
目標設定と自己変革:組織ラジオ特別編:いまのたかの組織ラジオ#220
今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。今回のテーマは、「一年の計 3つの習慣」です。内容を確認・考察したいと思います。
番組冒頭、今年のテーマとして「一年の計は元旦にあり」を掲げ、今野氏が自ら定めた3つの目標を発表します。
まず一つ目は、80歳になった時の状態目標を定めること。これは単なる目標ではなく、80歳になった時の心の状態、能力、知識がどうなっているかを具体的にイメージし、図解化したものです。この図解は、文字だけでなく、絵や写真も用い、壁に貼って毎日見ることで、常に意識できるように工夫されています。
二つ目の目標は、昨年も試みていた「いいこと日記」を毎日欠かさず続けること。単に良かったことを記録するだけでなく、毎日、感謝したこと、面白かったこと、そして学んだことを書き出すという、より詳細な内容となっています。
そして三つ目は、人の悪口や愚痴を極力言わないようにすること。特に身近な人に愚痴をこぼしてしまうことが多いという反省から、今年は意識的にそれを0に近づけることを目指します。
これらの目標設定の背景には、今野氏の過去の多岐にわたる経験があります。荒れた中学校でのワークショップや、クラブのホステスのコーチングなど、さまざまな人々と関わる中で、人の成長や変化を間近で見てきました。
特に、リクルート時代に、自社クラブの立ち上げ・運営に携わった経験は、ホステスのコーチングを行うきっかけとなりました。当時、今野氏は、ホステスたちに対し、宝地図(自己実現を促進するための視覚的なツールであり、特に望月俊孝氏によって広められたメソッドのことを指している)の作成、いいこと日記の記録、そして控え室での悪口をやめることを勧めました。この3つを実践したホステスの中には、短期間でトップクラスの人気を得るまでに成長した者もいたそうです。この経験から、これらの目標は、人の成長や変化を促す上で非常に有効であると確信し、今年は自ら実践しようと考えたのです。
では、なぜこれらの目標が効果的なのでしょうか。
まず、宝地図については、ビジュアルで目標を明確にすることで、カラーバス効果が発揮されると説明します。カラーバス効果とは、ある特定のことを意識すると、それに関する情報が無意識のうちにたくさん集まる現象です。目標をビジュアル化することで、常にその目標が意識の中に存在し、無意識的に目標達成に向けて行動するようになります。また、人間の感覚受容体の多くが視覚に関連しているという事実も、ビジュアル化の重要性を裏付けています。
次に、いいこと日記については、ポジティブ心理学で有名なマーティン・セリグマン氏が提唱した「3good things」という考え方に基づいていると解説します。これは毎晩寝る前に良かったことを3つ書くだけで、幸福度が向上するというもので、その効果は半年程度持続すると言われています。幸福度が向上すると、接客業だけでなく、あらゆるコミュニケーションの質が向上し、仕事や人間関係が円滑に進むようになります。
そして最後に、悪口を言わないことについては、脳科学的な視点から説明します。脳の中でも原始的な大脳辺縁系は、主語を理解できないという説があり、悪口を言うと、自分自身がその悪口の対象になってしまうというのです。つまり、他人の悪口を言うことは、自分を傷つける行為であり、幸福度を下げることに繋がります。さらに、悪口を言わない人は、謙虚で素直、自信と余裕がある、相手の良い面を見ることができるといった共通点があるといわれています。
これらの目標は、単に個人の成長を促すだけでなく、ビジネスパーソンにも非常に有効であるとしております。特に、職場の同僚や上司の悪口を言うのをやめるだけでも、大きな変化が期待できると強調します。
今野氏も、ホステスのコーチングを通して、悪口をやめることの重要性を実感したと語ります。そして、これらの目標は、相互に影響し合い、相乗効果を生み出すと説明します。たとえば、良いことを探す習慣は、他人の中にも良い面を見つけやすくし、その結果、悪口を言わなくなるという好循環を生み出します。
最後に、高野氏もまた、自身の80歳の姿を想像し、ビジュアル化することに意欲を示し、リスナーにもこれらの目標を参考に、自己変革に挑戦することを呼びかけました。
自己変革とは、単に目標を掲げるだけでなく、過去の経験から学び、理論に基づいた方法を実践することで、より効果的に実現できるということを、改めて認識させられました。そして、小さな習慣の変化が、大きな変化を生み出す可能性があるという希望を与えてくれる内容でした。
企業人事として、個と組織の成長を両立させるための視点と実践
今回の内容は、単なる個人の目標設定にとどまらず、企業人事の観点からも深く考察すべき多くの示唆に富んでいます。番組で語られた「80歳の状態目標」「いいこと日記」「悪口を言わない」という3つの目標は、個人の自己変革を促すだけでなく、組織全体の成長を加速させるポテンシャルを秘めているといえるでしょう。人事としても、これらの考え方を組織全体に浸透させ、社員一人ひとりの成長を組織の成長に繋げるための具体的な戦略を立案・実行していくことが求められます。
1. 個人の成長と組織の成長を繋げる多角的な視点
まず、人事として注目すべきは、個人の成長と組織の成長をいかに連動させるかという点です。番組内で示された個人の目標設定は、単に「個人の問題」として捉えるのではなく、組織全体のパフォーマンス向上に繋がる要素として捉えるべきでしょう。
自己変革の意識醸成と支援
番組内で語られた自己変革への意識は、社員一人ひとりが「現状維持」に甘んじることなく、常に自己成長を追求する姿勢へと繋がります。人事としては、このような意識を醸成するために、自己啓発に関する情報提供や研修プログラムの充実、キャリア相談窓口の設置など、多角的な支援策を展開する必要があります。また、社員が自身の成長を実感できるよう、目標達成度を可視化するツールや、成長を称賛する制度の導入も検討すべきでしょう。
目標設定の質と具体性の向上
番組では「ビジュアル化」の重要性が強調されていますが、これは目標設定においても同様に重要です。社員が抽象的な目標を掲げるのではなく、具体的な行動計画に落とし込めるよう、目標設定に関する研修やワークショップを企画・実施する必要があります。また、目標達成までのプロセスを重視し、定期的な進捗確認や見直しをサポートする仕組みも不可欠です。
ポジティブな職場環境構築
「いいこと日記」は、個人の幸福度を高めるだけでなく、職場全体の雰囲気を明るくする効果も期待できます。社員同士が感謝の言葉を送り合う文化を醸成したり、チーム内でのポジティブな出来事を共有する機会を設けたりするなど、ポジティブな職場環境を構築するための取り組みを積極的に展開する必要があります。また、社員の心理的安全性を確保し、安心して意見を交換できるような風土作りも重要です。
コミュニケーションの活性化と質の向上
「悪口を言わない」という目標は、職場内の人間関係を円滑にし、生産性の向上に繋がる重要な要素です。人事としては、社員同士が建設的なコミュニケーションをとり、互いを尊重し合えるよう、コミュニケーション研修やチームビルディング研修を実施するだけでなく、日常的なコミュニケーションを促進するための施策を講じる必要があります。
2. 組織文化への戦略的な影響と浸透
次に、これらの個人の目標が、組織文化に与える影響を考慮し、戦略的に浸透させていくことが重要です。組織文化は、単に言葉で定義するだけでなく、具体的な行動や価値観として社員一人ひとりに浸透させていく必要があります。
組織ビジョンと個人ビジョンの融合
番組で言及された「宝地図」の考え方は、組織全体のビジョンを明確に示し、社員が自身のキャリア目標と企業の成長をリンクさせる上で非常に有効です。人事としても、組織のビジョン策定プロセスに社員を巻き込み、社員一人ひとりが「自分ごと」として捉えられるような、エンゲージメントの高いビジョン策定を行うべきです。また、定期的に組織のビジョンを社員に共有し、理解を深めるための機会を設けることも重要です。
企業文化の可視化と共有
企業文化を言語化・可視化することで、社員の行動指針を明確にし、組織全体の意思統一を図ることができます。人事としては、企業理念や行動規範を浸透させるための研修やワークショップを企画するだけでなく、日常的な業務の中で、企業文化を体現する行動を促進する仕組みを構築する必要があります。また、企業文化を象徴するようなイベントや活動を企画し、社員のエンゲージメントを高めることも効果的です。
ポジティブな組織風土の継続的な醸成
「良いこと」に焦点を当てることで、ポジティブな組織風土を醸成できるだけでなく、社員の心理的なストレス軽減にも繋がります。人事としては、社員同士が良い行いを認め合い、感謝を伝え合う文化を形成するための施策を継続的に実施する必要があります。また、社員の意見やアイデアを積極的に取り入れ、組織運営に反映させることで、社員の主体性を尊重する組織風土を醸成することも重要です。
心理的安全性のさらなる確保
悪口や愚痴を言わない環境を作るためには、心理的安全性が不可欠です。人事としては、社員が安心して意見を言える場を提供したり、ハラスメント防止の取り組みを徹底したりするだけでなく、日常的なコミュニケーションの中で、社員一人ひとりを尊重する姿勢を示す必要があります。また、社員の意見や不満を吸い上げるためのアンケート調査や個別面談を実施し、組織の課題を把握し、改善に繋げることも重要です。
3. 人材育成と能力開発における戦略的展開
さらに、これらの考え方を人材育成や能力開発に繋げ、組織全体の能力向上を図ることが重要です。人材育成は、単に研修を行うだけでなく、社員の成長を継続的に支援する仕組みを構築する必要があります。
コーチングスキルの体系的な向上
番組内で語られたコーチングの事例は、人材育成において非常に示唆に富んでいます。人事としては、管理職やリーダー層に対して、部下の成長をサポートするためのコーチング研修を実施するだけでなく、コーチングスキルを継続的に向上させるためのフォローアップ体制を構築する必要があります。また、コーチングスキルを習得した社員が、社内コーチとして活躍できるような制度を導入することも検討すべきです。
自己認識と自己成長を促進する機会提供
「いいこと日記」のように、自身の内面と向き合う習慣は、自己認識を深め、自己成長を促進する上で非常に有効です。人事としては、社員が自身の強みや弱みを客観的に把握できるような自己分析ツールを提供したり、キャリアプランを立てるためのキャリアカウンセリングを実施したりするなど、自己認識を深めるためのサポートを積極的に行う必要があります。
フィードバック文化のさらなる深化
ポジティブなフィードバックを積極的に行うことは、社員のモチベーションを高め、成長を促す上で非常に重要です。人事としては、1on1ミーティングや評価制度を通じて、社員へのフィードバックを習慣化するだけでなく、社員同士が互いにフィードバックを送り合う機会を設けることも検討すべきです。
多様な人材の活躍を促進する制度構築
様々なバックグラウンドを持つ社員が、それぞれの強みを活かして活躍できるような環境を整備することが重要です。人事としては、ダイバーシティ&インクルージョンに関する研修やワークショップを実施するだけでなく、社員の多様な働き方を支援する制度を導入するなど、多様な人材が尊重され、活躍できる組織文化を醸成する必要があります。
4. 人事制度への反映と実践における具体的な展開
最後に、これらの考え方を人事制度に反映させ、具体的な行動として実践していくことが重要です。人事制度は、単にルールを定めるだけでなく、社員の行動をポジティブな方向に導くためのツールとして活用する必要があります。
評価制度の多角的視点からの見直し
目標達成度だけでなく、プロセスや行動も評価に反映させることで、社員の自己変革への意欲を高めることができます。例えば、「いいこと日記」のように、ポジティブな行動を可視化し、評価に加えることも検討できます。また、多面的評価など、多角的な視点からの評価を導入することで、社員の成長を多面的に捉えることができるようにする必要があります。
研修プログラムの拡充と個別最適化
自己変革を促進するための研修プログラムを充実させ、社員が自身の成長を実感できるような機会を提供することが重要です。コーチング研修や目標設定研修など、様々な研修プログラムを開発するだけでなく、社員のキャリアプランやスキルレベルに合わせて、研修プログラムを個別最適化する必要があります。
人事制度の透明性確保と説明責任の徹底
人事制度の目的や評価基準を社員に明確に伝えることで、社員の不信感を解消し、納得感を持って仕事に取り組めるようにする必要があります。人事担当者は、人事制度の内容だけでなく、制度の運用方法についても、社員に丁寧に説明する責任があります。
制度運用における公平性と多様性の尊重
人事制度を運用する上で、公平性を保つことは非常に重要です。人事担当者は、偏りのない視点を持ち、社員一人ひとりを尊重した対応を心がける必要があります。また、多様な価値観や働き方を尊重し、社員が安心して働けるような制度運用を行うことが重要です。
まとめ:個と組織の成長を両輪として捉え、持続的な成長を目指す
今回は、個人の成長が組織の成長に繋がるという、現代の企業が抱える課題に対する重要なヒントを与えてくれました。人事としては、番組で語られた内容を単なる情報として捉えるのではなく、社員の自己変革を促進し、組織文化を向上させるための具体的な施策に繋げ、社員一人ひとりが成長を実感し、組織全体の成長に貢献できるような、持続可能な組織づくりを目指していくべきでしょう。それは、企業人事の使命であるとともに、企業の持続的な成長を支える基盤となるものでしょう。