若者が冒険する組織とは?「働きやすさ」と「働きがい」の両立が冒険を民主化する
こんにちは、国際自然環境アウトドア専門学校(i-nac)の田辺慎一です。
私は日々、多様な学生や人々と接しながら「学びとは何か」「人が成長するとはどういうことか」を考えています。その中で強く感じているのが、今の職場や組織において「働きやすさ」と「働きがい」のバランスが崩れているということです。
成果主義や効率性が優先される一方で、「人間らしさ」が見失われがち。特にVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代において、この状況が若者の挑戦(冒険)や成長、そして組織全体の未来を阻害しているのではないかと感じています。
そこで、この記事では、私たちが実践している「チームワーキング」と「共同体意識」を統合した研修の考え方を通じて、現代社会に必要な冒険する職場づくり・組織づくりについて考えてみたいと思います。
*本文は、「冒険(越境)」をテーマとした下記の記事の連作です。
「働きやすさ」と「働きがい」を構成する4つの欲求
私たちi-nac研修事業部が「働きやすさ」と「働きがい」を考える際に、基盤としているのが4つの欲求です。これらの欲求は、人が職場で求める基本的なニーズを端的に表しています。生存欲求と関係欲求が満たされることは、「働きやすさ」を支える根幹です。この基盤が揺らぐと、挑戦や創造性といった働きがいを追求することは難しくなります。
生存欲求
安定した収入や適切な労働条件を求める、物理的な働きやすさ。
関係欲求
同僚や上司との良好な人間関係、心理的安全性。
成長欲求
自己成長や能力の発揮、スキルアップ、新しい挑戦の機会。
貢献欲求
自分の仕事が社会や他者に貢献しているという実感。
これらの欲求はピラミッドのように積み重なり、下位の欲求(生存欲求・関係欲求)が満たされて初めて、上位の欲求(成長欲求・貢献欲求)に挑戦できるというのが私たちの仮説です(4つの欲求はマズローの欲求説とリンクしています)。ほかに「自由欲求」も含めていますが、これはまたの機会に。
*上記の4つの欲求については、下記の書籍も参考になります
*モチベーションの内容理論も参考まで。
働きやすさがなければ、成長や貢献には至らない
この4つの欲求の中で、「働きやすさ」に深く関わるのが生存欲求と関係欲求です。
これらが満たされて初めて、成長欲求や貢献欲求といった「働きがい」に冒険(チャレンジ)できるというのが私たちの仮説です。
例えば、適切な労働条件(生存欲求)が整っていても、職場の人間関係がギスギスしている(関係欲求が満たされない)場合、挑戦や創造性を発揮するのは困難です。
「安全・安心なホーム(働きやすさ)」が整っているからこそ、人は新しい冒険に踏み出しやすくなると言えるのではないでしょうか。
安全・安心なホームの鍵は、関係欲求(人間関係)
近年、「働きやすさ」を求める生存欲求に関しては、働き方改革の進展によりある程度の対応が進んでいます。例えば:
長時間労働とワークライフバランスの改善
働きやすい制度(有給休暇義務付け、育休改革など)や福利厚生の充実
リモートワークの導入
これらの施策により、多くの企業で物理的な「働きやすさ」が整えられつつあります。しかし、「関係欲求」に関しては、まだ十分な解決には至っていないのが現状です。
多くの職場では、1on1面談やコーチング、エンゲージメントサーベイ、ハラスメント研修、アンガーマネジメント講習などの取り組みが行われていますが、これらは対症療法的であり、本質的な課題解決にはつながりにくいと感じています。部分的・局地的に火消しを行っても、「恐怖のもぐら叩き沼」にはまり疲弊する一方、というのはあるあるですよね。
私たちが提案するのは、「働きやすさ」の中でも関係欲求の充足に着目し、それをチームや職場全体で育むアプローチです。そのカギとなるのが共同体意識です。
「共同体意識」の力とは?
共同体意識とは、「私は一人ではない」「私たちはつながっている」「困っていたら助け合う」という感覚を指します。これに似た概念は、多くの研究や理論、書籍、動画で語られています。例えば:
われわれ意識(社会学ベース:経営リーダーのための社会システム論)
We感覚(Z世代の社員マネジメント)
コミュニティシップ(経営学ベース:ミンツバーグの組織論)
帰属意識(ダンバー理論ベース:「組織と人数」の絶対法則)
組織効力感(YouTube動画「Z世代がたった数年で会社を見切る理由」)
これらが示すように、共同体意識はチームや組織における心理的安全性や信頼感を支える「人間関係の基盤」となります。この意識があることで、職場が単なる作業の場ではなく、「みんなで冒険・貢献できる場所」へと変わります。
エコノミーとヒューマニティの両立へ
現在、多くの職場では「エコノミー(成果主義、目標達成、事業マネジメント)」が重視される傾向にあります。具体的には、以下のような指標に重きが置かれます:
数値目標の達成
効率性の最大化
事業全体の生産性向上
これ自体は非常に重要な要素です。しかし、こうした成果主義の強調が、「ヒューマニティ(人間らしさ)」を損なうことも少なくありません。心理的安全性が失われ、人間関係が希薄になることで、以下のような課題が生じています:
従業員エンゲージメントの低下 日本は国際比較で従業員エンゲージメントが最低水準。目標達成への意欲が低迷しています。
孤立感の増大 職場の分断が進み、コミュニケーション不足やサイロ化・孤立化が顕著になっています。
イノベーションの阻害 信頼関係が構築されていない環境では、多様な視点やアイデアが生まれにくくなります。
一方で、「ヒューマニティ(人間らしさ)」を重視するだけでは、成果を求める職場環境ではバランスを欠くことがあります。
私たちの研修では、この両立(バランス)を可能にするアプローチとして、「共同体意識」の再生を組み込んでいます。
PM理論が示す「Pm型」のリスク
この共同体意識を重視する背景には、PM理論の観点もあります。
PM理論では、リーダーシップを「P:目標達成機能」(Performance)」と「M:集団維持機能」(Maintenance)」の2つの側面から捉えます。理想的なリーダーは、この2つを高いレベルで実現する「PM型」です。
しかし、多くの職場では、Pに偏った「Pm型」のリーダーシップやマネジメントが主流となりがちです。成果を追求するあまり、心理的安全性や人間関係が犠牲になる状況です。これが、従業員エンゲージメントの低下や人材流出の一因になっています。
「チームワーキング」だけでは足りないのか?
「チームワーキング」は、共通の目標達成をめざすチームへの強力なアプローチです。私たちの研修でも、次の3つのOSのインストールを重視しています:
チーム視点 チーム全体を俯瞰・メタ認知し、最善の行動を考える視点。
全員リーダー視点 特定のリーダーに依存せず、全員がリーダーシップを発揮する視点。
動的視点 チーム状況の変化に応じて、柔軟に対応するレジリエントな視点。
しかし、これだけでは人間関係が悪化するリスクがあります。P(目標達成)が先行し、M(関係欲求)が損なわれる状況を防ぐためには、「共同体意識が有効」と私たちは自分たちの職場での「ド痛い」実体験を通して学びました。
i-nac研修が目指す統合的アプローチの実績
私たちの研修では、チームワーキングと共同体意識がともに向上することを目指しています。このアプローチがどれほどの成果を上げているのか、その実績をお伝えします。
研修転移91%! 研修1カ月後に「チームワーキング」の学びを活用した割合が一般的な研修の9倍に(注:「厳密な比較」ではありません)。
共同体意識の向上 共同体意識(所属感・信頼感・貢献感)およびチーム意識・行動のすべての評価項目が、研修後に向上。
未来への提言:「人間らしい成果」を生み出すために
これからの職場に求められるのは、「働きやすさ」を基盤に、「働きがい」へ挑む組織への変革です。エコノミー(成果主義)とヒューマニティ(人間らしさ)を両立する2つの概念「チームワーキング」「共同体意識」が、人間らしい成果を生み出すチームへの有効なアプローチの一つになると信じています。
最後に:
冒険には仲間が必要です。皆さんの職場やチームが、挑戦と成長を共有できる「冒険する組織」へと進化することを心から願っています。
i-nac研修が提供する学びにご興味があれば、ぜひご連絡ください。ともに「働きやすさ」と「働きがい」を育む「冒険する職場・組織」を目指しましょう!
最後まで読んでくれたみなさまへ:
この記事が、みなさんの職場やチームをより良いものにするヒントとなれば嬉しいです。この道なき道を探究する仲間として、ぜひみなさんが感じたことをコメントやシェアで共有いただけたら幸いです。