たーちゃん。ってね #2
いつもどおり仕事を終えると、
僕のロッカーは空いていた…
今から10数年前、今の工場に転職した。
まだ仕事にも同僚にも慣れない3が月後のこと。
よく見ると鍵のところに
バールのようなもので無理やり開けられた跡…
ゆっくりと覗くように開けると、
中の荷物がごっそり持っていかれていた…
いちばんショックだったのは、
ごわごわした新品の ジーンズ だった。
毎日履いて、ジーンズの色に負けないような
深い人間になるぞと勝手に誓っていたからだった…
「触るなっ!」
たーちゃん。が上司を呼んできた。
そのあと警察が来て、
ロッカーの中、指紋などを調べた。
これからこの会社でやっていけるのかが不安だった。
全員が泥棒に見えた…
※※※
たーちゃん。と知り合ったのは前の会社からだった。
愛知県の大学で5年も過ごした僕は、
地元である山梨県の橋梁会社に就職した。
大卒と高卒が半々がいる20人くらいが同期だった。
「みんな年下だよなあ…」
尖っていたころの僕は、
人見知りの性格もあって
自分から話かけられずにいた。
「もう学生じゃあないもんな。ちゃんとしなきゃな…」
新人研修を終えたバスの中で
窓の外の富士山を見ながらつぶやいた。
「同い年だよね?」
たーちゃん。が隣に座ってきた。
研修中、ずっと話しかけたかったけど、
遠すぎて声かけられなかったらしい。
留年して同い年だったこと、
服、音楽などの好きなもの、
いい加減なところや彼女と遠距離中のところまで
好きな女の子のタイプ以外、何もかも一緒だった。
バスが会社に着くころには、
昔からの親友のように仲良くなっていた。
そのあともしゃべり足りず、2人でご飯を食べに行った。
延々と朝まで酒を交わした。
学生に戻ったような気分だった。
入社して5年を過ぎたころ、
2つの理由で会社を辞めた。
民事再生の通知とばあちゃんのケガだった。
「辞めるわ。会社。」
すぐさま、たーちゃん。に電話した。
「お前が辞めるじゃあ俺も辞める」
「いいのか?」
「いいよ。」
そう言って僕とたーちゃん。は上司に辞表を提出した。
一人っ子だし、ばあちゃんの近くにいる。
橋も好きだけど、ばあちゃんと一緒にいたい。
出張の無い地元の工場に転職した。
※※※
犯人が捕まらないまま、2が月ほど過ぎていった。
何事もなかったかのように
みんなロボットのように仕事をしている。
誰とも心を開くこともなく、
ただただ仕事をこなしていた。
「辞めようかな…」
そんなことも思っていた。
「今すぐ来てくれ。確かめたいことがある。」
夕方、たーちゃん。からメールがあった。
中古品の販売ショップに向かうと
たーちゃん。が立っていた。
「ちょっとこれ」
「ああ、間違いないよ。」
僕の ジーンズ が売られていた。
店の人に言い、警察が来てまもなく犯人は捕まった。
犯人は、僕の ジーンズ 以外にも
会社の備品、現金などいくつか盗んでいた。
「良いお友達ですね。」
数日後、警察署で ジーンズ を渡されるときに言われた。
「えっ?」
「お店の人から、伝言なんですけど…」
「はい…」
「毎日来ていたらしいですよ。泥棒だと思って覚えていたみたいです。」
何十本とある中からずっと探していたんだ。
たまに居酒屋に行き、
酔っぱらうとこの話になる。
「いーかげん、言えよ。お前が盗んだんだろ?」
そんな冗談はビールの泡といっしょに消えていった。
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この話を10年勤続表彰のスピーチで
かいつまんで笑いも入れつつ、話させてもらいました。
みんなから聞かれたたーちゃん。は、照れ臭そうに
「盗もうとしたら、もう無かったんすよ。」
なんてお茶らけていました。
今の会社に勤めて12年。
色落ちしたジーンズを履いて
通勤できることが、なによりも幸せです。
ありがとう
この企画がすばらしくて
ついつい僕も参加させていただきました。
あおはるとまではいきませんが、
色あせたジーンズを見ると思い出す、
かけがえのない友達の話となっています。
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