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【書籍】推しを語る新技術:「やばい!」を超える言葉の力ー三宅香帆氏

 三宅香帆著『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』(ディスカバー・トゥエンティワン、2024年)を拝読しました。

 本書は、愛してやまない「推し」の存在を、「やばい!」という一言で片付けてしまう現状を打破し、その魅力を自身の言葉で豊かに語るための実践的な技術を、読者へと丁寧に手渡すことを目指しています。

 著者である三宅氏は、書評家としての鋭い視点と、一人のオタクとしての熱い情熱を併せ持っています。単なる情報伝達にとどまらず、自身の内面から湧き上がる感動や興奮を、どのように言葉へと変換し、他者へと共有するのか、その具体的な方法を詳細に解説しています。

 言語化の技術は企業の中でも重要であり、その点も含めて考察してみます。

はじめに - 「やばい!」を超えて、自分だけの言葉で語る喜びへ

 本書の冒頭で、著者は、多くの人が共通して抱えるジレンマに光を当てます。それは、心の底から湧き上がる感動を、目の前の「推し」に対して抱きながらも、いざ言葉にしようとすると、「やばい!」という一言で終わってしまい、その奥にある複雑な感情や緻密な分析を、うまく表現できないというもどかしさです。それは、あたかも美しい宝石を目の前にしながらも、その輝きを言葉で伝えられないもどかしさに似ています。著者もまた、そのジレンマを経験した一人であり、多くの人がこの感情に共感するはずです。

 そして、ここで著者は、単なる語彙力の欠如が問題なのではなく、より根源的な問題として「自分の言葉を作る技術」の欠如を指摘します。私たちは、日常的にSNSを通して、他者の言葉の洪水にさらされ、知らず知らずのうちに、その言葉を自身の言葉として認識してしまいがちです。まるで、誰かの言葉がインストールされたかのように、自分の感情や思考を、他人の言葉で語ってしまうのです。

 しかし、本書では、この現状を打破し、自分自身の言葉で推しを語るための具体的な方法を、惜しみなく伝えています。それは、単なる文章術の指南ではなく、自己探求の旅への誘いでもあります。自分の言葉で語ることで、推しへの愛情をより深く理解し、その過程を通して、自分自身への理解も深まるという、二重の喜びを体験することができます。さらに、推しに関するもやもやとした感情や、複雑な葛藤を言語化することで、より明確な輪郭を与え、推し活をより充実したものへと昇華させることが可能になると、著者は熱く語ります。

第1章 - 推しを語ることは、自己と向き合う旅路

 推しを語るという行為が、単なる情報伝達ではなく、自己の内面と深く向き合う旅路であるという、本書の根幹をなす考え方を提示します。著者は、多くの人が抱える「ありのままの感想を言葉にすることの難しさ」に焦点を当て、その原因として「クリシェ」の存在を指摘します。「クリシェ」とは、ありふれた表現や常套句のことであり、まるでテンプレートのように使われ、私たちの感情を画一化し、思考停止へと導く危険性を秘めています。私たちは、知らず知らずのうちに、「感動した!」という言葉で、深く考えることをやめてしまったり、「考えさせられた」という言葉で、その深淵を覗き込むことを躊躇してしまうことがあります。

 本書では、こうした「クリシェ」の呪縛から解放されるための具体的な方法が提示されます。それは、単に語彙力を増やすことではなく、自分の感情を丁寧に分解し、具体的に言葉に置き換えること。つまり、ありきたりな言葉ではなく、自分が心から感じたことを、自分の言葉で表現するということです。それは、まるで画家が、目の前の風景を、自分の感性と筆致でキャンバスに描き出すように、自分の内面から湧き上がる感情を、丁寧に言葉で表現していく行為と言えるでしょう。

 さらに、著者は、文章に必要なのは、生まれ持った才能である「文才」ではなく、論理的に考え、工夫を重ねて文章を磨き上げていく「工夫する力」であることを強調します。そして、自分の感情を核として、それを丁寧に言葉で包み込むように記述していくことの重要性を説き、そのために必要なのは、観察力や分析力ではなく、むしろ「妄想力」であると述べます。妄想力とは、自分の考えを自由に膨らませる力のこと。良いと感じた理由、感動したポイントを深く掘り下げ、自由な発想で思考を巡らせることで、より具体的な感想を生み出すことができるのです。

 この章の最後では、推しの魅力を伝えることは、単に他者に情報を伝える行為ではなく、自分自身の人生を愛し、肯定することにつながると、著者は力強く語ります。自分の好きなものを語ることで、自分自身の価値観が明確になり、それを通じて、自分自身についての理解を深めることができる。それは、あたかも鏡を見るように、推しを通して、自分自身をより深く知ることができる、というわけです。

第2章 - 推しを言語化するための準備運動:感情を細分化する

 第2章では、具体的な言語化への準備として、「なぜ推しを言語化するのか」という根源的な問いを掘り下げます。多くの人は、感動した瞬間を、そのまま心に留めておきたい、あるいは、感動を誰かと共有したいという欲求を持っています。しかし、著者によれば、その根底には「好き」という感情が、時とともに揺らいでしまう儚いものであるという認識があると言います。だからこそ、鮮度の高いうちに言葉として保存しておき、その瞬間を真空パックのように閉じ込める必要があるというのです。

 また、著者は、「好き」という感情が揺らぐことを、決してネガティブなこととして捉えてはいません。むしろ、自分自身の変化や、推しの変化を受け入れ、その変化を言葉で記録することで、自分自身の価値観を信頼し、より柔軟な考え方を身につけることができると述べています。それは、あたかも、アルバムに写真を残すように、過去の「好き」を言葉で保存し、未来の自分にプレゼントを送るような、慈愛に満ちた行為といえるでしょう。

 次に著者は、具体的な言語化プロセスに入る前に、最も重要なこととして「他人の感想を先に見ない」ことを徹底するように強く訴えます。これは、現代のSNS社会において、特に重要な注意点です。他人の感想を先に見てしまうと、無意識のうちに、その言葉に影響を受け、自分の言葉を見失ってしまう可能性があるからです。

 この章では、他人の言語化に頼らず、自分の言葉で推しを語るための具体的な3つのプロセスが紹介されます。それは、①良かった箇所の具体例を挙げる、②感情を言語化する、③忘れないようにメモをするというものです。このプロセスを通じて、私たちは、自分の感情を細分化し、何に感動したのか、どうして感動したのか、といった根源的な部分を、丁寧に言葉で表現していくことができるようになります。

 さらに著者は、「言語化=語彙力」という誤解を解き、言語化の本質は、物事を細かく分解して表現する「細分化」にあると述べます。まるで、顕微鏡で細部を観察するように、自分の感情を分解し、具体的に言葉に置き換えていくことで、よりオリジナルな言葉を生み出すことができると著者は言います。

 また、感情を言語化する際には、「共感」と「驚き」という二つの軸を意識することの重要性が語られます。自分が感動した理由を、「共感」なのか「驚き」なのか、どちらの感情が強く働いたのかを分析することで、その感情の源泉をより深く理解することができます。

 加えて、ネガティブな感情を言語化することの重要性も指摘されます。嫌だったことや、不快だったことを言葉にすることで、自分の価値観や、何が不快に感じるのかを明確にすることができるからです。また、退屈だった場合も、その理由を細かく分析することで、自分の価値観をさらに理解することができます。

 最後に著者は、メモを「自分しか見られない場所」に書くことを推奨します。それは、他人の目を気にすることなく、自分の感情を自由に吐き出すことができ、自分の言葉を素直に見つけることができるからです。まるで、日記をつけるように、自分だけの言葉で、推しへの愛を語り尽くすことができるのです。

第3章 - 推しを「しゃべる」技術:相手との情報格差を埋める旅

 第3章では、推しの魅力を「しゃべる」という行為に焦点を当て、具体的な方法論を提示します。SNSでの発信や、ブログでの執筆とは異なり、口頭でのコミュニケーションにおいては、相手との間に情報の格差が存在することを常に意識する必要があります。著者曰く、推しを語る上で最も重要なことは、相手がどれくらい推しのことを知っているのか、そして、推しに対してどのような印象を抱いているのかを把握することであるとのことです。

 その上で著者 は、相手との情報格差を埋めるために、3つの具体的なパターンを提示します。①「相手の知らない情報を補足」するパターン、②「相手の興味がある枠に合わせた譲歩」するパターン、③「相手の興味の無さに言及」するパターンです。

 これらのパターンは、相手に推しの魅力を伝えやすくするだけでなく、聞き手である相手を尊重し、会話をより円滑に進めるための技術でもあります。まるで、地図を渡すように、相手の知識レベルに合わせて、最適な情報を渡すことが重要になります。

 さらに著者は、推しの魅力を伝える際には、専門用語を避けて、できるだけ分かりやすい言葉で語ることを推奨します。専門用語は、仲間内では便利なツールですが、それ以外の人が聞くと、置いてけぼりになる可能性が高いからです。

 また、この章では、音声発信メディアで推しを語るコツについても解説されます。不特定多数に向けて発信する際には、話のポイントを強調することが重要であり、「ここを聞いてほしい!」という箇所を意識的に作り出すことで、聴衆の興味を引きつけ続けることができると著者はいいます。

 さらに、聴衆を「どこへ連れて行きたいか」を把握することの重要性も指摘されます。それは、単に情報を伝えるだけでなく、聴衆の感情や考え方に、どのような変化をもたらしたいのかを意識することです。まるで、旅のガイドのように、聴衆を目的地の感情へと導いていく必要があるのです。

 最後に著者は、なんだかんだいって、結局は「慣れ」が肝心であることを指摘します。最初はうまくいかなくても、何度も推しについて語る練習をすることで、だんだんと上達していく。それは、あたかも、楽器の練習のように、繰り返しの練習によって、表現力が磨かれていくということでしょう。

第4章 - SNSで「書く」技術:他人の言葉から自分の言葉を守る

 第4章では、SNSで推しについて発信する際の注意点と、効果的な発信方法について解説します。SNSは、誰もが自由に自分の意見を発信できる便利なツールですが、その一方で、他人の言葉に影響を受けやすく、自分の言葉を見失いがちになるという危険性も秘めています。

 本章で著者は、SNSで推しについて発信するコツは、まさに「自衛」であると断言します。それは、他人の言葉に影響されて、自分の意見を引っ込めたり、他人の反応を恐れて、自分の本音を言えなくなってしまうことを防ぐということです。SNSは、情報の拡散力が高いため、どうしても他人の意見が目に入ってきやすい。そのため、他人の意見に流されずに、自分の言葉を守るための強い意志が必要になります。

 具体的には、他人の言葉を無意識にコピーしてしまうことを防ぐために、まず、自分の推しに対する感情を丁寧に言語化することが重要であると著者は説きます。他人の意見は、あくまで他人の意見であり、自分の意見ではありません。自分の意見をきちんと持っていれば、他人の意見に左右されることなく、自分の言葉で発信することができます。

 そして、自分の意見と、他人の意見が違うことに自覚的になることの重要性も語られます。みんなと同じ意見である必要はありません。むしろ、積極的に自分と違う意見を発信することで、より豊かな議論が生まれる可能性があります。

 さらに、推しについての発信は、推しとの関係を深めるだけでなく、自己理解を深める鍵にもなると著者は述べます。なぜなら、推しについて語ることは、推しを通して、自分自身の価値観や、過去の経験を語ることでもあるからです。それは、あたかも、自分史を語るように、推しを好きになった背景を深く掘り下げていく作業といえるでしょう。

 また、他人の言葉は、知らず知らずのうちに、自分の心に伝染してしまう危険性があります。SNSで何度も同じ言葉を見ていると、自分の感情だと勘違いしてしまったり、ネガティブな言葉に触れ続けることで、心が蝕まれてしまうこともあります。だからこそ、他人の言葉から自分を守り、自分の言葉を大切にする必要があるのです。

第5章 - 推しを「文章に書く」技術:伝えたいことを効果的に届ける

 第5章では、SNSでの短文発信とは異なり、ブログやファンレターなど、長文で推しの魅力を伝えるための技術について、詳しく解説します。この章では、文章を書く前に、まず「読者」と「伝えたいポイント」を明確に決めることの重要性が強調されます。

 読者とは、誰に向けて文章を書いているのかということ。そして、伝えたいポイントとは、文章を通して、読者にどのような感情を抱いてほしいのか、どのような考えを持ってほしいのか、ということです。これらのゴールを明確に設定することで、文章の構成や内容が定まりやすくなります。

 次に、著者は、長文の書き出しで、読者の心を掴むための具体的なテクニックを解説します。具体的には、①良かった要素を描写する、②自分語りをする、③文脈で始める、④「問い」で始める、という4つのパターンを提示し、それぞれの特徴や効果を詳しく説明します。書き出しは、文章の顔となる部分であり、読者に「この文章を読んでみよう」と思わせるための重要な役割を担っています。

 そして、書き出しが完成したら、今度は、文章を書き終えることに専念します。文章の構成や言葉遣いにこだわりすぎず、まずは、最後まで書き終えることを最優先にするのです。なぜなら、完璧な文章を最初から書くことは、不可能に近いからです。まずは、粗削りな文章でも良いから、最後まで書き終えることが、修正へと繋がる第一歩になります。

 また、文章を書き終えるまでのコツとして、調べてわかることは、長く書かないことを推奨します。それは、読者が自分で調べられる情報をわざわざ書くよりも、読み手の興味を惹きつけ、「調べてみたい」と思わせるような、魅力的な文章を書くことに注力するべきだからです。

 さらに、ありきたりな言い方を避けることの重要性も指摘されます。それは、具体的に自分の感情や考えたことを言葉にすることで、読者に、より鮮明なイメージを伝えることができるからです。

 最後に著者は、文章を書き終えたら、必ず修正する習慣を身につけるようにと強く勧めます。修正は、文章をより洗練されたものにするだけでなく、自分の文章に対する理解を深めるための重要なプロセスです。修正を繰り返すうちに、文章の構成や言葉遣いが洗練されていき、より読者に伝わりやすい文章を書けるようになると述べます。

第6章 - 実践編:プロの推し語り文を参考に、自分のスタイルを確立する

 第6章では、実際に推しの魅力を伝える文章を、3つの異なるパターンに分類して紹介します。それは、①「推しを見るファン(自分)」を描いた文章、②「推しを見るファン(他人)」を描いた文章、③「推しそのもの」を描いた文章です。これらの例文を通して、プロがどのような視点で推しを見つめ、どのように言葉で表現しているのかを学ぶことができます。

 まず、①「推しを見るファン(自分)」を描いた文章としては、詩人の最果タヒさんが、自身の「推し」である宝塚の舞台に対する想いを綴った連載記事を紹介します。最果さんは、推しへの強い愛情や、それに対する葛藤を、美しい言葉で表現しており、多くのオタクの心に響くものがあります。

 次に、②「推しを見るファン(他人)」を描いた文章として、作家の三浦しをんさんが、コロナ禍でのコンサートの風景を綴ったエッセイを紹介します。三浦さんは、コンサート会場で隣にいた女の子の行動を描写することで、推しの魅力を間接的に表現しています。

 最後に、③「推しそのもの」を描いた文章として、東京大学大学院で英米文学を教える阿部公彦さんが、ジェーン・オースティンの小説『説得』の書評を紹介します。阿部さんは、作品の背景や魅力的なポイントを、わかりやすい言葉で解説しており、読者に読書の興味を喚起する力を持っています。

 これらの例文を通して、推しの魅力を伝えるには、様々な視点と表現方法があることを学ぶことができます。また、他者の文章を参考にしながらも、自分の言葉で語ることを忘れずに、自分の個性を大切にすることも重要です。

おまけ - 推し語りのお悩み相談室:Q&Aで疑問を解消

 本編の最後に、推し語りに関する、よくある疑問をQ&A形式で解説しています。他人と感想が違う時の不安、自分の表現が響かない時のもどかしさ、オタク特有の言葉遣いの悩みなど、様々な質問に、著者が丁寧に回答しています。

あとがき - 自分だけの言葉で、世界を彩ろう

 あとがきでは、著者が、この本を書いた真意を語ります。SNSで飛び交う無防備な言葉への危機感、他人の言葉に影響されて、自分の思考を見失ってしまうことの危険性を訴え、自分の言葉を持つことの重要性を説きます。

 著者は、言葉が持つ危険性と同時に、言葉が持つ可能性を信じています。自分の言葉で、推しを語ることで、自分自身を表現し、他者と繋がりたい、そして、言葉を通して、より豊かな世界を創造したい、という著者の熱い思いが、この本全体に溢れています。

 この本は、単なる推し活の指南書ではなく、言葉を通して、自分自身と世界を彩るための、実践的なガイドブックとなるでしょう。

人事の視点から考えること

 企業人事の立場から、「好き」を言語化する技術」というテーマを深く掘り下げて考えると、その示唆は単に個人の趣味や情熱の領域にとどまらず、組織全体を活性化し、人材育成、採用戦略、組織文化の醸成といった多岐にわたる人事活動に革新的な変革をもたらす可能性を秘めていることに気づかされます。
 本書が提示する「自分の言葉で語る」というシンプルな原則は、個人の成長と組織の発展が密接に結びついていることを明確に示し、現代の企業が直面する様々な課題に対する斬新な解決策を提供してくれるでしょう。いくつかの観点で考察を進めてみます。

1. 個の力を引き出す:自己理解、自己表現、そして個性を尊重する人事戦略

 人事の根本的な役割は、組織を構成する個々人の潜在能力を最大限に引き出し、その力を組織全体のパフォーマンス向上に繋げることにあります。「好き」を言語化する技術がもたらす恩恵は、まさにこの個の力を引き出すための重要な鍵となります。

  • 自己分析力の深化とキャリア形成への応用
     
    まず、自身の感情や思考を言葉で表現するプロセスは、自己理解を深めるための有効な手段となります。自分の「好き」を掘り下げ、その根源にある動機や価値観を明確にすることで、自分が何に喜びを感じ、どのような環境で最大限の力を発揮できるのかを客観的に把握することができるようになります。これは、単に趣味の領域を超え、自身のキャリアパスを設計し、自己実現へと向かうための羅針盤となり得ます。また、自己理解が進むことで、自身の強みや弱みを認識し、自己啓発の具体的な目標設定にも役立つでしょう。

  • 表現力の向上とコミュニケーション能力の強化
     
    さらに、自分の考えや感情を他者に効果的に伝える能力は、ビジネスシーンにおいて不可欠です。本書が推奨する「細分化」や「具体例」を用いた表現は、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力を飛躍的に向上させ、相手の理解を深め、共感を獲得するための重要なスキルとなります。抽象的な概念を、具体的な事例や自身の感情を交えて語ることで、聞き手の心に響く伝え方ができるようになり、交渉や会議など、様々なビジネスの場面で、より良い成果を上げることができるようになるでしょう。

  • 多様な個性の尊重と革新的な人材の発掘
     
    現代のグローバル化が進む社会では、多様なバックグラウンドや価値観を持つ人材が求められています。本書が強調する「自分の言葉で語る」力を持つ人材は、画一的な思考に囚われず、独自の視点や発想で物事を捉えることができるため、組織に革新的な変化をもたらす可能性を秘めています。人事担当者は、採用活動や人材育成において、これらの個性を尊重し、従来の評価基準にとらわれず、その強みを最大限に引き出すような柔軟な対応が求められます。また、それぞれの個性を尊重することで、個々人のモチベーション向上にもつながり、組織全体の活性化へと繋がるでしょう。

2. 組織の活性化:共感、心理的安全性、そして文化の醸成

 組織が活性化し、持続的な成長を遂げるためには、従業員同士の強固な信頼関係と相互理解、心理的安全性の高い環境が不可欠です。本書が推奨する「自分の感情を共有する」という行為は、まさにこれらの要素を育み、組織全体をポジティブな方向へと導くための原動力となります。

  • 共感力の向上と協調性の促進
     
    自分の「好き」を他者と共有する経験は、相手の価値観や視点に対する理解を深め、共感力を向上させます。この共感力は、チームワークの向上や部門間の連携強化、そして顧客との信頼関係構築に繋がり、組織全体の協調性を高める重要な要素となります。また、共感を通じて、多様な価値観を持つ仲間と協力し合い、より良い成果を出すことができるようにもなります。

  • 心理的安全性の向上と創造性の開花
     
    自分の感情を安心して表現できる環境は、従業員の心理的安全性を高め、組織全体の創造性を開花させます。心理的安全性が高い組織では、従業員は失敗を恐れずに積極的に意見を述べ、斬新なアイデアや革新的な解決策を生み出すことができます。また、相互に尊重しあい、安心して自己表現できる環境は、ハラスメントやパワハラなどの発生を抑制し、従業員の精神的な健康を保つ上でも非常に重要です。

  • 組織文化の醸成とエンゲージメントの向上
     
    共通の「好き」や価値観を持つ仲間が集まることで、組織内に独自の文化が醸成され、エンゲージメントが向上します。同じ目標に向かって共に「好き」を語り合い、共感しあうことで、組織の一体感が高まり、個々人の組織への貢献意欲を高めることができます。また、このような組織文化は、外部からの優秀な人材の惹きつけ、企業のブランドイメージ向上にも繋がるでしょう。

3. 研修プログラムへの応用:実践的な言語化トレーニングと自己成長の促進

 本書の内容は、既存の研修プログラムにも容易に応用することが可能です。従業員の自己表現力を向上させ、組織全体のコミュニケーションを活性化するための、具体的な研修プログラムを設計することができます。

  • 実践的な言語化トレーニング
     
    自分の感情や思考を言語化する具体的な方法を学ぶ研修を実施することで、従業員の自己表現力を向上させることができます。ワークショップ形式で、互いの「好き」について語り合い、フィードバックを行うことで、言語化のスキルを磨くと同時に、相互理解も深めることができます。また、具体的なテーマを設定し、言語化のプロセスを体験する研修を繰り返すことで、より実践的なスキルを身につけることができるでしょう。

  • プレゼンテーション能力向上研修
     
    本書で紹介されている「細分化」「具体例」の表現方法は、プレゼンテーション研修に取り入れることができます。研修を通して、論理的に情報を整理し、相手に分かりやすく伝える技術を習得することができるでしょう。また、参加者同士でプレゼンテーションを行い、互いにフィードバックを行うことで、より実践的なスキルが身につきます。

  • 多様性理解研修への応用
     
    様々な「好き」を持つ人の価値観に触れる研修を通して、従業員は多様性に対する理解を深めることができます。研修では、自分の「好き」について語るだけでなく、他人の「好き」を尊重し、積極的に耳を傾けることで、よりオープンでインクルーシブなコミュニケーションを促進することが期待されます。また、固定概念を覆し、多様な価値観を受け入れることで、より柔軟な思考を身につけることができるでしょう。

4. 採用活動への示唆:個性を重視し、未来を共創する人材を求める

 採用活動においても、本書の考え方は革新的な示唆を与えてくれます。従来のスキルや経験だけを評価する採用方法から、個性を重視し、共に未来を創造できる人材を求める採用戦略へと転換することが求められます。

  • 個性的な人材の発見と採用戦略の転換
     
    面接で、「あなたの好きを語ってください」という質問をすることで、候補者の思考力や表現力、情熱を測ることができるだけでなく、その人ならではの個性を理解することができます。また、従来の評価基準に捉われず、候補者のユニークな才能や視点を発掘し、その強みを最大限に活かすことができるポジションを見つけることが可能になります。

  • 企業の魅力を効果的に伝える
     
    企業側も、自分たちの「好き」を言語化することで、より魅力的な企業文化を候補者に発信できます。採用活動において、企業の価値観やミッションを単なる言葉ではなく、社員自身の言葉で語ることは、候補者の共感を呼び起こし、企業のエンゲージメントを高めることに繋がります。また、企業の理念や価値観に共感してくれる候補者は、入社後の離職率を抑制し、長期的な活躍が期待できます。

5. 課題と注意点:バランス感覚と倫理観を持った運用

 一方で、企業人事として本書の考え方を採用する際には、いくつか課題や注意点も存在します。バランス感覚と倫理観を持って運用することが、長期的な成功に不可欠です。

  • 過度な自己開示への懸念とプライバシー保護
     
    心理的安全性を高めることは重要ですが、過度な自己開示は、時にハラスメントやパワハラといった問題に繋がる可能性も孕んでいます。そのため、従業員が安心して自己開示できるような、適切なガイドラインやルールを策定する必要があるでしょう。また、従業員のプライバシーを保護する意識も、人事担当者にとって、常に意識すべき重要な要素です。

  • 「好き」の多様性を尊重し、画一的な価値観の押し付けを避ける
     
    「好き」は人それぞれであり、企業の価値観と必ずしも一致するとは限りません。多様な「好き」を尊重する姿勢が重要であり、特定の価値観や偏った価値観を押し付けるような行為は避けるべきです。また、従業員の多様な価値観を尊重することで、組織全体の多様性が向上し、革新的なアイデアが生まれやすくなります。

  • 言語化の強制にならないように配慮し、個人のペースを尊重する
     
    「自分の言葉で語る」ことを強制するのではなく、あくまで自発的な行動を促すようなアプローチが必要です。全ての人に言語化を求めるのではなく、それぞれのペースや表現方法を尊重することが重要です。また、言語化が苦手な人もいることを理解し、無理に言葉にさせようとしないことも大切です。

まとめ:個の力を最大化し、組織を革新する人事戦略の羅針盤

 「好き」を言語化する技術」という一見個人的なテーマを、企業人事の視点から捉え直してみると、このテーマが単なる趣味や個人の情熱の領域にとどまらず、人材育成、組織開発、採用戦略、企業文化の醸成といった、企業の成長に関わるあらゆる活動において、非常に大きな可能性を秘めていることに気づかされます。従業員一人ひとりの個性を尊重し、その力を最大限に引き出し、組織全体を活性化させるための羅針盤として、本書で提示された考え方や技術を、積極的に取り入れるべきでしょう。

 ただし、過度な自己開示の強制や、画一的な価値観の押し付けには注意し、常に倫理観とバランス感覚を持って運用することが不可欠です。この本が提示する「自分の言葉で語る」というシンプルな原則を、人事戦略に取り入れることで、より人間的で、創造性あふれる組織文化を育み、未来を共に創り上げていくことができるでしょう。

心地よい作業スペースを描いており、推し活や感情を言葉にするためのインスピレーションが詰まっています。ノートには手書きのメモやスケッチがあり、カラフルなペンや関連書籍が並び、創造力を刺激する雰囲気を醸し出しています。机周りの小さな装飾が、推しへの愛や趣味を象徴しているのが印象的です。


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