ジェンドリンの「インタラクションファースト (相互作用が最初にある)」とデューイの「トランザクション (取引作用)」
ジェンドリンは多くの著作で「インタラクション (相互作用)」という用語を使っていますが、『プロセスモデル』 (Gendlin, 1997/2018) では「インタラクションファースト (相互作用が最初にある) 」という用語を使っています。なぜ 「相互作用 (インタラクション) 」だけでは彼の言いたいことが十分に伝わらず、「最初にある (ファースト)」を加える必要があると彼が感じたのか、その歴史的背景を概説しました。
古典的プラグマティズムにおける「相互作用」
ジェンドリンは『プロセスモデル』の中で、「身体と環境との相互作用」について論じていますが、これはジョン・デューイやジョージ・H・ミードの「有機体と環境との相互作用」の議論から徐々に彼の哲学に発展していったものと思われます。
デューイが有機体と環境との相互作用についてどのように論じていたかを具体的に見てみましょう。
この文面からは、反省的分析以前には、まず呼吸・摂取・消化・歩行などの生命活動があり、二次的に空気と肺へ、食物と胃へ、地面と脚へと分解されるのだという順序で論じられていることが分かります。ここで否定されているのは、外的条件と内的構造が予め独立自存しており、その後で双方向に影響を与え合うという発想です。そうではなく、デューイの盟友だったミードが次のように簡潔に述べているように、有機体と環境は互いをなくしては元々成り立たない相互依存の関係にあるのだと言えるでしょう。
このような環境との相互作用の視点は、『体験過程と意味の創造』 (Gendlin, 1962/1997) が公刊される前に、ジェンドリンがシカゴ大学の「カウンセリングセンター・ディスカッションペーパー」に寄稿した論文「関係のプロセス概念」 (Gendlin, 1957) に見ることができます。
当時のジェンドリンは、環境と相互作用するものを身体ではなく有機体と呼んでいました。その点で、デューイやミードの用語法をまだ彼は保持していたと言えるでしょう。
「相互作用」という用語の不十分さ
以上のように、「相互作用」はデューイの哲学の基本概念でした。しかし晩年、デューイは「相互作用 (interaction)」という語に含まれる “inter-” という接頭辞に不満を持つようになりました。
用語法に対するこうした不満は、のちのジェンドリンも共有しています。
デューイの代替用語、「トランザクション (取引作用)」
最晩年のデューイは、インタラクション (interaction)の代わりに、「トランザクション (transaction)」という言葉で自身の言いたいことを表現しました。
「トランザクション」という言葉は本来、商業における取引を意味します。
つまり、まず「取引」という活動があり、二次的に貸し手と借り手とに、もしくは、売り手と買い手とに割り振られるという発想です。
ジェンドリンの代替用語、「インタラクションファースト (相互作用が最初にある)」
ジェンドリンはデューイの言い換えをそのまま採用したわけではありません。しかし、「相互作用」という言葉を彼流に言い換えて、それに「最初にある (first)」という言葉を加えることによって、不十分な点を改善しようとしたのです。
これにより、『プロセスモデル』において、予め独立自存した二人が双方向で作用し合うというのとは異なるかたちの発想自体はデューイを継承するのです。
おわりに
環境との相互作用という考え方は、大学院生であったジェンドリンの頭の中にはすでにありましたが、十分には発展していませんでした。その後、デューイの発想を受け継ぎながら、ジェンドリンは「相互作用が最初にある (インタラクションファースト) 」という独自の概念を生み出しました。こうして彼は、「生命活動が最初にあり、身体と環境との区別は二次的なものである」という考え方を徹底的に推し進めたのです。
文献
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