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違いを強みに変えるキャリア戦略:ニューロダイバーシティの視点から(2)

2. ニューロダイバーシティがキャリアに与える影響

 ニューロダイバーシティの特性を持つ方々は、独自の視点や才能を備えています。しかし一方で、職場でのコミュニケーションや業務の進め方で困難を感じることも少なくないかもしれません。
 自分の特性を理解し、受け入れることは、キャリア形成における重要な土台になり、自分らしく力を発揮するための第一歩となります。

なぜ、今までの社会や職場ではニューロダイバーシティの特性が活かされなかったのか

 20世紀型の組織運営においては、規模の経済を実現するために、効率性と標準化が至上命題とされてきました。企業の成長と経済発展が目指される中で、画一的で効率的な手法が求められ、多くの人が同じスキルやプロセスを身に付けることが重視されてきたのです。確かに、この画一的なアプローチは有効であったことは否めません。

 その結果、ユニークな視点や異なる思考パターンはむしろ「障壁」と見なされることになり、ニューロダイバーシティの特性を持つ方々にとっては、自己を活かしにくい環境が長らく続いてきたのです。

 また、組織にとっても、多様な思考パターンや独自の視点は「効率の障害」として排除してきました。結果として、組織は重要な人材価値を見落としてきたと言えるでしょう。

ADHDとASDの特性の評価
 
さらに、ADHDやASDといった診断は、医学的な基準に基づいて行われるため、「特性が仕事にどのように貢献できるか」という職場や仕事への適応力の視点が欠落しがちでした。
 このため、組織においてもADHDやASDの人材の評価も医学的観点のみで行われ、ビジネス価値や可能性の視点が見過ごされていたと言えます。
 これらの背景により、組織における人材の多様性を阻害する要因ともなり、従来の組織では特性を活かす文化が醸成されにくかった要因の一つと言えるでしょう。

ADHD(注意欠如・多動症)
 ADHDの特性を持つ方は、注意力を持続することが難しく、多動性や衝動性を伴うことがあります。例えば、複数のタスクを同時に進める際に集中力が途切れやすく、計画的に物事を進めるのが難しいことがもあります。
 しかし一方で、好奇心や想像力が豊かで、興味のあることに対しては深く没頭できる力を持っています。新しいアイデアを次々と生み出す能力に優れており、発想が自由であるため、創造的な分野で大いに力を発揮します。
 起業家や発明家、またアーティストなどでも先駆的な活動を行う人達に、この特性を持つ方が多いのも頷けるでしょう。

ASD(自閉スペクトラム症)
 ASDの特性を持つ方は、社会的なコミュニケーションや対人関係の調整が難しい場合があります。例えば、会話での暗黙のルールを理解するのが難しかったり、集団での作業で苦手意識を持つことがあるかもしれません。
 しかし、特定の関心分野(自分の興味関心が集中する分野)に対しては、とても強い集中力を持ち、細部にまでこだわり、ルールやパターンを見つけ出す力に優れています。そのため、高度な品質管理や分析、データ処理といった分野で卓越した能力を発揮します。
 研究者やデータサイエンティスト、独自の世界観を表現する芸術家などに個の特性を持つ人が多いと言われています。

特性を強みとして活かす重要性

 こうした多数派の人と異なる特性は、これまでの社会では「弱み」と捉えられていました。しかし実際には、環境や役割次第で、十分な「強み」として輝く可能性を秘めています。
 大切なことは、こうした自分の特性を正しく理解し、それを活かせる環境や働き方を見つけることです。
 画一的で同質性を求める社会では異端と見られがちであった特性も、適切な役割と環境が揃えば、他にはない、光り輝く素質なのです。
 しかし、これからの変革が求められる時代、ニューロダイバーシティの特性は、イノベーションの起点となる力を発揮する大きな可能性を秘めています。

職場環境の影響

 職場の文化や環境は、こうした特性がどのように発揮されるかに大きく影響します。柔軟な働き方を許容し、多様性を尊重する職場では、ニューロダイバーシティの特性を持つ方がその才能を存分に活かすことができます。
 たとえば、リモートワークやフレックスタイム制の導入は、自分のペースで仕事を進める上で大きな助けとなり、ストレスを軽減します。

 一方で、画一的な働き方やコミュニケーションスタイルが求められる職場では、その特性が理解されにくく、ストレスや不安が増えることもあります。
 そうした場合には、自分に合った環境を探すことや、職場内で特性についてオープンに話し、周囲の理解を求めることも一つの方法です。

キャリア選択の可能性

 また、ニューロダイバーシティの特性を持つ方々は、特定の分野で際立った能力を発揮することが多くあります。たとえば、創造的なアイデアを生み出すのが得意な方は、デザインや企画、研究開発などの分野でその才能を活かすことができます。また細部への注意力が高い方は、品質管理やデータ分析、数字の正確さを求める会計などの分野で力を発揮しやすいかもしれません。

 ニューロダイバーシティの方々が自分の特性に合った職種や環境で働くと、満足感や達成感が高まります。これが長期的なキャリアの成功につながるのです。
 そして、自分の特性を活かすように選択していくキャリアは、単なる「仕事」を超えて、自分らしく生きるための「ライフワーク」としての意味へと変わっていくでしょう。


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