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全て裏目に出た教員免許更新制
以前は、教員を続けたかったら3万円を自腹で払って大学で免許更新をしなければ免許失効・失職に追い込まれるのが教員でした。令和の今では逆に、教員免許が無くても免許取得が補助してもらえ、経験がないペーパーティーチャーが歓迎され、さらには一芸に秀でていれば誰でも特別免許状で教員になれる時代になりました。一体数年で何が起きたのでしょうか。原因となった教員免許更新制について振り返ってみます。
教員免許更新制に至るまで
教員免許更新制の導入が決まったのは2006年です。文部科学相の諮問機関、中央教育審議会が導入を提言しました。しかし、教員免許更新制というアイデアはいきなり湧いて出てきたわけではありません。2007年実施に至るまでに長い歴史があるのです。以下に、これまでの経緯を載せます。
●1980年代初め
自民党より『免許をとっても教員にならないペーパー教員の免許を失効させるべき』との意見が出る。しかし、導入を求める声は主流にはならず、時が過ぎた。
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●2000年
自民党より『不適格教員を退場させる仕組みとしての免許更新が必要だ』との訴えが積極的にされるようになる。子どもの学力低下、いじめ、不登校などの教育問題が頻繁に報道されるようになり、その理由を『不適格教員』の存在や『教員の質の低下』だとして自民党は教員バッシングを頻繁に繰り返すようになった。
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●2007年
安倍政権では教育現場への介入姿勢を強め、不適格教員排除のための教員免許更新制導入を掲げて教育職員免許法及び教育公務員特例法を改正した。しかし、不適格教員の排除はあからさまに制度化はできないため、『教員の質の確保策』との趣旨になった。
教員免許更新制の皮肉
今では現場はペーパー教員頼みに
教員免許更新制は結果的に教員の多忙化に拍車をかけることとなりました。30時間の講習受講は教員から休日を奪い、更新にかかる費用3万円は教員の自腹でした。
また、同時に教員への締めつけから教育現場のブラック化が進んでいました。結果、教員採用試験の倍率低下や、精神疾患等による休職者の増加による教員不足が発生し、今では公立学校教員の欠員や未補充が相次いでいます。その欠員や未補充を埋めるために、自治体は『ペーパー教員』を臨時教員のなり手として必死に探しています(各地でのペーパーティーチャーセミナー)。排除しようとしていたペーパーティーチャーに必死に頼み込まないといけなくなるなんて、なんという皮肉でしょうか。
教員免許の価値の低下に
多忙化・労働環境悪化から教員免許を持つ志願者が減った、更新されなかった教員免許が失効していると思い込んでいる人が多い、長時間労働やどうせ教員免許が失効するならなどの理由から教員免許を取得する人が減った、など教員免許更新制により教員のなり手は減少することとなりました。
なり手不足に危機感を抱いた文科省は、特別免許状の積極活用を打ち出しました。特別免許状とは、教職課程で学ばずに教員免許をもたない人へ特別に授与することのできる教員免許状です。今まで理科の科目の博士号取得者に特別免許状が授与されてきましたが、つい先日にはアスリートにも積極的に特別免許状を授与し教員として追加枠で採用する方針を文科省は打ち出しています。一方、大学等での教職課程で学んで膨大な単位を取得することでえられる教員免許状は普通免許状です。こちらが学んで単位を取得して得られる教員免許状です。
免許更新制で資質向上や教員免許状の価値を高めようとしていたのに、最終的には教職課程で学んでいない人に特別免許状を積極授与せざるを得なくなりました。結果、教員の質への疑問が投げかけられるようになったり、普通免許状の価値がむしろ低下したりする結果になりました。これも皮肉でしょう。
まとめ
教員免許更新制は不適格教員の排除など、政府による教員バッシングが元になって制度化されました。名目上は、教員の質や教員免許状の価値向上だったようですが、皮肉にも真逆の結果となって十数年後に公教育に影響を与えることになりました。そして、ついには廃止へ至りました。20年弱の愚策の傷跡は、今まさに公教育を崩壊へと向かわせています。
引用文献
教員免許更新制が廃止に!? ~安倍内閣による制度誕生から問題点までhttps://imidas.jp/mikata/?article_id=l-60-020-21-07-g600