友人は宝
私の人生において、宝と呼べるのは友人くらいのものだ。
友人は私に多くの幸福を与えてくれる、かけがえのない存在だ。もっと欲しい。
しかし、自分で言いながらもどうかとは思うが、私は付き合う友人を選んでいる。
まあ、その基準はとてもシンプルなものではあるが。
私は水平線を見た事がない人間が嫌いだ。
彼らは世界がどこまでも続いている事を知らないし、この星が丸い事も知らない。汚れてくサンゴも知らない。
「答えを聞かれても分からない。」
そういう連中だ。
それゆえ、どれだけ人間性に優れていようと、どれだけ私と趣味嗜好が同じであろうと、水平線を見た事がない人間とは友人にはなれない。
島人とは高確率で友人になれる。海近いから。
そんな私には、忘れられない出来事がある。
それは私が居酒屋でひとり、酒を嗜んでいだ時のことだ。隣の卓に同年代くらいのサラリーマンが同じく一人呑みをしていた。
私はなんとなく彼が気になった。
それは彼も同じだったようで、きっかけは覚えていないが私たちは意気投合し、好きな音楽や映画の話に花を咲かせたのだ。
酔いもかなり回ってきたところで、私は念のため、彼に質問をした。
「ごめん。いきなりだけど、水平線って見たことある?」
彼はキョトンとして、こう答えた。
「すい……なに?分かんない。扁桃腺の従兄弟?」
この時はまだ、彼なりの冗談なのかなと思って私も笑っていたのだが、
「水平線だよ。ほら、海の。」
「うみ??ん?何の話?うみってなに?」
彼は真剣な面持ちで私に問いかけている。
驚いたことに、彼は水平線を見た事がないのはおろか、海すらも知らなかったのだ。
呆れた私は、「あ、もういいです。」と席を立ち、勘定をするために店員を呼んだ。
「ちょ、ちょ、どうしたの突然!?待ってよ、うみって何なの?それだけでも教えて!?
なんか……大っきい水溜まり……いやそんなわけないか。ねえ、うみってなに!?」
ちょっと正解なのが余計に私の癪に触り、私は彼を徹底的に無視して店を出た。
彼とはそれきりだ。
後にも先にも彼ほど気の合う人はいないだろう。そう思わされるほど彼とは波長が合った。
だが、水平線を見た事がなかったゆえに彼とは友情を築けなかったのだ。
あと海を知らないのは普通に変な人だからそこも嫌だった。
私は未だにあの時のことを悔やんでいる。
彼がもし、水平線を見た事があったのなら、海を知っていたのなら、私たちは友人を超えた存在、親友になれたのではないかと。
友人は私の宝だ。
ゆえに私はトレジャーハンターのように宝(友人)を集めまくっているわけだが、親友はまだ手に入れた事がない。
いつの日か、手に入れたいものだ。
その黄金の輝きは、あの水平線にキラキラと反射する光の粒のように美しいに違いないのだから。
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