの問いに対して即答。
「本物とは続いていくもの。色褪せずに残り続けるものである」と。
たくさんの物に囲まれて、玉石混交の情報で溢れる世界の中で、どこを基準点に定めたら良いのか。その答えは"本物"にあると思います。
本物に触れ続けて、やがては自分が本物でいられるかどうか。いつまで経っても未完成の人生だと思いますが、腐らず本物を目指し続けられるかどうか、その姿勢を問われているんだと思います。
だからしんどい。だけど楽しい。
僕の中にこれからも残り続けるであろう、新しい基準点が生まれただけでも、この旅は本物であり、僕にとって価値のあるものでした。
・自分がつくるものはすぐに消えるものじゃないか
・この思い出や記憶は色褪せずに残るのか
・目の前の人との関係は死ぬまで繋がるのか
本物は目に見えるものに限ったことではなく、考え方や関係性にも通ずる話なのでした。
目に見えないものはスピリチュアルだけじゃない
「お米ひと粒ひと粒が呼吸できるように握るの」
そう言っておむすびをつくってくれたのは、安藤さんの奥様である忍さん。
僕はその言葉を聞いて、てっきり気(人によっては愛情とか?)を込めてお米を握ることで、美味しいものをつくるという文脈だと捉えていました。
でも、そうではなかった。
忍さんから出てきたのは「この素材をつくってくれた人たちの顔を思い浮かべちゃうのよね」という言葉でした。
自分のもとに渡ってきたバトン(今回でいうとお米や具材)を、そこに渡るまでの思いを汲み取って次に繋げること。その循環を大事にしているからこそ、思いを込められる。
目に見えないものを大切にするというのは、何もスピリチュアルなことではありません。
このお米はどんな思いでつくられたんだろう、ここに届くまでに誰が運んできてくれたんだろう、お米をつくるための機材だって誰かが手をかけてきたものだし、稲作を繋いできた先人たちがいたからこそ、今があります。
そうした循環の中に自分がいること。その中で自分が何を繋げていくことができるのか。そこに思いを巡らすことが、目に見えないものを大事にすることの本質だと思います。
プロの仕事は「誰かのため」
贅沢な体験をコーディネートしてくださった安藤さんも、先のおむすびをはじめ、ご飯をつくってくださったり場を整えたりをつくってくれた忍さんも、そこに携わるスタッフや一緒に場に参加するメンバーも。
根底には、自分が培ってきたスキルを誰かのために発揮するというスタンスがあって、だからこそ最高の時間になりました。
スキルが同じでも、それを誰のために使うかがプロとオタクを分けるものだと安藤さんも仰っていました。
さまざまな経歴を持つ大瀬良さんは、ウイスキーを嗜んだ夜、かつての経験を話してくれました。その内容もさることながら、印象に残ったのは話し始めにありました。
「自分が特殊な環境で、他の方にとっても価値があると思うのでシェアさせてもらうと、〜〜〜」という枕詞。これから話すことはみんなのためであることを象徴する言葉。そんな部分にプロを感じることができました。
同時に思ったのは、まずは自分が還元できるものを身につけなければ始まらない。誰かに還元できるような実践をしていきたいと思います。
"本物"に触れ続ける
旅を終えてから1週間が経ちました。安藤さんからいただいた学びは少しずつ咀嚼されつつ、実践の場に移しています。
どんなにお金を出しても買えないものもある一方で、長く続く"本物"を手に入れられるのなら、今が1番買いどき。ずっと使い続けることができるからこそ、できるだけ長く使った方が良い。
そんな言葉が染み入っている中、昨日訪れたのが犬飼眼鏡枠さん(@inukaiopticalframemanufactory)。
長野県松本市にあるお店で眼鏡のフレームのみを扱っています。いまオーダーすると1年半待ち。そこまで待って欲しくなる眼鏡フレームなんてあるのかしら。
実際に訪れると、犬飼さん本人が接客をしていました。そこで話すひとつひとつへのこだわり。そして、犬飼さん自身の柔らかくてずっしりとした雰囲気。1年半待ったとしても、人がお願いしたくなる理由が分かりました。
素人には分からない微細な角度の調整、素材へのこだわり、より良いプロセスの探求。その姿勢はまさに極めることができないことを極めようとし続ける「道」の在り方そのものでした。
つくり手である犬飼さんは「いつかはレンズもやりたいですけど、今はまだフレームだけでもやりたいことがたくさんありますから」と仰っていました。
金額だけを見ると決して安くはないけれど、その眼鏡フレームを身につけられるのなら、良い買い物。本物に触れ続けるためにお金を使うというのは、今すぐにでも実践できることでした。
コーヒーとウイスキーへの思い
最後に、まだ言葉にしきれていない思いを少し。
コーヒーは文化として浸透しているものの、ウイスキーはまだ多くの人には馴染みのないもの。大袈裟ですが、僕が生まれた理由はコーヒーとウイスキーを通じて、文化をつくるためにあるのではないかという直感があります。
そのためにも、もっと知識を身につけなければならないし、実践を通じて伝えられることを増やしたい。来年にはスコットランドとアイルランドへ足を運び、その魅力や想いに触れたいと思います。
「長く続く 時をつくる」
ただ雑談を交わす場所ではなく、コーヒーやウイスキーを媒介としながら、自分の思いや誰かの思いに触れられる場所。そこで過ごした時間が、未来の自分に長く続いていくような場所。
いつかそんな場所をつくるので、そのときはぜひ遊びに来てください。