冷感インナー。トップスからはみ出てみっともない
冷感インナーがすっかり定着しましたね。特に夏に着用する場合、ワイシャツやTシャツの下に使うことが多いかと思います。
しかし、男性用のものはインナーの襟元がトップスからはみ出て目立つものが多いです。女性用のものは襟元がU字型にカットされるなど工夫がみられますが、男性用は一向に改善される気配がありません。
そもそもインナーとして売るなら、性別問わず「中に着るから外から見えないで欲しい」という役割をしっかり果たして欲しいと思うのは私だけでしょうか。
注)主治医はプロダクトデザイナーではありません。UI/UXデザイナーから見た考察となります。
役割
冷感インナーの役割
冷感インナーの主な役割は、ユーザーの体温調節を支援し、快適な着用体験を提供することです。しかし、その役割は機能面だけにとどまりません。ユーザー体験の観点から見ると、以下の要素も重要です。
視覚的な調和
外側の衣服との調和を保ち、違和感なく着用できること。心理的安心感
着用していることを忘れられるほどの自然さを提供すること。社会的適合性
TPO(Time, Place, Occasion)に応じた適切な外見を維持すること。例えば、フォーマルな会食などでは、以下の役割を果たすことが期待されます。ワイシャツに汗染みができることを抑制し、清潔感を維持すること。
抗菌・防臭素材を用いて、汗による雑菌の繁殖を抑え、不快な匂いを軽減すること。
透けを防ぎ、ワイシャツの色を均一に保つこと。
体の動きによるシワを軽減し、常にきちんとした印象を保つこと。
これらの要素は、ドン・ノーマンの提唱する「感性的デザイン(Emotional Design)」の概念に通じます。製品は機能だけでなく、ユーザーの感情にも訴えかける必要があるのです。
課題
現状の男性用冷感インナーデザインには、以下のような課題があります。
視認性の問題
襟元がトップスからはみ出て目立つ。ジェンダーバイアス
女性用に比べて改善が遅れている。ユーザーニーズとの不一致
「見えないで欲しい」という要望が反映されていない。
これらの課題は、ヤコブ・ニールセンのユーザビリティ10原則のうち、「システム状態の可視化(Visibility of System Status)」と「ユーザーコントロールと自由度(User Control and Freedom)」に反しています。
インナーの存在が目立つことで、ユーザーは自身の外見をコントロールする自由を失っているといえるのです。
リスク
このデザイン上の問題が続くと、以下のようなリスクが考えられます。
ユーザー離れ
不満を感じたユーザーが他の製品に移行する。ブランドイメージの低下
「ユーザーニーズを理解していない」という印象を与える。機会損失
男性用インナー市場の成長が鈍化する。
これらのリスクは、「確証バイアス(Confirmation Bias)」によって増幅される可能性があります。一度「男性用インナーは使いにくい」という印象を持ったユーザーは、その考えを支持する情報ばかりに注目してしまうかもしれません。
解決案
この問題を解決するためには、以下のようなアプローチが考えられます。
ユーザー中心設計の採用
実際のユーザーの声を聞き、ニーズを深く理解する。襟元デザインの改善
U字カットや低めの襟など、目立ちにくいデザインを導入する。素材の工夫
より薄く、肌になじむ素材を使用する。
これらの解決策は、人間工学の原則である「ユーザーに合わせたデザイン(Design for the user)」に基づいています。また、ゲシュタルト心理学の「図と地の分化(Figure-ground organization)」の原理を応用し、インナーを「地」として認識させることで、視覚的な調和を図ることができます。
まとめ
冷感インナーのデザイン改善は、単なる製品の問題ではなく、ユーザー体験全体を考慮する必要があります。「見えないインナー」は、まさに「良いデザインは目立たない(Good design is invisible)」というUXデザインの格言を体現するものと言えるでしょう。
製造業者は、ユーザビリティテストやA/Bテストを通じて、より使いやすく、ユーザーのニーズに合ったデザインを追求すべきです。そうすることで、「暑さ対策の救世主」から「おしゃれを底上げする密かな助っ人」へと、冷感インナーの位置づけを進化させることができるはずです。
ファッション業界が女性を主要なターゲットとして商品やマーケティング戦略を展開しているのは、女性が男性よりもファッションに対して積極的に投資する傾向がみられるためだと理解されています。しかし、男性も外見に気を配りたいという欲求を持っています。男性のニーズにより合う製品を開発することは、「より良く見られたい」という男性の潜在的な欲求をニーズとして顕在化させる可能性を秘めているのではないでしょうか。
理想的な冷感インナーとは、まるで忍者のような存在です。そこにあるのに、誰にも気づかれない。そんな「影の実力者」を目指して、製品開発を進めていくべきでしょう。
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