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【連詩】無の領域の、いま

(あ)あめ (笠)笠原メイ

(あ)空の皮膜が剥がれやすい季節
涙のように眠る鳥は絶望の匂いを放ち
しずかに目蓋を閉じる感情のかそけさ
壊れていくのが人生なら
これ以上に美しいものは無いのです
壊れた後に響く
その無のかがやく領域に侵入しようとすれば
戸惑ってしまうほどに
そこに無垢な傷を引くためには
おびただしい数の悲哀の微塵を必要とする

(笠)壊れやすいものばかり信じて
ぼろぼろに傷ついた人の手が好きです
目蓋を閉じると流れるメロディは
唇から離れた祈りに似ている
瓦礫に咲いた黄色い花
壜の中に閉じ込められた蝶々
これ以上に悲しいものは無いのです
届かなくて、響かなくて、伝わらない
なぜ死にたいとつぶやくより
生きたいと言う方が苦しいのでしょう

(あ)祈りは水のような目覚めに
あ と口開け
寂しさの中に立ち上がる
(それは希望)
生きたいと呟いた人たちは
影ばかりに体温を委ねるのに疲れ
死は慰みの眼で
あやふやな真実をなぞる
目を開けたまま眠るように
最後まで所有するのは何か
心ではかり続けたものが
言葉に生まれかわろうとしている

(笠)体温に溺れる希望は観念ですらない
少女の足首に刻印された惑星のタトゥー
その星の住民票は非売品
貧者は薔薇の中で窒息死した
死ぬまで未来は未来に過ぎなかった
心ではちゃんと知っている
最後に手放したのが 本当の愛です
亀裂の入った船底に水が沁み込んできて
靴底が濡れる いま

*今回はあめさんとの連詩です。テーマは「壊れる」です。あめさんの筆の力に引っ張られて、撲も真剣に自分の言葉と向き合うことができました。

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Mei&Me(原題:僕と笠原メイ)
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