
#50 自然免疫力を高める方法
先日の記事「#42 日本で感染者や死者数がなぜ少ないのか?」および「#44 結局自然免疫力を高めろってことなんでしょうか」で、なぜ徹底的な検査も厳格なロックダウンもない日本で感染者や死者数が少ないのか?について考えてきました。
また、その中で粘膜免疫、特にIgAがカギを握っているのでは?という仮説も紹介しました。
口腔や腸管などの粘膜は異物が最初に接する場所なので、粘膜免疫が感染初期において極めて重要であることは論を待ちません。とは言え、それがコロナへの感染率や死亡率を下げるかについてはまだ分かっていないことが多く、これから検証が必要です。
一方で、粘膜は異物が最初に接すると同時に、食べたものが最初に接する場所でもあることから、粘膜免疫に対しては食品の影響が大きいことが考えられます。
したがって、死者数が少ない日本や韓国で多く食べられている発酵食品の中に粘膜免疫を高めるものがあるのではないか?という仮説を持っていろいろと調べてきました。
発酵食品ってそもそも?
その前に、発酵食品について改めて定義を調べてみました(Wikipediaより)。
発酵食品(はっこうしょくひん)とは、食材を微生物などの作用で発酵させることによって加工した食品である。
冷蔵庫などが存在する以前から保存食として、または風味を改良したり食品の硬さを柔らかくしたりするといった目的でも行われる。日本の伝統的な食品では納豆、醤油、味噌、漬物、鰹節など、世界ではパンやヨーグルト、紅茶、キムチなどの形で利用されてきた。また、穀物や果物を発酵させて製造される酒は、アルコールが殺菌作用を持つと同時に精神作用を持つ飲料である。
ひとことで発酵食品といっても、実に多くの種類があることがわかります。また、発酵に使われる微生物も発酵食品によってそれぞれ異なります。
代表的なものを以下に示します。
ー納豆:納豆菌
ー醤油:麹菌と酵母
ー味噌:麹菌と酵母、乳酸菌
ー漬物、ピクルス:乳酸菌(植物性乳酸菌)
ーヨーグルト、チーズ:乳酸菌(動物性乳酸菌)
ー日本酒:麹菌と清酒酵母
このように整理してみると、大きく分けると、納豆菌や乳酸菌のような細菌と、麹菌や酵母のような真菌に分かれます(細菌と真菌の違いはこちら→)。
発酵食品に含まれる乳酸菌が、自然免疫を高めるカギ?
このように、発酵菌はいくつかの種類がありますが、いきなりそれぞれを細かく分けて調べることはせず、まずは発酵食品全般と自然免疫の関係性を調べることにしました。
学術論文についてはPubMedという論文検索システムで、一般的な情報についてはGoogleを用いて検索しました(2020.6.22現在)。
学術論文(PubMed)
学術論文について、「fermented IgA」と検索したところ、185件がヒットしました(うち、ヒト試験(clinical trial)は22件)。
学術論文の数が多いとは言えませんが、多くの論文は発酵食品に含まれる乳酸菌による自然免疫への影響を調べたものでした。
なお、私見ですが、学術論文の数が多くない理由としては、ヒトで感染系の評価をすることがそもそも難しいことがあると考えます。
ヒトに感染させる実験は倫理的にできないため、「ある発酵食品を食べてから数ヶ月後に、発酵食品を食べていなかった人たちに比べて風邪を引きにくかったか?」などをあとから調べるような試験しかできないからです。
食品は医薬品のように効果が強くないので、このような研究を進めても結果が出にくい、という意味でなかなか試験自体が行われにくい事情があるものと推察します。
一般的な情報(Google)
一方、Googleで「発酵食品 IgA」で調べたところ、約45,000件がヒットしました。
こちらはあまりに膨大なので最初の数ページしか見ていませんが、発酵食品に含まれる乳酸菌の情報が多くヒットしました。
以上のことから、自然免疫(粘膜免疫)、特にIgAを増やすものとして、発酵食品に含まれる乳酸菌を一つの候補として考えても良いと思われます。
(2020.8.12追記)
個々の腸内環境に合わせた“層別化ヘルスケア“を推進しているベンチャー;メタジェンは、乳酸菌が食物繊維等を分解して産生する成分(短鎖脂肪酸)がIgAの産生を促すことで、免疫機能を向上させることを提唱しています(腸内細菌叢から産生される短鎖脂肪酸が感染予防のカギ/メタジェン)。
これらの科学的なエビデンスは、上記で述べた「発酵食品に含まれる乳酸菌が、IgA産生において重要な役割を果たしている」という仮説を支持するものと考えられます。
さて、このような乳酸菌を摂取できる発酵食品は何か?
上記の発酵菌の分類を改めて引用すると、以下のようになります。
ー漬物、ピクルス:乳酸菌(植物性乳酸菌)
ーヨーグルト、チーズ:乳酸菌(動物性乳酸菌)
このうち、漬物等を多くは摂取することはなかなか難しいものの、ラブレ菌のように京都の伝統的な漬物(すぐき漬け)から発見された乳酸菌を配合したヨーグルトなども最近は多くありますので、これらを含めてヨーグルトやチーズを摂取するのが良いと思います。
※ここで、欧米人もヨーグルトを食べるのに、なぜ死亡率が高いの?という疑問が生じるのですが、これについては現時点でははっきりとしたことはわかりません。
彼らが食べているのはヨーグルト等の動物性乳酸菌が多いことが理由の可能性もありますし、先日の記事でも紹介したように、そもそもIgAを作れない人が欧米人に多いからなのかもしれません。この辺りは今後の研究が待たれるホットな部分だと思っています。
唾液の重要性も
なお、神奈川歯科大学の槻木恵一教授のコラム記事では、乳酸菌そのものの重要性だけでなく、唾液や食物繊維の重要性についても紹介されています(槻木教授はホンマでっかTVやめざましテレビなどにも出演される方です)。
また、私が研究開発に携わっている還元型コエンザイムQ10には唾液を増やすことやIgAを増やすことが報告されています。
このうち、唾液を増やすことについては、ドライマウスという口が極端に乾きやすい患者さんと、口が乾きやすい中高年の健康な方のいずれにおいても、唾液の分泌量が増加したという報告があります。
一方、IgAを増やす効果については、中高齢の健康な方において、唾液分泌型IgAの分泌速度が増加傾向にあったことが報告されています。
論文:還元型コエンザイム Q10 が中高齢者の口腔免疫能および健康関連 QOL に及ぼす効果
まとめると
ここまでのことをまとめると、ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌(特に植物性乳酸菌?)を摂取すること、腸内環境を整えるため食物繊維やガラクトオリゴ等などを摂取することは重要で、それに加えて唾液などの口腔ケアも重要と考えられます。
ただし、今回は「発酵食品」というキーワードを入れて調べているため、「発酵食品に含まれるなにが自然免疫に効果を発揮しているのか?」という調べ方になっており、発酵食品以外で自然免疫に効果があるかものについて追えていない点には留意が必要です。
結局のところ、一つの食材だけですべてをまかなうことはできないため、まずは食事や運動、睡眠、ストレス軽減等により体調を整えた上で、こういった情報から「自然免疫に良いと考えられる」乳酸菌やその他の食材・成分をバランスよく摂取していくのが良いのではないでしょうか?
それではまた明日!
<了>
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