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教員不足対策〜これまで・これから〜

日本の教育現場は、かつて経験したことのない教員不足に直面しています。NHKの調査によると、2024年度5月の時点で1808人の教員不足が発生しており、9月の時点では589人増え2397人と、年度の途中で1.3倍にまで拡大しています。クラスを合同にして授業をしたり、教頭が担任をするなど、子どもへの影響が生じています。

そこで、教員不足対策を振り返ってみます。果たして、実行力のあるものはあったでしょうか。また、実行力のある対策は今後行われるでしょうか。


これまでの対策:実効性は?

①魅力・やりがい発信

自治体によって、各地で積極的に魅力・やりがい発信は行われています。対象は大学生のみならず、高校生へ教員の魅力・やりがいを伝えて教員を目指して大学へ進学を促す取り組みもあります。しかし、重要な労働環境の改善から目を背けるだけで、結果として教員志願者数の増加にはつながっていないケースが多いです。

②教員採用試験実施時期の前倒し

民間の採用と競い合うため、教員採用試験の実施時期の前倒しを文科省が後押ししています。前倒しをした結果、多くの自治体で受験者が減少したり採用予定者数に合格者数が届かなかった定員割れが発生したりする自治体も出始めました。効果は表れていません。

③大学3年生での前倒し受験

まだまだ大学で勉強途中で免許取得見込みのない学生でも、前倒しで教員採用試験を受験することができるようになりました。受験の負担を軽減し、より多くの志願者を確保することが狙いです。気軽に受験できるようになり、受験者数の増加には繋がっています。ただ、採用まで至っているかは不明です。

④ペーパーティーチャー発掘

非正規採用の臨時講師に興味を持ってもらうため、教壇にたった経験が乏しいものの教員免許を持つ人材、いわゆるペーパーティーチャー発掘に自治体は力を入れています。文科省は、ペーパーティーチャーは免許更新制度導入前の04年度時点で、少なくとも約415万人いたと推計しており、教員不足解消策として大きな期待が寄せられています。その一方で、ペーパーティーチャーは産休育休代替の非正規の穴埋め要因です。今の安定した給与を捨てて、わざわざ低賃金の非正規教員になる人は少ないのが現状です。

⑤教職教養など受験科目の廃止

教員としての専門知識を問う教職教養など、教員採用試験の受験科目は廃止される傾向にあります。中には、特別選考で面接のみという形式もあります。教員志願者の負担を減らし気軽に受験してもらうことで、減少傾向にある採用試験志願者を確保するのが狙いです。しかし、教員採用試験受験者数は減少傾向が続いています。

⑥教員免許なしでも採用

教員確保の大きなハードルは教員免許です。自治体の中には、教員免許をもたずとも、教員として正規採用をするところが現れ始めています。合格者には特別免許状が授与されたり、通信制大学などで採用後に教員免許を取り教員として働くことができる『後から免許』制が適用されたりします。門戸を広げ、多様な人材を集めることができる一方、教員の粗製乱造になると指摘されています。

⑦五輪アスリートへ免許授与

五輪経験者や実績のあるアスリートに、特別免許状を授与し教員になってもらう取り組みです。必ずしも教育について学んでいなくとも、特別免許状は一芸に秀でている人材に授与することができます。また、一生有効な教員免許です。五輪アスリート教員には一定の需要はあると思われるものの、教員の待遇改善が先ではないか、などの批判も大いにあります

これからの対策:効果はある?

⑧教員免許の教職単位、大幅削減

教員志願者確保のためには、免許取得者を増やすことが必須です。そのため、教員免許取得のための単位数を大幅に削減し、負担を軽減する案が検討されています。しかし、教育についてあまり学ばなくても教員免許が楽に取得できるようになるため、質の確保が課題となりそうです。

⑨教員の処遇改善

教員の仕事は多岐にわたり勤務時間の線引きができないとして、給特法によって残業代を支払わない代わりに一律で月給の4%を上乗せすることになっています。しかし、残業代を支給しないことが独り歩きをして、業務だけが膨大に膨れ上がった結果、多くの教員は月の残業上限45時間を大幅に超えて働いています。中には過労死ライン80時間超えの教員も珍しくはありません。

そこで、給与と労働時間が見合っていないとして、給与の上乗せ分を4%から引き上げることが検討されています。しかし、文科省案と財務省案で大きな食い違いが生じています。また、教員の働き方改革や業務削減については見通しが立っていない状況です。いつ待遇改善案が実行されるかは不透明です。

まとめ

かつて『教員は高度専門職である。学部卒では不十分。教員の修士化を』と言われていました。現在はその面影はどこにもなく、教員不足対策は短期的な数の確保に重きを置いている状況です。しかし、長期的には教員の質の向上と職場環境の改善は欠かせません。

教員の質の確保という話は一体どこへ行ったのかと思うほどの方向転換になっていることに驚く方は多いでしょう。それほどまでに、公教育は教員不足が深刻なのです。教育は人なり、と言われます。未来を担う子どもたちを育むには、それを担う教員を使い捨て・働かせ放題にするのではなく、大切にすることが必要ではないでしょうか。

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