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ラ クレリエールの料理集 vol.18

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
2020年10月にスタートした連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」では、柴田の料理人人生を振り返りつつ、なぜ今ミシュラン三つ星に挑戦するのかを綴りました。そして今度は「クレリエールの料理」を切り口に料理人として、シェフあるいは経営者として、考えていることや思っていることをお伝えしたいと思っています。

今までの連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

「料理集」のバックナンバーです。
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」
 → 第六皿 パロンブのロースト
 → 第七皿(résumé) 仔羊のロースト トリュフのソース
 → 第七皿(recette) 仔羊のロースト トリュフのソース
 → 第八皿(résumé) 常陸牛のウデ肉の赤ワイン風味
 → 第八皿(recette) 常陸牛のウデ肉の赤ワイン風味
 → 第九皿(résumé) ホワイトアスパラガスの三重奏
 → 第九皿(recette) ホワイトアスパラガスの三重奏
 → 第十皿(résumé) 鮎のヴァリエーション 笹茶とクレソンのソース 内臓のブーダンノワールのベニエ添え

第10皿(recette) 鮎のヴァリエーション 笹茶とクレソンのソース 内臓のブーダンノワールのベニエ添え

【材料】(1人分)

鮎(和歌山・千葉・宮城の半養殖もの):1尾
バターライス:15g
青海苔:適量
クレソン:1束(50g) ※10人分
笹茶(粉末):6g ※10人分
山椒:適量
シャンタナ:適量
ブーダンノワール(豚の血で作ったもの):5g
焼き海苔:適量
レモングラスの泡:500ml
レモングラス:5g
南高梅:15~17g
レシチン:適量
米粉:適量
*じゃがいも:200g
*生クリーム:50g
*バター:25g
(*1粒1g程度のため、作りやすい量で記載しています。)
<ベニエ生地>
ドライイースト : 6.25g
ビール : 75g
強力粉 : 50g

【作り方】

<鮎の準備>
1.鮎を三枚におろす。
2.頭、カマ、えら、中骨、腹骨、背ビレ、腹ビレ、尾を切り分ける。
 ★半養殖ものの頭は、天然ものよりも大きく硬めで丸ごとでは食べづらいため半分に割る
 ★尾の付け根の骨は固すぎるため外す(唯一の「使わない部分」)
3.フィレの右身に塩をして冷蔵庫で少し乾燥させた後、皮目からゆっくりグリエする。
 ★鮎のピラフ用。塩の具合は「一夜干し」のイメージで、焼き具合は「香ばしく」
4.フィレ以外のパーツは、低温の油で水分を飛ばすように揚げ、塩をふる。
 ★部位によって揚がる時間が異なるため、それぞれが揚げ上る直前に油の温度を上げ、取り出したらまた温度を戻すようにする

<笹茶とクレソンのソースの準備>
5.クレソンを茎と葉に分ける。
 ★盛り付け用に綺麗な部分を2枝ほど残しておく。
6.塩分1%のお湯で、茎は5分、葉は4分茹でて冷水にさらした後、取り出す。
 ★時間だけでなく指の感触で茹で上がりを確認する
7.ソース用に茹で汁を少量取り、6.と一緒に冷やしておく

<肝のソースと笹茶とクレソンのソースの仕上げ>
8.サラダ油を入れた小鍋に肝を入れ、加熱しながらへらで細かく潰す。
 ★肝が熱で固まってしまう前によく潰しておく
9.山椒、塩を入れ、15~20分ほどかけてじっくり火を入れ、肝のソースを仕上げる。
 ★季節によって肝に油分が少ない場合は太白ごま油などを加えると良い
10.6.と7.をミキサーにかけ、シャンタナと笹茶を加えてさらに回し、塩で味を整え、笹茶とクレソンのソースを仕上げる。

<鮎のブーダンノワールの準備>
11.ブーダンノワールに9.の肝を加え、よく練り合わせる。
 ★油分が多いと揚げた時に破裂しやすいため、肝と一緒に油が入り過ぎないように注意
12.焼き海苔を加えてよく混ぜたら、ひと口大に丸めて冷凍しておく。
13.ベニエ生地の材料を合わせて温かい所でモチモチな状態になるまで発酵させる。

<レモングラスと南高梅の泡>
14.レモングラスを30分ほどかけて濃いめに煮出し、梅干しとレシチンを加えてハンドミキサーで泡状にする。

<じゃがいものピュレ>
15.じゃがいもを茹でて裏ごしし、生クリームとバターを加え餡子くらいの柔らかさにして直径1cmほどに丸めておく。

<鮎のポワレ>
16.フィレの左身の両面に塩をして、皮目のみ米粉をつける。
 ★米粉だと、鮎の香りを邪魔せず、仕上がりもサクッとなる
17.フライパンに油を敷き少し強めの火でポワレする
 ★皮目から火を入れ、身の側の火入れは一瞬
 ★表面はパリッと、身はフワッと

<鮎のピラフ>
18.3.のフィレを小さな角切りにし、4.の内の中骨、ハラミ、頭の左半分を食感が残る程度に細かく刻む
19.バターライスをフライパンで炒めたブイヨンを少々加えて含ませ、そのまま200℃のオープンで1~1.5分加熱する。
20.19.に18.を加えてさらに炒め、青海苔も入れて香りを出す。

<内臓のブーダンノワールのベニエ>
21.12.に13.を衣がけして180℃の油で1.5~2分ほど揚げる。
 ★油の温度が低いとブーダンが溶けてしまうため高めの温度で外はサクッと中は程よく解凍された状態に仕上げる

<盛り付け>
22.皿に10.の笹茶とクレソンのソースを「鮎が泳ぐ水」をイメージして敷く。
23.20.のピラフを皿の中央に盛る。
24.ピラフの上に17.のフィレのポワレを乗せる。
25.24.の左右に15.のジャガイモのピュレを置き、4.の残りのパーツと21.のブーダンのベニエを盛る。
 ★フィレを中心に「一尾の鮎」をイメージして各パーツを配置する
26.飾り用のクレソンに少し酸味を加え、添える。
27.8.の肝のソースをカマの部分にしっかりめにかけ、皿の上にも回しかける。
 ★カマの部分=鮎の身の苦玉のある部分
28.熊笹茶とフルールドセルを合わせた笹茶塩を添える。
29.14.のレモングラスと南高梅の泡を盛る。
 ★味わいが変わる要素として皿の奥側に置く

柴田の工夫

ルセットの中の★は、その工程でのポイントです。一般的なものもあれば、僕自身の経験の中で見出したものもあります。お料理はちょっとした工夫で仕上がりがガラッと変わったりするので、参考にしてみてください。

このお料理は、僕のレパートリーの中でも「一番手のかかっているお料理」の一つです。この連載で「作り方の手順」が「29番」まで行ったのは初めてじゃないでしょうか(笑)
実際、このお料理を出している時期は厨房がめちゃめちゃ大変です。ただでさえ構成要素が多いのに作り置きできないものが多いし、調理の手順も細かい。例えば、骨やヒレを揚げる際もそれぞれの揚げ具合に合わせて油の温度を管理するためコンロに付きっきりになります。その間もタイミングを合わせて他の要素を調理しつつ、別のお料理も滞りなく作らねばなりません。常に全員がフル稼働。一つミスが全体の歯車が狂わせてしまう危険性があるので集中力も求められます。毎年クレリエールのメニューに載せられているのも、技術はもちろん、スタッフ一人一人の高い意識とチームワークがあればこそなのです。

今は鮎を出すフレンチレストランも多いですし、鮎料理はこうでなくてはならないという決まりもありません。当然、もっとシンプルで手間のかからない出し方もあります。ではなぜ僕はこんな面倒なお料理にしたのか?他のお店との差別化するため?いえいえ、そういう話ではありません。
ご存じの通り、日本で鮎は季節を感じさせる食材の代表格です。そして、日本料理の世界でとても大切にされています。だからこそ「季節だから鮎を出しておけば良いでしょ」という料理にはしたくなかった。日本人にとって大切な“季節の食材”をフランス料理で使わせていただく以上、半端なことは絶対にできない。自分ができ得る最大限の力と技量、心意気の全てを込めて料理しなければ・・・と思い、出来たのがこのお料理でした。

技術だけでなく経験もフル活用しています。例えば、このお料理でお客様に面白いとよく言われる「肝のブーダンノワールのベニエ」。鮎を丸ごと味わう塩焼きの美味しさに「肝の苦み」の存在が大きいと僕は考えました。フレンチでよくある内臓のソースだけでなく、肝を活かすためもう一工夫したい。テリーヌやソーセージを作ってみたけれど、どうもしっくりこない。そこで思い出したのが、レストランモナリザで作っていた内臓のブーダンノワールを添えたルージェ(ヒメジ)のお料理でした。
また、鮎の内臓の特徴をより出すため藻の香りを表現したいと思い、青のりを入れてみましたが仕上がりが柔らかすぎたため却下。焼き海苔に落ち着きました。山椒を加えた力強い味わいとベニエの衣の軽さのギャップも、お客様は「面白い」と感じてくださっているようです。

前回、僕の中の「鮎の一番美味しい食べ方」としての「炭火での塩焼き」をフランス料理に落とし込んだというお話をしましたが、一番美味しいと思う食べ方が実はもう一つありました。「鮎ご飯」です。ルセットの「鮎のピラフ」は、炊きあがった土鍋の蓋を開けた瞬間の「鮎ご飯」から着想しています。何がどの要素を表現しているか、ぜひ想像してみてください。

今回ご紹介した「鮎のヴァリエーション」は毎年必ず作るお料理ですが、ベストを更新できるよう火の通し方など毎年少しずつ変えています。10年積み上げてきて、お皿ひとつとっても「料理の温度を保ちつつピュレを固まらせない最適温度」「ソースを味わう邪魔にならない素材」など細かい部分まで定まってきました。ですが、まだまだ終わりません。翌年がより楽しみになるような「鮎のヴァリエーション」をチーム全員で全力で作っていきます!
今年は6月頭から7月半ばまでのご提供を予定していますが、鮎の仕入れ状態次第で早めに終了する可能性もあります。ご都合がよろしければ、ぜひお早めにお越しださいませ。

※仕入れの関係でご提供できない場合もございますので、お召し上がりをご希望の際は、ご予約の折にその旨をお伝えいただけると幸いです。

次回は、お料理そのものから少し離れて、産地を回ってみて思うことをお話したいと思います。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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