豊かさはちょっとした違いのなかにある
豊かさというのはちょっとした違いのなかにあるものなのだなあと思います。
これだけ読んでもなんのことか分からないですよね…
たとえばワイン。
あまり興味がない人にとっては(自分もそうですが)、せいぜい赤ワインと白ワインの違いがあるだけで、たとえばカリフォルニア産とイタリア産の違いと言われたところで、どっちもワインじゃないかぐらいの感慨しか持たないと思います。
ところが、デパ地下なんか行くと、ひとつのショップ丸ごとワインみたいな売り場なんかに、もうクラクラするぐらいいろんな種類があって、興味がないものにとっては分からない差異であっても、その差異を楽しむ人はとても多いのだなあと圧倒されます。
ワインについてはてんで分からない自分ですが、なんというか、細かな差異を楽しむ気持ち、そしてハマってしまうその気持ち、自分も分かるんです。
というのは、昔ウイスキーにのめり込んだことがあったんです。
はじめのうちは、ウイスキー味としか思わないんですよ。でもたとえば苦味があるウイスキーを飲んだら、こないだ飲んだのはすっきり甘い、と気づくわけです。さらにほかの甘いウイスキーも飲んでみると、ああこの甘さは強めでハチミツっぽいな…と、いろんな種類を試せば試すほど、味の輪郭がはっきりしてくるんですよね。
もうその楽しさに気付いたら止められない。柑橘系あり、ミント系 あり、スパイシーなのもあれば、塩っからいのまで…ウイスキーとひとことで言っても、銘柄ごとに全部異なる味わいがあって、その度にますます輪郭がはっきりし、そして驚くことにますます美味しく感じられるようになる…この状態を「豊か」と呼ぶんじゃないかと自分は思います。
ワインはきっと、ウイスキーほどその違いがはっきりしていないと思います。はちみつやオレンジに例えられるのを聞いたことないですし、塩っからいワインなんて罰ゲームしか考えられません。
恐らくワインの味の差は、微差というほどの、きっともっと繊細な違いなのではないでしょうか。
だからなかなか取っ付きづらい。
だけど、一度その微差の奥行きに気付いてしまったら、かえって微差だけに、どんどん深みにはまっていってしまう気がします。
なんというか、微差だからこそ、舌で転がすなど積極的により味わわなければならず、積極的に味わって美味しいと感じたときの喜び、さらにその微差を表現し、共有できたときの喜びはひとしおなんじゃないかと思うんです。
ワインの表現で「濡れた子犬の匂い」なんて笑い話によくでてきますけど、テーブルを囲んで、この表現で微細な違いを共有しえた人たちの喜びは、きっととても大きかったんじゃないでしょうか。
ワインの膨大な量と種類、ワイン好きな人々の尽きない味の追求。それらを考えあわせると、きっと自分のウイスキー体験と同じく、ワインにおいても、味の輪郭がはっきりするにつれ益々美味しくなる豊かさを味わっているに違いないと思います。
そしてさらに想像を広げると、グルメにおいても同じことが言えるんじゃないでしょうか。
料理の味のわずかな差を追求することで、ますます美味しく感じ、さらに豊かさを求める好循環がやっぱりグルメにも当てはまると思います。
そして、きっと、
お酒や料理だけじゃなく、
人生全般において、
豊かさはちょっとした違いとその多様性のなかにこそある…
自分はそう思います。
「違いが分かる男」なんて言われるように、違いが分かることが尊ばれるのも、皆さんがこの豊かさの秘密に気づいてるからじゃないかと思ったりします。