【詩】ジェルソミーナ
ジェルソミーナの白い唇に
男の魚のような瞳が突き刺さる
盲目の花売りは銀色の笛を吹いた
布切れを引きずる太陽の熱
財布の中身を少し気にしながら
気が触れたように踊り狂った夏も
リップクリームを塗り忘れた冬も
転がる車輪には傷一つなかった
二人は見たこともない映画について語り合った
時には台詞を真似して喋るときもあった
それでもジェルソミーナは
戦争だけが怖かった
古道具屋で買った手帳に書き込む
人が人を傷つける意味ってなにかしら?
南国でパイナップルを買って
失ったばかりの歌で慰め合った
サイダーの中のビー玉
青い熱帯魚に手のひらを重ねて
小さな声で名前を呼び合った
幸せに色も味もなかったけれど
夜は平等に二人を包み込んだ
船着き場で燻らす一本の煙草を分け合い
旅の果てに思いを巡らせるとき
星空は限りなく透明に近くて
愛は体のどこかで脈打っていたんだ
それが凍るまでは一緒にいたけど
男はとうとう最後まで
ミドルネームを教えてくれなかった
波打ち際で記憶は泡になった
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