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詰め替えウェットティッシュ。2枚目のティッシュがついてこない

汚れを手軽に拭きとれるウェットティッシュ。皆さんの生活でもよく使われていると思います。

中身が無くなったらケースを再利用し、詰め替えパックを買うのが一般的ですが、中身を入れた後、1枚目をケースの取り出し口へ通すのが難しく、やっと押し込んでも2枚目がついてこないことが多くてストレスを感じます。

この問題、皆さんはどう対処していますか。


注)主治医はプロダクトデザイナーではありません。UI/UXデザイナーから見た考察となります。

役割

ウェットティッシュは、私たちの日常生活に欠かせない便利なアイテムです。様々なタイプがあり、その使いやすさや携帯性などから、家庭やオフィス、外出先でも重宝されています。とりわけケースと詰め替えパックの組み合わせのタイプは、環境への配慮とコスト削減を両立させる素晴らしいアイデアです。

しかし、このタイプはユーザビリティ観点から見ると、改善の余地がありそうです。特に、詰め替え時の「使いやすさ(Ease of Use)」に課題があります。これは、ドナルド・ノーマンのデザインの心理学で言及されている「認知的摩擦(Cognitive Friction)」の一例といえるでしょう。

詰め替えパックは以下の要件を満たすことが期待されるはずです。

  1. 保湿性の維持
    ウェットティッシュの水分を保持します。

  2. 輸送効率
    コンパクトな形状で輸送コストを削減します。

  3. 保管性
    家庭での収納スペースを最小限に抑えます。

  4. 製品の品質保持
    外部からの汚染を防ぎます。

これらの役割は、製品の品質と経済性を確保する上で重要であり、メーカーとユーザー双方にとって価値があります。しかし、これらの要件を満たしつつ、使いやすさとユーザー体験を向上させることが今後の課題となるはずです。

参考:
The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition by Don Norman.
https://www.amazon.co.jp/Design-Everyday-Things-Revised-Expanded/dp/0465050654

課題

詰め替えパックからケースへの移し替えの際に、まず1枚目のティッシュを取り出し口に通す作業が困難であるという課題があります。

これは、ヤコブ・ニールセンのユーザビリティ10原則の中の「柔軟性と効率性(Flexibility and Efficiency of Use)」と「エラー防止(Error Prevention)」に反しているといえます。

また、2枚目以降のティッシュが続かないという問題も、「一貫性と標準化(Consistency and Standards)」の原則に反しています。ユーザーは、1枚取り出したら次のティッシュが出てくることを期待しているからです。

この問題はときに、「フラストレーション耐性(Frustration Tolerance)」を超え、ユーザーにストレスを与えています。心理学における「学習性無力感(Learned Helplessness)」につながる可能性もあります。これは自分の行動が結果を伴わないことを何度も経験していくうちに、やがて無意味だと思うようになる状態のことを表します。

参考:
ユーザビリティ10原則
https://www.nngroup.com/articles/ten-usability-heuristics/
学習性無力感
https://www.verywellmind.com/what-is-learned-helplessness-2795326

リスク

この問題を「やむを得ない」として放置することには、以下のようなリスクがあります。

  1. ユーザー離れ
    不便さにフラストレーションを感じたユーザーが、他の製品に乗り換える可能性があります。

  2. ブランドイメージの低下
    製品の使いづらさが、ブランド全体の評価に影響を与える可能性があります。

  3. 環境負荷の増加
    詰め替えの難しさから、使い捨て製品を選ぶユーザーが増える可能性があります。

  4. 確証バイアス(Confirmation Bias)
    一度使いづらいと感じた製品は、その後も否定的に評価されがちです。

参考:
確証バイアス(Confirmation Bias)
https://www.verywellmind.com/what-is-a-confirmation-bias-2795024

解決案

現状の製品で様々な改善が施されているにも関わらず、一向に改善されないことは、解決が極めて困難であることを示唆しています。人間中心設計(Human-Centered Design)のアプローチから解決案を考え、優先順位をつけて考えてみましょう。

  1. 取り出し口の改良(最優先)
    取り出し口の形状を、ティッシュが詰まりにくい設計に変更する。2枚目が付いてこないのは、乾燥などを防ぐために取り出し口の開口部が窮屈に設計されている、また詰め替えパックのロール状圧着の強さが要因と考えられるからです。これは「エラーからの回復(Error Recovery)」を容易にします。

  2. ガイド機構の導入
    ケース内部に、1枚目のティッシュを取り出し口へ誘導するガイドを設置した上で、詰め替えパックの1枚目に小さなテープやひものようなアタッチメントをつける。これは「アフォーダンス(Affordance)」の概念を活用しています。

  3. 詰め替えパックの改良
    パックの開封部分を、ケースの取り出し口に直接接続できる設計にする。これは「エフィシエンシー(Efficiency)」を向上させます。

  4. ビジュアルガイド
    ケースに詰め替え方法を示すピクトグラムを付ける。これは「認知的負荷(Cognitive Load)」を軽減します。

  5. インクリメンタルイノベーション
    これら解決策を施したうえで、圧着度を少しずつ緩和し、最適なバランスを探る。

人間工学的には、手の大きさや力の強さに関わらず、誰もが簡単に操作できる設計を目指すべきです。これはユニバーサルデザインの考え方に基づいています。

これらの解決策を実装する際は、以下の点に注意が必要です。

  • ユーザーテストの実施
    各改善策の前後でユーザーテストを行い、実際の効果を測定することが重要です。

  • コスト面の考慮
    改善策の実装コストと長期的な利益のバランスを取ることが必要です。

  • フィードバックループの確立
    ユーザーからの継続的なフィードバックを収集し、製品を改善していく循環的なプロセスを構築します。

  • 共創(Co-creation)の促進
    メーカーとユーザーが協力して問題解決に取り組む「共創」のアプローチを採用することで、より効果的な解決策が生まれる可能性があります。

これらの取り組みにより、ユーザビリティとユーザー体験の向上が期待でき、結果として製品の競争力強化にもつながるでしょう。

参考:
アフォーダンス
https://www.interaction-design.org/literature/topics/affordances
ユニバーサルデザイン
https://universaldesign.ie/What-is-Universal-Design/

まとめ

ウェットティッシュの詰め替え問題は、一見些細に見えますが、ユーザビリティとユーザー体験の観点から見れば大きな課題といえます。製造上の制約は存在しますが、「やむを得ない」として放置せず、継続的な改善を目指すべきでしょう。ユーザビリティと製造効率のバランスを最適化することが、製品の競争力向上につながります。

この問題解決プロセスは、他の日用品のデザイン改善にも応用できます。デザイン思考のアプローチを用いて、ユーザーの潜在的なニーズを探り、革新的な解決策を見出すことが可能です。

日常の小さな不便の改善が、大きなイノベーションにつながる可能性があります。ウェットティッシュの詰め替えが簡単になれば、使い捨て製品から環境に優しい選択への移行を促進できるでしょう。この課題は、製造者の継続的な努力と消費者のマインド変革が相まって初めて解決できる、「共創」の好例といえるものになるはずです。

最後に、ドナルド・ノーマンの言葉を借りれば、「良いデザインは問題を解決し、優れたデザインは問題を予防する」のです。ウェットティッシュの詰め替え問題を解決することで、私たちは日常生活の質を向上させ、同時に持続可能な未来への一歩を踏み出すことができるのです。

参考:
デザイン思考
https://www.interaction-design.org/literature/topics/design-thinking


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https://archvision.jp/

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