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When I think of you

家の机の引き出しの奥から、ふいにSDカードが出てきた。
なんだっけ?と思いながらリーダーに差し込むと、古い日付の写真のデータが入っていた。
クリックしてみた。


 すごいなぁ、ここ
 こんなにたくさん咲いてるのね

黄色い向日葵が視界の奥まで続き、蒼穹を背に鮮やかに咲き誇っていた。
皆、一斉に陽の方向を向き、微かにそよぐ風に、葉が手を振るかのように揺らめいていた。
似合わないけど、と会うなり言い訳をしながら手で押さえた麦わら帽子が、向日葵のように輝いていた。

 向日葵の花言葉って知ってる?
 知らん

 当ててみて
 明るく元気に、とか?

 そんなわけないでしょ
 わからん

 今の私の気持ちに近いかなぁ
 腹減った、か?

 ばぁか。あとで調べて
 覚えてたらな

他愛のないことを言いながら、一眼のデジカメを彼女に向け、ファインダーも見ず、狙うことなく感覚でシャッターを押し続けた。
向日葵の海を彷徨うと、花とは思えない土の香りに満ち溢れ、むしろ大地に根ざす力強さに心地よかった。
二人は、あてもなく泳いだ。

一日過ごした帰りの車、夕陽が山の向こうに大きく沈みかけていくのが見え隠れする、緩やかに曲がりくねった広い山道を、黄昏の中、ゆっくりと下りていった。
あっという間に過ぎた時間、青空だった数時間前が、もはやだいぶ過去のように思われた。
陽はやがて沈みゆく。
つけていたラジオから、アルトサックスの愁を帯びた曲が、物静かに流れてきた。
 
 ちゃんと花言葉調べてね
 はいはい

 はいは一回だけよ
 はい



写真をクリックしてみると、麦わら帽子を被り、向日葵を背に、向日葵に負けない笑顔で写る姿が出てきた。
しばし手を止め、眺めていた。
そしてYoutube を開き、あの愁を帯びた曲を探し、聴きながらもう一度写真を眺めた。
今頃になって、花言葉を調べた。
写真に向かって、調べたぞ、そう呟いた。



「When I think of you」 T-Square 





#夏の定番曲

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