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リンク集: “動物のジェスチャー” から始まるシンボリックプロセス — ジェンドリンとミード

このnote記事は、ジョージ・ハーバート・ミードの哲学が『プロセスモデル』 (Gendlin, 1997/2018; ジェンドリン, 2023) の「第VII章 文化、シンボル、言語」に与えた影響について論じた一連のnote記事へのリンク集です。

ジェンドリンは前期の哲学的主著『体験過程と意味の創造』 (Gendlin, 1962/1997; ジェンドリン, 1993) において、シンボルと感じられた意味がどのように機能するのかを詳細に検討しました。したがって、「シンボル」は彼の哲学において鍵となる用語です。しかし、本書では人間がいかに物事をシンボルとして認識するようになったかについては考察されていませんでした。

『体験過程と意味の創造』における未解決のこの問題は、彼の後期の哲学的主著『プロセスモデル』の「第VII章A シンボリックプロセス」で論じられます。この本では、動物から人間への進化の中間段階において、シンボル的な認識が徐々に獲得されていくことが考察されています。私の考えでは、ジェンドリンが第VII章Aでシンボリックプロセスについて考察するにあたり、最も影響を受けた2人の哲学者は、G・H・ミード (1863-1931) とスザンヌ・ランガー (1895-1985) です。

ミードの代表作は『精神、自我、社会』 (Mead, 1934; ミード, 2018; 2021) です。この本は、ミードの晩年の講義をまとめたもので、彼の教え子であるチャールズ・W・モリス (1903-1979) が編集し、出版しました。モリスは、『体験過程と意味の創造』の元になったジェンドリンの博士論文 (Gendlin, 1958) の指導教員の一人でした。

以下の6つのブログ記事では、ミードによる動物のジェスチャー論と『プロセスモデル』の第VII章Aを比較しました。

1. 動物たちは「表現」し合わない.
概要: 『プロセスモデル』の「VII‐A シンボリックプロセス」には、「(e)表現」という皮肉めいたタイトルの節があります。この節で最終的に論じられているのは、動物たちが内的な何かを表現し合っているように見えるとき、私たち人間の観察者が単に自分自身を投影しているだけであって、動物たちは実際には内的な何かを表現し合っているわけではない、ということなのです。

2. “動物のジェスチャー”から始まる3段階の「順序」.
概要: 『プロセスモデル』の「VII‐B 原言語」の「(c)順序 (The order) 」の節において、ジェンドリンは、 “動物のジェスチャー” から「原言語」と呼ばれる原始的な言語に至る途上の3段階の順序を簡潔に論じています。また、『プロセスモデル』では、第2段階について議論する際にミードを参照していますが、私がミードの著作を実際に読んでみた限りでは、第2段階についてはあまり詳しく論じられていないようです。むしろ、ミードの著作では、ジェンドリンの「順序」で言えば、第1段階と第3段階との対比が第2段階をスキップしてより中心的に論じられているように思われます。

3. 相手の動物がいてこその“ジェスチャー”.
概要: ジェンドリンとミードの両者にとって、「身体の見えや音や動き」といった “動物のジェスチャー” は、それに相手の動物が反応して初めて可能になるジェスチャーなのです。他の動物がいないときに同じように手足を動かしても、のちに人間の言語へと進化するという意味での “動物のジェスチャー” とは呼べないのです。

4. 闘いが生起しない「切り詰められた行為」.
概要: ジェンドリンが「威嚇のジェスチャー」を例に挙げて「闘いは焦点的にインプライされるが、闘いは生起していない」と言うのは、ミードが言うところの「切り詰められた行為」に相当すると思われます。この 「闘いは生起していない 」ということが、「休止 (pause) 」という概念につながると考えられます。「休止」がどのように「~について (アバウトネス) 」という能力と関係しているかをミードだけでなく、ランガーとも関連付けて論じました。

5. どうやって自分の身体の見え方を知るのか.
概要: 『プロセス・モデル』の「VII‐A シンボリックプロセス」の「(c)表象(リプリゼンテーション)」の節で、ジェンドリンは「共感」を論じる文脈において、「自分の身体がどのように見えるかを知ることができるのか」という難問を論じ、G・H・ミードが従来の順序を逆転させたと主張しています。

6. ジェスチャーによるコミュニケーションから創発する自己意識.
概要: 『プロセス・モデル』の「VII‐A シンボリックプロセス」の中でも、「(a)身体の見え」の節の “動物のジェスチャー ” と、「(f)新たな種類の推進」の節の本当の意味でのジェスチャーとでは違いがあります。(f)の節では、初めて「自己意識」が論じられています。しかし、このような論述は唐突であり、この節を読んだだけでは、ジェスチャーの論述と自己意識の論述をすぐに結びつけることは難しいかもしれません。ジェンドリンが参照したと思われるミードの論述に立ち戻ってみると、ジェスチャーの進化と自己意識の創発が関連していることが理解しやすいように思います。


P. S.

ちなみに、ランガーの代表作、『シンボルの哲学』 (Langer, 1942/1957; ランガー, 2020) が『プロセスモデル』第VII章Aへ与えた影響の詳細は、私の他のnote記事「絵に絵として反応する:ジェンドリンとランガー」をご覧ください。この記事は、上記4番目の投稿「闘いが生起しない『切り詰められた行為』」とリンクしています。両投稿では、ジェンドリンの用語「~について (アバウトネス) 」を論じています。


文献

Gendlin, E.T. (1958). The function of experiencing in symbolization. Doctoral dissertation. University of Chicago.

Gendlin, E.T. (1962/1997). Experiencing and the creation of meaning: a philosophical and psychological approach to the subjective (Paper ed.). Northwestern University Press. ユージン・T・ジェンドリン [著]; 筒井健雄 [訳] (1993). 体験過程と意味の創造. ぶっく東京.

Gendlin, E. T. (1997/2018). A process model. Northwestern University Press. ユージン・T・ジェンドリン [著]; 村里忠之・末武康弘・得丸智子 [訳] (2023). プロセスモデル : 暗在性の哲学 みすず書房.

Langer, S.K. (1942/1957). Philosophy in a new key: a study in the symbolism of reason, rite, and art(3rd ed.). Harvard University Press. スザンヌ・ランガー [著]; 塚本明子 [訳] (2020). シンボルの哲学 : 理性、祭礼、芸術のシンボル試論 岩波書店.

Mead, G. H. (1934). Mind, self, and society: from the standpoint of a social behaviorist. (edited by C.W. Morris). University of Chicago Press. ジョージ・ハーバート・ミード [著]; 植木豊 [訳] (2018). 精神・自我・社会. G・H・ミード著作集成:プラグマティズム・社会・歴史 (pp. 199–602). 作品社. ジョージ・ハーバート・ミード [著]; 山本雄二 [訳] (2021). 精神・自我・社会. みすず書房.


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