学校に「紙の本」は必要か①本が買えない学校
熊本市の学校は本が買えない?
熊本市の小中学校の図書購入予算は、他都市に比べるとやたらに少ない。
そんな事実に気付いたのは2022年の夏頃でした。教員や司書の方と話すと、どうも地元の学校業界では周知の事実らしい。
というか、学校の図書購入費って、全国どこの自治体も同じようなモノじゃないの?そんなに違いがあるの?
というわけでいろいろ調べた結果、入手したのが次の資料です。
これは政令市の教育委員会の予算担当者の会議で示された資料をもとにしたもの。なので神戸市のように未回答だった自治体は「未記入」となっています。実は各市の予算書を見てもわからないことが多い上に教育がらみの予算は教えてくれないことが多いので、こうした資料はなかなか貴重です。
ただ、この表だけでは実際に学校1校あたりどれくらい予算を貰っているのかはわかりません。ひとくちに政令指定都市といっても学校の数は全然違いますから。それぞれの教育委員会に問い合わせて、2022年度の公立小学校と中学校の数を確認。その数で予算を頭割りすると、1校あたりの予算がわかります。
その結果をグラフ化したのが次の図です。
学校の「本を買う余力」はこんなに違う
熊本市は、政令指定都市の中ではダントツの最下位。トップの川崎市と比較すると6倍、全国平均と比較しても3.5倍の差がありました。
といいますか、「図書購入費」というのは全国一律の基準があるわけではなく、こんなにも差があるものなのかということに驚きました。熊本市の6倍ということは、川崎市の小学校は熊本市の小学校の6年分、つまり熊本市の学校の児童が入学してから卒業するまでの本を1年で買っているということですよ。
熊本地震が載っていない熊本市の小学校の百科事典
実際に熊本市の小学校の図書室を訪ねてみました。明るくてきちんと整備されていて、畳のスペースなんてのもあったりして、とても快適です。
しかし、表紙や背表紙を修繕テープで直したり、マジックでタイトルを手書きしたりした本がかなりありました。
ちなみに私(57歳)が子どものころ愛読したローラ・ワイルダーの「大草原の小さな町」もちゃんと図書室にありましたが、これもマジック手書き組。この本、奥付を見ると1970年代で、「ひょっとしたら私が読んだのと同じ版では?」という疑問が湧きました。
さらに驚いたのが子ども向けの百科事典です。「地震」の項目をみてみると、日本の地震の例として載っているのが「阪神淡路大震災」「新潟中越地震」。7年前の熊本地震も11年前の(取材当時)東日本大震災も載っていません。熊本の小学校なのに。
実はこの百科事典、数年前に改訂版が出ていて、そちらには熊本地震もちゃんと載っているのですが、1セット10万円以上します。図書の年間購入予算が1校あたり17万円の熊本市の小学校が買えるわけがないのですね。
ちなみに政令市でもっとも予算の多い川崎市は百科事典を更新しても余裕綽々、おつりがまだ80万円以上あります。
本を探し続ける子ども
司書さん(正確には専任の司書補助さん。会計年度任用職員です)からはこんな話も聞きました。
司「今、ある本を探している子がいるんです。実はちょっと古い本が行方
不明になっていて。その子に『出て来ませんか?』ってずっと聞かれ
ているんです」
東「何の本ですか?」
司「『ズッコケ三人組』です」
東「あー、懐かしいですね」
司「その子、シリーズでずっと読んでていたんですけど、その中の一冊が
行方不明になってしまって、半年くらいずっと探しているんです」
東「その本ってなかなか手に入らないですか?」
司「手に入ると思います。もう少し探して本当になかったら購入しようか
なと思っています」
もう泣きそうになりました、私。その子の気持ち思うと(買ってあげなよズッコケ3人組)と言いそうになってしまいました。
それはともかく、今の学校教育には「調べ教育」というのがあって、簡単に言えば、小学生のうちから原資料にあたって正確な情報を調べて書くという癖をつけるというフェイクニュース対策的な、今の時代に即したなかなか大切な授業をやっているんですね。それなのに事典の類いが古い情報で大丈夫なのか聞いてみると、現場の先生方は少々複雑な表情を浮かべて
「いちばん新しい知識というのは、インターネット・タブレットで調べる授
業というのも沢山やっていますので……」と言葉を濁します。
その一方で「予算があれば何に使いますか?」と聞いてみると
「やっぱり名作と言われる古い本をまず買い替えたいかなと思います。
子どもたちが手に取りますから。やっぱり新しい本は飛びつきますので」との答え。
「古い本は手に取りませんか?」と聞くと
「取りませんね」
……再び涙が。
図書室の隣には大量の本が眠り続ける
実は図書室に隣接した図書準備室には、さらにボロボロの大量の本が子どもたちから触れられることもなく眠っているのです。なぜそんな本が眠っているのかというと、全国の学校の図書整備に力を入れているはずの文部科学省が目安にしているのが「学校図書標準」だから、なんです。
「学校図書標準」というのは、児童生徒の数に応じて「最低これくらいは蔵書を置いておきなさい」という指標で、クラスの数をもとに決めます。文科省は現在、2026年度までに全国すべての小中学校でこの指標を達成するようハッパをかけています。
表紙も読めないような本でも、「そこにある限り」学校図書標準の指標を達成する役割を果たせるということで、学校はひたすらボロボロの本を溜め込みつつ、新しい本が買えない。子どもたちは「ズッコケ3人組」を探し続ける、という構図なのでした。
そんなのって、おかしいですよね?
(その②に続く)