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那須川天心vs堀口恭司、日本格闘技界最高のゴールデンカードを観戦

暑くなったり、涼しくなったりを繰り返す時期の2018年9月30日。超大型台風24号が関東を直撃する日にRIZIN.13は開催された。

前日の29日夜の時点で九州・沖縄での被害が伝わってきていたので、チケットを買ったファンは無事にメインカードが見れるか不安のまま当日を迎えた。

本来はキックトーナメントで組まれるはずだったゴールデンカード

RIZINでは常設ベルト、階級王者を設けない代わりに毎年特定の階級でGP(グランプリ)が開催されてきた。とはいえ、プロモーションの立ち上げが2015年の年末なのでまだ歴史が浅い。

2016年に初めてRIZIN FIGHTING GRAND-PRIX  無差別級トーナメントが16名の参加で開催。翌2017年にバンタム級(-61kg)、女子スーパーアトム級(-49kg)のGRAND PRIXを年間を通して行い、大晦日にバンタム級決勝、女子スーパーアトム級決勝およびキックボクシング(-57kg)の1 dayトーナメントが開催された。

RIZINではキックの1 dayトーナメントを含め、4回のトーナメント方式のGPが開催されたことになる。

2018年のRIZINは、最初の大会が5月のRIZIN.10福岡大会で大晦日から約5ヶ月後。大会前に2018年は立ち技最強トーナメントの開催がアナウンスされていた。

RIZIN.10のメインイベントは、前年のバンタム級GPを圧倒的な強さで優勝した堀口恭司(以下堀口)が、UFC離脱組のイアン・マッコールと対戦。試合はワンパンチで決着がつき9秒。まさに秒殺で大会を締めた。

試合後、キックトーナメント優勝者の那須川天心(以下天心)へ試合の申込みと立ち技最強トーナメント参加のアピールが行われた。

立ち技最強トーナメントは、キック代表の天心、総合格闘技代表の堀口、RISEでのRoad to RIZINトーナメント優勝者の原口健飛が決まっており、8名参加で9月に1回戦、準決勝&決勝を大晦日に開催し、準決勝で天心ー堀口が実現する組み合わせを作る予定だった。

ワンマッチに変更されたゴールデンカード

総合格闘技はPRIDEが存続していた10数年前ならいざしらず、アメリカのUFCがメジャースポーツとして主流になってしまい、特に70キロ以上の中量級以上が目立つ世界だ。ファイトマネーを考えると選手がUFCベラトールMMAに行きたがるのは理解できる。

そうなると迫力のある重量級でカードを日本で組みにくくなり、軽量級で良いカードを組む流れが自然と出来上がる。

堀口は、UFCフライ級ランキングで日本人最高の3位の実績でRIZINに移籍、天心はキックボクシングで無敗のまま。この二人を当てるのが日本で組める最高のカード、ゴールデンカードだ。とはいえ、天心はMMAでの実績はないに等しいので、伝統派空手出身の堀口が相手の土俵で戦うのが一番盛り上がる。

コナー・マクレガーとフロイド・メイウェザーのボクシングマッチも同じ売り方

相手の土俵で試合をすると言えば、コナー・マクレガーとフロイド・メイウェザーのボクシングワンマッチも同じ売り方だった。UFCで2階級同時制覇したスーパースターが、ボクシングで無敗のスーパースターに挑んだ。

コナー・マクレガーは、事前にボクシングの試合をせず、ぶっつけ本番のワンマッチで行うことで「あれだけUFCで強かったんだから、もしかすると?」とファンの期待が膨らむ。プロモーターの思惑通り、PPV視聴は430万件、興行収入は660億円になった。

ファンに見たいと思わせ、想像させるのが売上につながる。幻想を持ったゴールデンカードはワンマッチの方が売れるので、天心ー堀口の日本格闘技界のゴールデンカードはワンマッチになった可能性がある。

超満員のさいたまスーパーアリーナはファンの熱で揺れた

PRIDEの時代は、可動式のさいたまスーパーアリーナをアリーナモードで使用して5万人近くを動員していたが、RIZINは立ち上げ以降メインアリーナを200レベル(2階席の高さ)までのアリーナ席とひな壇のみを使っていた。実績としては1万人がいいところだっただろう。

しかし、今回の天心ー堀口が組まれたRIZIN.13では、メインアリーナの200レベルまでのアリーナ仕様でチケットを販売開始。過去最速ペースでチケットが売れたため、消防法で定められた距離を保ちつつステージそばの200レベルの追加席を開放。それがなくなると高天井と呼ばれる仕様にし、400レベル(4階席)、500レベル(5階席)とチケットの販売を追加していった。

500レベルまで開放して格闘技界の大会を開くのはPRIDE以降なかった大会だろう。それでもチケットが売り切れたので、当日券は入場ステージが見えない席の見切れ席のみが販売された。

冒頭に時間が戻るが、この超満員のさいたまスーパーアリーナは超大型台風24号が直撃した日だ。昼の時点で20時にはJR東日本が運行を止めるアナウンスがあったにもかかわらず集まった27,208人(主催者発表)。私も含めゴールデンカードを見逃してはならないと集まった熱。天心ー堀口は当然メインイベントなので帰れないことは覚悟してさいたまスーパーアリーナに来ていた。

生中継を諦め試合順を変更した英断

RIZINはフジテレビ系での生中継があるため、休憩時間が特に長いことがある。1大会あたり、2回の休憩、そのうち1回は1時間の休憩をとらされたことがあった。

特にRIZIN.11のメインイベントが生中継だった為、セミファイナルの試合が終わってから1時間以上の休憩があり、お金を払ってチケットを買って見に来ている観客に大きな負担が強いられた。

この恒例化しつつある長時間の休憩は、観戦しに行っている人の得には全くならなず、台風でJRが停止することでも変わらず生中継に合わせた時間調整がされると会場に来ていた誰しもが思っていただろう。しかし、試合開始前にRIZINの榊原代表から試合順の変更、演出の変更がアナウンスされた。フジテレビと協議し、生中継を諦めて天心ー堀口を繰り上げて、19時には終わるように進行。大きな拍手と帰れることへの安堵感でさいたまスーパーアリーナが包まれた。

格闘技ファンの熱は生きている

PRIDE以降、下火になった格闘技の熱は日本ではもう燃えないかもしれないと思っていたが、超満員のさいたまスーパーアリーナに天心ー堀口の煽りVが流れたときから空気が変わった。

煽りVが終わると堀口の入場曲、My Timeが流れディスプレイに映像が流れ、会場が揺れた。いつもの通り、ぴょんぴょんと跳ねながら花道をサーッと進みリングイン。

直後に天心の入場曲、矢沢永吉の止まらないHa Haが流れ、また会場が揺れた。天心は、自分の土俵での試合なので負けられない気迫が感じられる絶叫をしての入場だった。

総合格闘技のファンも、キックボクシングのファンも、凄い試合があるからと初めて観戦に来た人も大きな拍手と声援でさいたまスーパーアリーナを揺らした。

発表から1ヶ月、待ちに待った試合が始まると手に汗握るとはこのことで、どちらが強いのかという気持ちで約3万人の観客が集中して試合を観戦した。

堀口恭司はもっと評価されるべき

試合はかなりの人が見たと思うので、ここでは詳しくは触れないが、それぞれに思うところがあるだろう。まだ見ていない人はGyaoで見ることが出来るのでぜひ見て欲しい。

私はKnockout、RISE、RIZINで天心の試合を観戦しているので、凄いことはわかっていたし、本当に強い場面を何度も目の当たりにしていたので、強いのはわかっていた。自分の土俵での試合で負けてはいけないというプレッシャーに打ち勝っての判定勝ち。決して天心の評価が下がるようなことはないし、彼はキックボクシングでは圧倒的に強い。

天心が判定で勝つのは試合前から予想していたが、試合内容を振り返るとそれ以上に堀口がすごかった。天才、神童と呼ばれる天心を相手にするということは、自身も高いレベルで立ち技の技術がないとあっという間に負けてしまう。実際、天心がRIZIN.10で戦った中村優作も日本拳法出身で、総合格闘技の実績があったにもかかわらずKOをきしている。

天心がここ数試合で苦戦を強いられたのは、knockoutでのスアキム戦、RISEでのロッタン戦のようなムエタイ最高峰の選手だけで、RIZINでの異種格闘技戦やRISEのタイトルマッチでも圧倒していた。

そんな強すぎるほどの強い天心に堀口は伝統派空手仕込みの突き、蹴りを当て、3Rまでクリーンヒットを許さず、高いレベルでキックボクシングの試合を実現させ判定まで持ち込んだ。堀口は、もっと世間から評価されてスーパースターになるべきだと私は思う。とはいえ、下火になってしまった日本の格闘技界がもう一度盛り上がるきっかけを作ったカードだった。

この先の未来に希望が見えたゴールデンカード

堀口自身も「MMA(総合格闘技)でやれば一瞬」とコメントしたとおり、異種格闘技戦で相手の土俵のキックボクシングルールで試合をしたからこそ、これだけ盛り上がった。

まだまだ世界には強豪がたくさんいるので、天心にも堀口にもそれぞれの土俵で強豪狩りに期待したい。特に堀口は、国内団体のチャンピョンは倒し尽くしたと思うので、海外の強豪との総合格闘技での試合を期待したい。

天心は、RIZINに参戦しているラジャダムナンスタジアムのランキング1位のトップノイやまだ見ぬ強豪と立ち技で戦うが期待できる。

次回大会は大晦日のRIZIN.14。二人がどんな強豪と戦うのか今から楽しみだ。


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