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【書籍】『致知』2025年2月号(特集「2050年の日本を考える」)読後感
致知2025年2月号(特集「2050年の日本を考える」)における自身の読後感を紹介します。なお、すべてを網羅するものでなく、今後の読み返し状況によって、追記・変更する可能性があります。
今回の特集は、「2050年の日本を考える」です。過去の日本の歩みを振り返りながら、2050年という未来を見据え、日本がどのような国であるべきか、そしてそのために何が必要なのかを考察していきます。その頃は私も70歳代。歴史の流れを俯瞰し、日々の具体的な行動に繋げていくことが重要と思います。非常に重要なテーマです。読み進めながら、企業人事の立場からも考察を深めていきたいと思います。
巻頭:過てば則ち改むるに憚かること勿なかれ。過ちて改めざる、是を過ちと謂う。──『論語』学而・衛霊公 數土文夫さん(JFEホールディングス名誉顧問)p2
數土氏は、古代中国の賢人である孔子の言葉を現代に蘇らせ、その普遍的な教えを現代日本社会が抱える課題と照らし合わせながら、我々が直面している状況の本質を鋭く抉り出しています。そして、単なる現状分析に留まらず、その解決への道筋を示すべく、力強いメッセージを発信しています。
まず、孔子の教えを基盤に「人」という存在の本質的な評価基準を提示します。孔子が重視したのは、単に言葉だけではない、行動を伴った真の人間性でした。どれほど立派なことを口にしていても、それが実践を伴わないならば、その人物は評価に値しないと断じます。
さらに、孔子は「仁」と「義」という二つの徳目を特に重要視しました。「仁」とは、他者への思いやり、自分の嫌なことは他人にもしないという寛容の精神を意味します。一方、「義」とは、正しいと信じたことを貫く勇気、利他心に根ざした行動を指します。數土氏は、この二つの徳目は、人の一生において死活的に重要だと説き、特に、「義を見て為さざるは勇なきなり」という言葉を引用し、口先だけの正義を戒めています。過ちを犯さない人はいないが、最も重要なのは、過ちを改めることだと強調します。過ちを改めないことは、真の過ちを犯すことと同じであると、厳しく指摘しています。
次に數土氏は、時を遡り、日本の現状を深く憂慮します。かつて、日本は世界の羨望を集める経済大国でしたが、現在は失われた三十年という長い停滞期に突入しています。その要因は、単なる経済的な要因に留まらず、より根源的な問題、すなわち、過去の過ちを直視せず、無為に過ごしてきたことにあると指摘します。
具体的には、政治、経済、社会の各方面で問題が山積しているにも関わらず、問題の本質を理解しようともせず、改革を怠ってきた結果、このような惨憺たる状況を招いてしまったと分析します。政治の世界では、金銭問題、派閥争い、世襲政治といった不透明な要素が依然として存在し、国民の政治不信を招いています。経済界でも、かつては世界をリードしていた製造業が不祥事を連発し、金融業界も信頼を失っています。社会面では、弱者を狙った犯罪が横行し、人々は不安と不信感に苛まれています。
このような現状に対し、數土氏は、単に現状を嘆くだけでなく、その根源的な原因を明らかにしようとします。そして、その原因の一つは、「五箇條の御誓文」の精神、すなわち、「万機公論に決すべし」という公論による意思決定の欠如と、変化を恐れる保守的な姿勢にあるとしています。
そして、最後に、絶望的な状況を打破するための希望を語ります。それは、変化を恐れず、過去の過ちを直視し、それを受け止め、改める勇気を持つことだと言います。
世界は常に変化しており、過ちの形態もそれに合わせて変化していくにもかかわらず、日本はあまりにも変化に対して慎重で、臆病だと批判します。変化を恐れるあまり、過去の過ちにしがみつくのではなく、新しい時代に合わせて、柔軟に変化していく必要があると説きます。
そして、その原動力となるのが、「義」の精神であり、日本人は古来より「義」を重んじてきた国民なのだから、その精神を思い起こし、勇気をもって前に進むべきだと力強く訴えかけます。數土氏の言葉は、単なる批判に留まらず、日本が再び輝きを取り戻すための道筋を示唆するものであり、読む者の心を強く揺さぶる力を感じました。
いくつか人事視点の気づきをメモしておきます。
數土氏が指摘する「言動一致」の重要性は、人事評価の根幹に関わる問題です。企業理念や行動規範を掲げるだけでなく、それを社員が実践できているかを評価する必要があります。そのためには、単なる成果だけでなく、プロセスや行動も評価対象に加える必要があります。
また、「過ちを改める」という考え方は、人材育成において非常に重要です。失敗を恐れて挑戦しないのではなく、失敗から学び、改善する姿勢を評価し、奨励する文化を醸成する必要があります。そのためには、心理的安全性の高い環境を作り、社員が安心して意見や反省を述べられるように配慮すべきです。
さらに、「変化を恐れない」姿勢は、組織全体の成長を促す上で不可欠です。新しい技術や市場動向に対応できるよう、社員のリスキリングを支援し、変化に対応できる人材を育成する必要があります。
最後に、「義」の精神を持つ人材を育成することは、企業の社会的責任を果たす上で重要です。コンプライアンス遵守だけでなく、社会貢献への意識も高く、倫理観を持った人材を育成する必要があります。
リード:藤尾秀昭さん 特集「2050年の日本を考える」p6
ヤナセの梁瀬次郎氏から聞いた話として、第二次世界大戦後の日本の驚異的な復興を例に挙げます。敗戦によって焦土と化した日本が、わずか19年後には新幹線を走らせ、高速道路を建設し、東京オリンピックを開催するという偉業を成し遂げました。この劇的な復興の理由について、梁瀬氏は元総理の吉田茂氏に問いかけました。吉田元総理は、「日本には資源がないが、日本人の勤勉性という唯一の資源があったからだ」と答えたと言います。この言葉は、日本人の勤勉さ、誠実さ、そして忠誠心という美徳が、いかに国家の発展に不可欠であるかを示唆しています。
この話は、渡部昇一氏の言葉「どんな困難が迫ってきたとしても、日本人のアイデンティティーが確立されていれば、怖いものはない」と重なります。渡部氏は、日本人のアイデンティティーを失うことこそが最大の国難であると指摘します。
渡部氏は、そのアイデンティティーの核として「皇室」を挙げていますが、本特集では、さらに日本人の勤勉性を強調します。勤勉さは、単なる労働倫理ではなく、誠実さや忠誠心と結びついた精神的な価値であり、この資質を失わない限り、日本はどんな困難も乗り越えていけると確信しています。
さらに、特集では、晩年の森信三師の言葉として、「2025年、日本は再び甦る兆しを見せるであろう。2050年になったら列強は日本の底力を認めざるを得なくなるであろう」という、希望に満ちた予言を紹介しています。この言葉は、未来への期待を抱かせると同時に、その実現に向けて、今、何をするべきかを私たちに問いかけます。
しかし、この予言を実現するためには、過去の成功体験に安住するのではなく、常に変化を恐れず、自己改革を続ける必要があります。記事では、会社を例に挙げ、絶えず手当てをしなければ潰れてしまうように、国もまた同様であると述べています。過去には、約180もの国が消滅しているという事実を指摘し、国が滅びるのは、その国を国たらしめているものを守る気概を国民が失った時であると警鐘を鳴らします。
この教訓を胸に、藤尾氏は、2023(令和5)年に開催された「北海道社内木鶏経営者会合同木鶏会」での出来事を振り返ります。その会合では、一般参加者に加え、多くの高校生が「致知」をテキストに感想を発表しました。特に、高校生たちが熱意を持って語る姿は、日本を甦らせる可能性を感じさせました。25年後には社会の中枢を担う世代です。彼らが、森信三の予言を現実にするためには、現在の社会を担う我々が、今、何をしなければならないのか、深く考える必要性を示しています。
そこで、今月号では各界のエキスパートを招き、それぞれの立場から日本の進むべき道を論じます。様々な視点からの意見交換を通して、日本の未来を切り開くための具体的な道筋を探ります。
そして、最後に、古の先哲の言葉「一年の計は穀を樹うるに如くはなし、十年の計は木を樹うるに如くはなし、終身の計は人を樹うるに如くはなし」(『管子』)を引用します。この言葉は、短期的な成果だけでなく、長期的な視点での人材育成が最も重要であることを示唆しています。特に、知識や技能を教える教育だけでなく、人間の心を高め、徳性を養う「人間学」の教育が不可欠であるとします。
2025(令和7)年は、森信三師の予言にあるように、日本が再び甦る兆しを見せる年であり、干支は「乙巳」。この年は、過去の陋習を打ち破り、未来に向けて新たな一歩を踏み出す年にするべきだと述べています。日本の未来を切り開くために行動することを強く訴え、締めくくられていました。
企業人事の立場から、いくつか挙げてみます。
まずは、「人」を育てるという視点が重要です。紹介されているように、勤勉さ、誠実さ、忠誠心といった日本人の美徳は、企業の持続的な成長に不可欠な要素です。これらの資質を持つ人材を育成するためには、知識・技能だけでなく、倫理観や人間性を重視した教育が不可欠です。
具体的には、採用においては、ポテンシャルだけでなく、価値観や倫理観も評価に取り入れ、入社後の研修では、人間学やリーダーシップを学ぶ機会を設けるべきでしょう。また、社員のキャリア形成においては、長期的な視点に立ち、個々の成長を支援する制度を整備し、多様な経験を積ませることで、組織全体の底上げを図る必要があります。
2050年を見据え、企業が持続的に成長するためには、組織の未来を担う人材の育成に、人事として積極的に関与していくことが不可欠であるといえるのではないでしょうか。
2050年の日本を考える 櫻井よしこさん(国家基本問題研究所理事長)中西輝政さん(京都大学名誉教授)p8
中西輝政氏と、櫻井よしこ氏という、日本を代表する知性が、来る2050年の日本社会の姿を多角的に見据え、政治、経済、安全保障、歴史、文化といった多岐にわたる分野を横断的に議論し、それぞれの専門知識と深い洞察力を基に、日本の未来に対するビジョンを描き出そうとしています。
両氏は、現状に対する危機感を共有しつつも、日本が今後どのような道筋を辿るべきなのか、未来に向けて果たすべき役割は何か、といった問いに対し、明確な答えを提示しようとしています。
政治の責任と道徳の根幹:信頼回復への切実な訴え
対談は、現在の政治状況に対する両氏の強い懸念から始まります。特に、石破政権の誕生、そしてその直後の解散総選挙による与党の過半数割れという事態を、政治家としての責任の欠如、国民への裏切りと捉え、批判的な視点から議論を展開していきます。
中西氏は、政治家、特に総理大臣という重責を担う者が、国民からの信頼を失ったにもかかわらず、その責任を曖昧にする姿勢を厳しく批判し、政治家自身の道徳観の欠如、倫理観の低下を指摘しています。
櫻井氏は、政治が本来持つべき道徳や道義といった価値観が失われ、政治家自身が責任を回避する現状を深く嘆き、政治家が個人の利益や保身に走るのではなく、国民全体の幸福のために行動すべきだという、民主主義における根源的な原則を再認識する必要性を強調しています。両氏は、国民の信頼回復こそが、日本の政治を立て直す上で最も重要な課題であり、そのための抜本的な改革を訴えています。
石破内閣の迷走と国益を損なう政策:変革への警鐘
両氏は続けて、石破内閣の政策と対外姿勢が、日本の将来に及ぼす危険性について、具体的な事例を挙げながら詳細に分析しています。
中西氏は、石破氏が自身の政策を都合よく転換させ、特に安全保障政策やエネルギー政策において、日本の国益を著しく損なう可能性を指摘しています。対外政策においても、一貫性がないだけでなく、国際的な信頼を失墜させ、日本の立場を危うくする危険性を指摘し、そのリーダーシップの欠如を厳しく批判します。
櫻井氏も、石破氏の場当たり的な行動が、日本の国際的なプレゼンスを低下させ、外交的な孤立を招く可能性があると警告します。両氏は、日本のリーダーシップは、確固たる信念、明確な戦略、そして国民からの信頼に基づいている必要があり、現在の政治状況は、それを著しく欠いていると訴え、より責任感のある政治の必要性を強く訴えています。
安全保障の危機と「三国同盟」:迫りくる脅威への具体的提言
安全保障の観点からは、中国、ロシア、北朝鮮の連携を「三国同盟」と捉え、その脅威が増大している現状に対して、強い危機感を表明しています。
両氏は、これらの全体主義的な国々が、国際的な秩序を揺るがし、世界的な緊張を高めていると分析し、その危険性を国民に広く認識させる必要性を説きます。日米同盟の重要性を再認識しながらも、アメリカへの過度な依存を避け、日本が自立した防衛力を確立することが不可欠だと強調します。
中西氏は、中国の軍事的な台頭と脅威について、その規模や具体的な脅威を指摘し、冷静かつ戦略的に対処すべきだと強調します。
櫻井氏は、核兵器の開発を進める北朝鮮の脅威にも触れ、日本が現実的な安全保障政策を構築する必要性を訴えます。
両氏は、日本を取り巻く安全保障環境が、かつてないほど厳しさを増していることを指摘し、防衛体制の強化、外交戦略の再構築が急務であると訴えています。
中国の現状と展望:経済の失速と体制の不安定化
中国については、経済成長の鈍化、国内矛盾の深刻化、習近平体制の不安定化に焦点を当て議論を展開します。
中西氏は、中国経済の成長が鈍化し、国内の失業率が増加、不動産バブルが崩壊するなど、経済の基盤が揺らいでいる状況を具体的に説明し、習近平体制の将来に不確実性が増していると分析します。
櫻井氏も、中国国内で頻発する社会不安や政府に対する不満の高まりを指摘し、中国共産党の支配体制が危機に瀕している可能性を示唆します。両氏は、中国の軍事的な脅威に警戒しつつも、その内部に潜む脆弱性を見過ごすべきではないと主張し、中国を過度に恐れることなく、冷静かつ客観的に分析する必要性を訴えます。今後の中国の動向は、日本の外交戦略と安全保障政策を左右する重要な要素であり、その変化を常に注視する必要性を強調しています。
歴史観の重要性と日本の精神的支柱:アイデンティティの確立
歴史観の重要性については、両氏が特に力を入れて議論を交わします。
櫻井氏は、日本人が自国の歴史や文化を正しく理解し、その中で培われてきた精神的な価値を再認識する必要性を強く訴え、特に、万世一系で連綿と続いてきた皇室のご存在、神道、仏教、儒教の教え、和の心、武士道といった、日本人の精神的な支柱となる価値観を再評価する必要性を主張します。
中西氏も、日本独自の価値観、特に聖徳太子の「十七条憲法」に代表されるような、人権や幸福を尊重する思想は、日本が世界に誇るべき独自性であると述べ、日本人がこれらの価値観を再認識し、それを基盤とした国家を再建する必要性を強調します。
両氏は、自国の歴史と文化を理解することこそが、日本人のアイデンティティを確立し、国際社会において自信を持って行動するための基盤となると信じています。
日本再生への提言:「義」の精神と教育改革:未来を担う人材の育成
日本の再生に向けて、両氏は具体的な提言を行います。
中西氏は、「義」という価値観の重要性を強調し、日本人自身が「義」の精神を取り戻す必要性を強く訴え、また、「武士道」を例に挙げ、国家の危機に際して、国民が一致団結し、立ち向かうための精神的な基盤の重要性を説きます。また、社会全体の教育を変革し、次世代を担う若者たちに、正しい歴史観と道徳観を身につけさせる必要性を強調します。
櫻井氏も、家庭、学校、社会全体で、日本人としての誇りと責任感を育む教育を行うべきだと述べ、特に、国家の危機に際して、自ら考え、行動できる人材を育成することが不可欠であると主張します。
両氏は、教育改革こそ、日本を再生させるための最も重要な要素であり、そのための具体的な政策を実行する必要性を訴えています。
トランプ政権への期待と警戒:不確実な国際情勢への備え
トランプ政権の再登場は、両氏にとって、期待と警戒の両面を含んだ複雑なテーマです。両氏は、トランプ氏の再選が、中国に対する抑止力となり、東アジアの安全保障環境に良い影響を与える可能性に期待する一方、トランプ氏の行動は予測が難しく、アメリカファーストを優先するあまり、日本の国益が損なわれる可能性も懸念しています。
中西氏は、トランプ氏の保護主義的な政策が、グローバル経済にどのような影響を与えるかについて分析し、日本が多角的な外交戦略を持つ必要性を主張します。
櫻井氏は、アメリカに過度に依存することなく、日本自身が自立した外交戦略と防衛力を確立する必要性を訴えます。
両氏は、国際情勢が不確実な時代だからこそ、日本が変化に対応できる柔軟性と強靭さを持ち、自らの価値観に基づいて行動する必要性を強調しています。
国際情勢の変動と日本の役割:多極化する世界における責任
最後に両氏は、ウクライナ戦争や中東情勢の不安定化を背景に、世界秩序が大きく変動している現状に言及し、多極化する世界で、日本がどのような役割を果たすべきかを議論します。
中西氏は、グローバルサウスの台頭、新興国の成長を背景に、国際社会のパワーバランスが大きく変化している現状を分析し、日本がこれまでの価値観や外交戦略を見直す必要性を指摘します。
櫻井氏は、日本が、世界の平和と安定に貢献するために、どのような役割を果たすべきかを問いかけ、日本が、これまでの平和主義を維持するだけではなく、積極的な外交を展開し、国際的なリーダーシップを発揮する必要性を訴えます。
両氏は、国際社会が新たな秩序を模索する中で、日本が過去の教訓を活かし、平和と安定に貢献するだけでなく、自国の国益も守り抜くための現実的な外交戦略を持つ必要性を訴えています。
未来への展望と日本人の責務
両氏は、現状に対する危機感を共有しつつも、日本が自らの歴史と文化を深く理解し、自信を持って行動すれば、必ず未来を切り開くことができると力強く訴えています。また、国民一人一人が、自らの責任を自覚し、日本の未来のために行動するよう強く呼びかけています。
この対談は、単なる現状分析に留まらず、日本が進むべき道筋を示唆し、読者に深く考えさせる内容であり、日本人全体が、未来に向けてどのように行動していくべきか、そのヒントを与えてくれるものといえるでしょう。
企業人事の立場からの考察
まずやはり、「人材育成」の重要性を痛感します。特に、変化の激しい現代において、社員が歴史観や倫理観を持ち、自律的に考え行動できる能力は不可欠です。企業は、研修などを通じて、歴史や文化を学び、社会の一員としての責任感を涵養する機会を提供すべきでしょう。
また、グローバル化が進む中、多様な価値観を理解し、異文化を尊重する人材の育成も急務です。海外との交流や研修を積極的に行い、グローバルな視点を持つ人材を育てることが企業の成長にも繋がります。
さらに、社員が主体性を持ってキャリアを形成できる環境づくりも重要です。企業は、個々の社員の能力や適性を把握し、適切なキャリアパスを提示することで、組織全体の活性化を図るべきでしょう。
最後に、社員が安心して働ける環境整備も欠かせません。公平な評価制度や多様な働き方を認め、社員のエンゲージメントを高めることが、企業の人材力を向上させる鍵とるのではないかと感じます。
明治に学ぶ2050年の日本をひらく道 ~日本を凜とした国にするために~ 藤原正彦さん(お茶の水女子大学名誉教授)p20
藤原氏は、日本の混迷の根本原因は、日本人が古来より大切にしてきた美徳を、西欧への過度な憧憬の中で失ってしまった点にあるとします。そして、その解決策として、明治時代の精神、特に武士道に立ち返ることを提唱し、読書文化の復興が不可欠であると訴えています。
具体的には、かつて日本人が持っていた美徳が、欧米への過度な追随によってどのように失われていったのかを詳細に分析しています。古来より日本人は、道徳的に非常に優れており、正直で嘘をつかないという美質を持ち合わせていました。
しかし、明治維新以降、日本は欧米の科学技術や思想を積極的に取り入れる一方で、自らの精神的な基盤を軽視するようになりました。植民地化を恐れた日本は、欧米の価値観を無批判に受け入れ、その結果、自己を失い、あたかも根無し草のように、欧米の新しい思潮に常に翻弄される状況に陥ったのです。
さらに藤原氏は、欧米化の弊害を具体的に指摘し、日本人が陥った誤りを明らかにします。欧米の国々が必ずしも道徳的に優れているわけではなく、むしろ日本よりも倫理的に劣る部分もあるにもかかわらず、日本は欧米を過度に模範としてきたことを批判します。
その上で、日本人が立ち返るべきは、古来から受け継がれてきた武士道の精神であると説きます。武士道は、単なる武士階級の行動規範ではなく、日本人の倫理観の中心であり、惻隠の情、誠実さ、勇気、礼節といった普遍的な価値を含んでいます。これらを大切にすることで、日本人は本来の姿を取り戻し、再び世界に貢献できると主張します。
さらに、明治時代に生きた人々の特徴を三つ挙げています。第一に、彼らは国家と自己の一体感を強く持っており、国家のために尽くすことを厭いませんでした。第二に、彼らは非常に進取の気性に富み、新しいものを積極的に取り入れ、日本の近代化に大きく貢献しました。第三に、彼らは武士道精神を深く理解しており、誠実さや勇気を大切にしていました。これらの要素が組み合わさることで、明治という激動の時代を乗り越え、日本を強国へと押し上げたのです。
藤原氏は、現代社会が抱える様々な問題の根本原因は、欧米の価値観に過度に依存し、自らの美質を軽視してきたことにあると指摘します。その象徴的な例として、欧米の人権思想が、個人の権利ばかりを主張し、集団的な秩序や調和を軽視する傾向があることを挙げています。
また、政治的な正しさ(ポリティカルコレクトネス)が、本来大切にするべき文化や伝統を抑圧する動きを憂慮しています。その上で、日本人が再び輝くためには、これらの西洋的な考え方を相対化し、自分たちの美質を見つめ直す必要があると述べています。
そのための具体策として、読書文化の復興を提唱しています。哲学や思想などの難しい本を読む必要はなく、講談本や伝記など、昔から庶民に親しまれてきた大衆文化に触れることを推奨しています。それらの物語には、道徳、人情、勇気、孝行といった人間として大切な要素が詰まっており、これらの文化に触れることで、日本人は自らのアイデンティティを取り戻すことができると説きます。
また、読書文化の軽視に対する危機感も表明しています。現代社会では、スマートフォンなどの情報機器に依存し、読書をする人が減少しています。しかし、読書は知識や教養を深めるだけでなく、自らの内面を深く見つめ、人間性を磨く上でも非常に重要です。また、読書を通じて先人たちの知恵や経験を学ぶことは、現代社会を生きる上での大きな力となると述べています。
最後に、世界はすでに日本の美質に気づき始めており、清潔さ、親切さ、安全性、礼儀正しさといった日本の優れた特徴に注目していることを指摘します。日本が世界を導くためには、まず日本人自身が自らの美質に目覚め、それを発揮する必要があると訴えます。そして、日本の美質こそが世界の混沌を救う鍵であると力強く述べ、日本人一人ひとりが自らの内面に静かに語りかけ、本来の姿を取り戻すことを強く願っています。
企業人事の立場から、藤原氏の提言から、以下のような点が重要になると考えられます。
まず、採用戦略において、表面的スキルだけでなく、深い人間性や価値観を重視する必要があるでしょう。単に欧米的なビジネススキルを持つ人材だけでなく、自社の文化や理念を理解し、共感できる人材を採用することが、長期的な組織の安定と成長につながるはずです。
次に、人材育成においては、グローバルな視点を持ちながらも、自社の歴史や文化、そして日本ならではの美徳を理解する研修を取り入れるべきです。特に、リーダーシップ研修では、欧米型の自己主張型リーダーシップだけではなく、日本的な協調性や思いやりを重んじるリーダーシップも育成する必要があります。
また、組織文化の醸成においては、社員が自社の文化や理念に誇りを持ち、互いに尊重し合えるような環境を作ることが大切です。社内でのコミュニケーションを活性化させ、自社の歴史や文化を共有する機会を増やすことで、社員の愛社精神を高めることができるでしょう。
さらに、グローバル展開においては、各国の文化や価値観を理解し尊重することが大前提ですが、自社の強みである「日本ならではの美徳」を積極的に発信していくことも有効でしょう。
国土強靱化で日本は再び輝く 藤井 聡さん (京都大学大学院教授)p31
ここでは、藤井氏が、現代日本が直面する深刻な危機を多角的に分析し、その克服に向けた具体的な提言を示したものです。長年にわたる経済の低迷、安全保障上の不安、そして巨大災害のリスクといった、複合的な問題が絡み合い、日本はまさに「危機的状況」にあると指摘します。しかし、藤井氏は絶望を訴えるのではなく、現状を打破し、日本が再び輝きを取り戻すための明確な道筋を提示しています。その中心となるのが、「国土強靱化」への積極的な投資と、それに伴う財政政策の抜本的な転換です。
衰退の一途を辿る日本:多角的な危機
記事では、まず日本の現状を「力の衰えた国」として厳しく捉えています。経済面では、世界における日本の存在感は著しく低下し、かつて世界2位であったGDPは、中国に抜かれ、一人当たりのGDPもG7の中で最下位に甘んじています。この経済的な衰退は、国家の根幹を揺るがす様々な問題を引き起こしています。
安全保障の面では、アメリカの相対的な地位が低下する中で、ロシアや中国といった軍事大国が台頭し、北朝鮮の核開発も深刻な脅威となっています。日米安全保障体制への依存も限界を迎えつつあり、日本は自らの力で国を守る術を模索しなければならない状況に追い込まれています。
外交面では、他国からの干渉を拒む力が失われ、重要資産が海外マネーによって次々と買収されています。また、LGBT法案や移民政策など、国民の合意形成が不十分なまま、他国の意向に沿って政策が進められるという、主権国家としてあってはならない状況が生まれています。
経済構造そのものも深刻な問題を抱えています。食料自給率はカロリーベースで38%にまで低下し、国内の農家は経営難に苦しんでいます。エネルギーに関しても海外依存が進み、デジタル分野においても海外のサービスなしでは生活が成り立たないほど、海外への依存度が深刻化しています。これらの状況は、日本の独立性を脅かし、経済的な脆弱さを露呈させています。
さらに深刻なのは、巨大災害のリスクです。南海トラフ地震をはじめとする巨大地震は、いつ発生してもおかしくない状況であり、発生すれば、甚大な被害が予測されます。また、地球温暖化による海水温の上昇は、巨大なスーパー台風を発生させ、日本列島を襲う可能性を高めています。これらの災害は、インフラを破壊し、経済活動を麻痺させ、人々の生活を根底から覆す可能性があります。
起死回生:国土強靱化がもたらす希望
このような危機的な状況を打破し、日本が再び輝きを取り戻すための鍵となるのが、藤井氏が提唱する「国土強靱化」です。これは、単なる災害対策ではなく、日本の社会全体を強靭化し、国際的な競争力を高めるための、包括的な国家戦略と位置付けられます。
具体的には、巨大地震や津波に備えた防潮堤の整備、重要インフラの耐震化や移設、災害時の生命線となる高速道路網の整備などが挙げられます。また、都市機能や産業拠点を地方に分散させることで、巨大災害が発生した場合でも、被害を最小限に抑え、迅速な復興を可能にする体制を構築することが重要だと説きます。これらの施策には、土木学会の試算によれば、約38兆円の投資が必要とされますが、その効果は甚大であり、巨大地震による被害総額を約600兆円も軽減できると試算されています。
さらに、国土強靱化投資は、単に災害対策に留まらず、デフレ脱却と経済成長をもたらす効果も期待されています。巨額の公共投資は、内需を拡大させ、雇用を創出し、経済を活性化させることができます。また、国土強靱化によって、日本の魅力が高まれば、観光客の増加にもつながり、外貨を獲得することも可能になります。これらの経済効果は、国力を増強し、海外への依存度を下げることにもつながるはずです。
危機を阻むもの:PB規律という名の桎梏
しかし、国土強靱化の必要性を認識しながらも、日本がその実現を阻まれているのが、財務省が重視する「PB(プライマリーバランス)規律」です。これは、国の歳入と歳出の差額を黒字にする、すなわち新規国債の発行を原則として禁止するという財政規律であり、財政再建の目標として掲げられています。この規律が厳格に守られれば、国土強靱化に必要な大規模な投資は不可能になり、デフレ脱却も遠のき、国家の衰退は加速化してしまいます。
藤井氏は、このPB規律が、第二次世界大戦後、GHQの支配下で、日本が再び軍事大国化することを防ぐために作られた財政法に端を発していると指摘します。この財政規律は、日本に「国債を発行すれば国家が破綻する」という誤った観念を植え付け、積極的な財政政策を妨げる元凶となっていると批判します。実際には、国債の発行によって財政破綻は起こらず、むしろ必要な投資を怠ることが、国家の衰退を招くことを歴史的事実と海外の事例から示唆しています。
2050年への希望:蓮池の花を咲かせるために
最後に、藤井氏は、2050年の日本が輝きを取り戻すためには、PB規律を凍結または緩和し、国土強靱化投資を可及的速やかに実行することが不可欠であると強調します。巨大災害は、明日起こるかもしれないし、30年後に発生するかもしれません。しかし、災害が起こることは確実であり、そのための準備は一刻の猶予もありません。
藤井氏は、自らの活動を「地道な言論活動」と謙遜しながらも、深夜零時から咲き始める蓮池の花のように、今は小さな動きでも、いずれ大きな実を結ぶと信じています。そして、一人でも多くの政治家、国民がこの危機を認識し、行動を起こせば、必ずや日本は豊かな未来を迎えることができると訴えています。
このように、藤井聡氏の提言は、単なる危機意識の喚起に留まらず、具体的な政策と国民の意識改革を訴えかけるものであり、現代日本が直面する課題解決への確かな道標となるでしょう。
企業人事の立場からこの記事を考えると、まず危機感と焦燥感を抱きます。国土強靭化の遅れは、巨大災害発生時の事業継続を困難にし、社員の安全確保、サプライチェーンの寸断、顧客へのサービス提供停止など、企業活動に致命的な影響を与えるからです。
人事としては、社員の安全意識向上や防災訓練の徹底、BCP(事業継続計画)の策定・見直しが急務となります。同時に、地域分散型オフィスやリモートワーク環境の整備、社員の多様な働き方に対応できる制度設計も必要です。
また、経済低迷が続けば、給与水準の維持や人材確保も困難になります。企業の成長のためには、社員のスキルアップやキャリア開発支援、創造性を発揮できる組織文化醸成が不可欠です。国の政策転換を注視しつつ、企業独自の人事戦略を柔軟に展開する必要性を感じます。
さらに、グローバルな視点で見ると、人材獲得競争は激化の一途を辿っています。企業として、日本の魅力を再発掘し、海外からの優秀な人材を惹きつけるための取り組みも重要となるでしょう。人事としては、採用活動の多様化や、外国人社員の活躍を支援する制度づくりも視野に入れるべきです。
水を制する者は国家を制する 吉村和就さん(グローバルウォータ・ジャパン代表)p34
地球規模で深刻化する水不足の現状と、その中で日本がどのように水資源を守り、有効活用していくべきかについて、吉村氏が提言しています。吉村氏は、単に水資源の枯渇という問題だけでなく、それが国家の安全保障、経済、社会構造、そして未来にまで影響を及ぼす根源的な課題であると指摘しています。
世界的な水不足の深刻化:熾烈な水の争奪戦の背景
まず、世界的な水不足の深刻化について、吉村氏は具体的なデータを示しながら、その危機的な状況を解説しています。地球人口の増加に伴い、水需要は年々増加の一途を辿っています。しかし、地球上の水資源は有限であり、その多くは海水であるため、人類が利用できる淡水はごくわずかです。さらに、深刻な水質汚染は、利用可能な淡水をますます減少させています。工場排水による汚染だけでなく、農薬の使用による農業由来の汚染も深刻化しており、マイクロプラスチックによる海洋汚染は、食の安全にも影響を及ぼしています。これらの要因が複雑に絡み合い、水資源を巡る争奪戦は世界中で激化の一途を辿っています。吉村氏は、このような状況を踏まえ、水問題は単なる環境問題ではなく、国家の存続に関わる安全保障上の課題であると警鐘を鳴らしています。
日本の水資源の現状:恵まれているという幻想
日本は水資源が豊かな国であると認識されがちですが、吉村氏は、その認識は幻想に過ぎないと指摘します。世界には、自国で豊富な水源に恵まれている国はごくわずかであり、さらに、水道から安全な水を安心して飲める国はさらに限られます。日本は、その数少ない国の一つではありますが、その恵まれた環境に甘んじていると、足元をすくわれる危険性があると警告しています。特に、日本の食料自給率は低く、多くの食料を輸入に頼っています。このことは、海外の水資源に依存していることを意味し、海外の状況次第では、食料供給が不安定になるという脆弱性を抱えていると言えます。また、近年の気候変動の影響により、日本国内でも塩害や渇水などの問題が発生しており、水資源が安泰とは言えない状況になりつつあります。
情報通信技術と水消費:見過ごせないデジタル時代の水需要
情報通信技術の進歩が水消費量を大幅に増加させているという、見過ごせない新たな問題点も指摘しています。データセンターの運営には大量の電力が必要となり、その冷却には膨大な量の水が使用されています。特に、近年のAI技術の発展に伴い、データ処理量が増加し、その結果、水消費量は爆発的に増加しています。
例えば、生成AIに質問をするたびに、約2リットルの水が消費されるという事実は、その水消費量が如何に大きいかを物語っています。また、次世代通信システムである6Gの導入により、自動車や産業機械の自動化が進めば、更なる情報通信の発展に伴い、水消費量はますます増加していくと予想されます。このように、デジタル化が進む現代社会において、水資源の確保は、経済活動の根幹を支える重要な要素となっているといえます。
江戸時代の知恵:持続可能な社会のモデル
このような危機的な状況を踏まえ、吉村氏は、江戸時代の知恵に学ぶことの重要性を説いています。江戸時代は、鎖国政策によって外部からの資源に頼らず、国内の資源を徹底的に活用し、循環させる社会を築き上げていました。例えば、人糞を肥料として活用したり、古くなったものを使い倒したりする文化は、現代のSDGsに通じるものです。
また、江戸時代には、全国に約280もの藩が存在し、それぞれが自立した経済圏を形成していました。この分散型の社会構造は、現代社会が抱える都市への人口集中という問題を解決するヒントとなるでしょう。吉村氏は、現代社会においても、このような知恵を活かし、環境負荷を低減させ、持続可能な社会を築いていく必要があると述べています。
今後の日本:知恵と技術を融合し、未来を切り拓く
吉村氏は、日本の水に関する優れた技術と、過去から受け継がれてきた知恵を融合させることで、世界の水問題解決に大きく貢献できると主張しています。例えば、高度浄水技術や海水淡水化技術などは、世界トップレベルの技術です。
また、情報通信技術を活用し、水の使用状況や汚染状況を詳細にモニタリングすることで、より効率的な水資源管理が可能になります。さらに、都市への一極集中ではなく、地域分散型の社会構造を目指すことで、各地域で持続可能な経済活動を行うことができるようになります。
また、吉村氏は、人口減少を悲観的に捉えるのではなく、これを新たな社会構築のチャンスと捉えるべきだと訴えます。例えば、先人の知恵と最新技術を組み合わせ、コンパクトな街づくりを進めたり、地域ごとの特色を活かした新しい産業を創出したりすることで、人口が減少しても、豊かな社会を維持していくことが可能です。
水を制する者が国家を制す:リーダーシップの重要性
最後に、吉村氏は、水問題解決のためには、優れたリーダーシップが不可欠であることを強調します。水問題は、環境問題、経済問題、社会問題、そして安全保障問題が複雑に絡み合った複合的な問題であり、そのためには、様々な分野を横断的に統括し、国家戦略を立案し、実行できるリーダーシップが求められます。吉村氏は、かつて共に活動した故・中川昭一氏を例にあげ、水資源の重要性を理解し、国家のために尽力できるリーダーの必要性を訴えます。
まとめ:水資源の安全保障に向けて
記事全体を通して、吉村氏は、水資源の確保は、国家の存続に関わる重要な課題であることを明確に示しています。そして、過去の知恵を現代に活かし、最新技術と組み合わせることで、水資源問題を克服し、持続可能な社会を築いていくことができると説いています。また、その実現のためには、優れたリーダーシップと、国民一人一人の意識改革が必要であることを強く訴えかけています。
企業人事の立場からこの記事を考えると、水資源問題は単なる環境問題ではなく、事業継続を左右する重要な経営課題であると認識すべきです。まず、従業員の意識改革が必要です。水資源の有限性を理解させ、節水意識を高めるための研修や啓発活動を推進する必要があります。また、事業活動における水使用量の把握と削減目標の設定も不可欠です。サプライチェーン全体での水使用状況を把握し、リスク評価を行うことも重要です。さらに、水処理技術を持つ企業との連携や、新たな節水技術の導入も検討すべきでしょう。
優秀な人材確保という観点からも、環境問題への取り組みは重要です。特に若い世代は、企業の環境への姿勢に強い関心を持っています。水資源問題への積極的な取り組みは、企業のブランドイメージ向上につながり、優秀な人材の獲得にもつながるでしょう。
人事としても、従業員の意識改革、技術導入、外部連携など、多角的な視点から水資源問題に取り組むことで、企業の持続的な成長を支えることができると考えます。
日本語なくして日本人なし 齋藤 孝さん(明治大学文学部教授)p40
齋藤氏は、現代社会における日本語の危機的状況を憂い、その保護と継承の重要性を力説しています。グローバル化の波が押し寄せる中で、英語の圧倒的な影響力が増大し、少数言語が消滅の危機に瀕している現状に警鐘を鳴らしています。隣国で繰り広げられる少数民族への言語弾圧や、古典文学や漢文の衰退といった問題を指摘し、日本語が岐路に立たされていると警告しています。
齋藤氏によれば、日本語は単なるコミュニケーションツールではなく、日本人の思考や感性、さらにはアイデンティティの根幹をなすものです。私たちが日常的に感じている思考や感情の多くは、先人たちが積み重ねてきた精神が、日本語という形を通して受け継がれたものであり、日本語は日本文化の最大の財産であると断言します。もし日本列島に住む人々が、一人残らず日本語を話さなくなってしまったら、それはもはや日本人とは呼べない状態になってしまうだろうと、危機感をあらわにしています。
なぜなら、日本人は日本語を母語として育つ過程で、日本的な思考や感性を獲得してきたからです。そのため、日本語を失うことは、これまで培ってきた文化や伝統の喪失に直結し、民族としてのアイデンティティを喪失することに他ならないと説きます。現代社会では、言語は民族にとっての生命線とも言える重要な要素であり、母語を大切にすることは基本的人権の範疇に含まれるべきだと主張します。また、言語の多様性こそが、思考や感情、文化の多様性を保証するとも述べています。
しかし、残念ながら現状は厳しいと言わざるを得ません。日本語を母語とする人口は、現在約1億2千5百万人と日本の人口とほぼ同数ですが、少子化による人口減少によって、日本語話者の総数は今後減少の一途を辿ることが予想されます。さらに、経済力や軍事力を含む総合的な国力の低下も、言語の立場を弱める要因となります。世界的なグローバル化の流れの中で、英語を国際共通語にしようとする動きが加速しており、日本でも社内公用語として英語を採用する企業が増えている状況です。
その結果、英語を話せるかどうかが昇進に影響するようになり、母語を英語に切り替える方が得策だと考える人が増える傾向にあります。一部のエリート層では、子供を英語しか話さない学校に通わせるケースも見られるようになり、日本語が英語より劣る言語だという誤った認識が、子供たちの間に広がりつつあります。
さらに、言語が奪われる危険性も、他人事ではありません。人類の歴史を振り返ると、小国が大国に呑み込まれたり、言語が置き換えられたりした例は数多く、現在でも民族の言語を暴力的に奪い取ろうとする動きが見られます。中国の新疆ウイグル自治区では、ウイグル人に対して中国語の強要が行われ、民族のアイデンティティが危機に瀕しています。
こうした状況を踏まえ、齋藤氏は日本語を守るために、具体的な行動を提唱します。まずは、日本語を内側から守るという自覚を養う必要があります。その意識を育むために重要なのが、読書と素読の習慣です。特に素読は、古典文学を通して先人の精神を継承し、言葉を身体に刻み込むことで、思考力や感性を養う有効な手段であると指摘します。また、学校教育においては、実用文だけでなく文学作品にも触れる機会を増やし、言語の持つ力を最大限に引き出すべきだと述べます。
一方、国際社会に向けては、日本文化の根幹をなす日本語の魅力を発信し、その価値を理解してもらう必要性を説きます。近年の例として、音楽ユニットYOASOBIの楽曲が、海外で人気を集めている現象を挙げ、外来語をほとんど使わない日本語の美しさが、世界を魅了していることを強調します。また、日本のアニメの主題歌が、外国語訳ではなく日本語のまま愛されていることを例に挙げ、日本語が持つ独自の魅力こそが、グローバル化の中においても重要な役割を果たすと述べます。
齋藤氏は、「No Japanese, no Japanese(日本語なくして日本人なし)」という言葉を標語に、言語と民族は不可分の関係であることを訴えます。私たちは当たり前に使っている日本語の素晴らしさを再認識し、努力しなければ失ってしまう可能性を自覚する必要があります。その上で、他国の言語文化を尊重し、互いの魅力を理解し合う姿勢も大切だと述べます。
そして最後に、読書こそが言語文化を守る上で最も重要な鍵だと述べ、読書立国を目指すべきだと主張します。過去の文学作品を読み解き、先人の精神や価値観を学ぶことで、次世代へと日本語を継承することができる。これこそが、2050年、さらにその先の未来を見据えた上で、私たちが取り組むべき課題であると説きます。齋藤氏の言葉は、言語文化の危機的状況を私たちに認識させ、次世代への責任を強く喚起するものです。
企業人事の立場から考えると、齋藤孝氏の提言は非常に重要な示唆に富んでいます。グローバル化を推進する上で英語力は不可欠ですが、社員の日本語能力の低下は、企業にとって大きなリスクになり得ます。
まず、日本語の読解力・表現力は、高度な業務遂行能力の基盤です。複雑な情報を正確に理解し、論理的に思考し、他者に的確に伝えるためには、母語である日本語の運用能力が欠かせません。日本語能力の低下は、社内コミュニケーションの質を低下させ、誤解やミスを生み、業務効率を著しく損なう可能性があります。また、顧客や取引先とのやり取りにおいても、不適切な言葉遣いやコミュニケーション不足は、企業の信頼を大きく損なうでしょう。
さらに、社員の思考力や創造性も、母語である日本語の理解度と密接に関わっています。古典文学や歴史に触れることで、先人の知恵や文化を学び、多角的な視点や深い洞察力を養うことができます。社員の日本語能力の向上は、企業の競争力を高める上で不可欠な要素と言えるでしょう。
人事としては、社員の語学力向上のための研修だけでなく、日本語能力向上のための研修や読書奨励策も検討する必要があります。また、採用においても、単に英語力だけを重視するのではなく、日本語能力を十分に評価し、バランスの取れた人材を確保することが求められます。企業の持続的な成長のためには、社員一人ひとりの日本語能力を向上させる環境づくりが不可欠です。
日本の技術に未来はあるか 月尾嘉男さん(東京大学名誉教授)坂村 健さん(YRPユビキタス・ネットワーキン グ研究所所長)p44
この対談は、日本の未来を左右する重要な岐路に立っている現代において、その進むべき道を深く掘り下げ、未来への希望と具体的な提言を示すものです。東京大学名誉教授であり、長年にわたり都市システムや情報社会の研究に携わってきた月尾嘉男氏と、組込み型OS「TRON」の開発者であり、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長として情報技術の最前線を走る坂村健氏という、それぞれの分野で卓越した知見を持つ両氏が、日本の現状を冷静に分析し、技術革新の波が押し寄せる中で日本がどのような未来を築くべきかについて、多角的な視点から議論を交わしました。
日本の現状認識:危機的状況と構造的な問題
対談の冒頭で、両氏は日本の置かれている現状を「危機的」と捉え、その構造的な問題を指摘しました。まず、深刻な人口減少と高齢化という課題が浮き彫りにされました。日本の合計特殊出生率は世界最低水準であり、このままでは近い将来、人口が大幅に減少することが予測されています。この人口減少は、経済活動の縮小、社会保障制度の維持困難など、様々な問題を引き起こす要因となります。
また、経済面においても、かつて世界をリードした日本のGDPは世界4位に後退し、国債残高がGDP比で世界一という、深刻な財政問題を抱えている現状が示されました。さらに、かつては世界を席巻した技術力も、近年ではその勢いを失いつつあり、世界競争力ランキングも過去最低を記録しています。特に、デジタル競争力においては大きく後れを取っており、情報化社会をリードする能力が低下していることが指摘されました。
教育面においても、大学教育の質の低下、海外留学をする学生の減少など、問題点が指摘されました。日本の大学は、世界的な大学ランキングでも順位を落としており、学生が必ずしも十分な教育を受けているとは言えない現状があります。また、社会全体として、変化を嫌い、新しいことに挑戦することをためらう風潮が蔓延しており、これが社会の硬直化を招いていることも問題視されました。
さらに、結婚をしない若者が増え、晩婚化が進み、高齢化も進んでいるという社会構造的な問題も、日本の将来にとって大きな不安要因となっています。これらの課題は相互に絡み合っており、単純な解決策では対応できない複雑な問題を抱えていることが強調されました。
技術革新:未来への希望と「トロン」の重要性
このような厳しい状況の中で、両氏は技術革新が日本を再び活性化させる鍵となるという認識を共有しました。特に、坂村氏が開発した純国産OS「トロン」は、組み込み型OSとして世界の様々な電子機器に活用されており、日本の技術力の高さを象徴する存在として紹介されました。「トロン」は、小惑星探査機「はやぶさ」、自動車のエンジン制御、プリンタ、カーナビ、スマートフォンなど、多岐にわたる分野で活用されており、オープン化戦略によってその発展を支えた経緯が紹介されました。この「トロン」の事例は、技術をクローズな状態にせず、オープンにすることで、より多くの人の知恵と技術を結集し、イノベーションを促進するという重要な教訓を示唆しました。
未来を拓くための提言:三つの「開国」と教育改革
対談の中では、日本が再び輝きを取り戻すための具体的な提言が提示されました。まず、過去の鎖国政策を反省し、技術、経済、文化、あらゆる面で世界に開かれた国になるための「第三の開国」を提唱しました。明治維新という「第一の開国」で西洋列強に追いつき、戦後復興という「第二の開国」で経済大国となったように、現在の日本も再び国を開き、世界から学び、世界に貢献する姿勢が求められていると述べられました。
次に、日本の教育改革の重要性が強調されました。大学教育の質を向上させるだけでなく、デジタル社会で活躍できる人材を育成するための教育改革が不可欠であると指摘しました。また、情報リテラシーの向上だけでなく、自ら考え、行動する力を養う教育の必要性が強調されました。さらに、グローバルな視点を持つ人材を育成するために、海外留学を奨励する制度を充実させるべきであると提言しました。
AIとの共生:人間が主導する未来
AI(人工知能)技術の発展についても深く議論が交わされました。AIは様々な分野で人間をサポートし、より効率的で便利な社会を実現する可能性を秘めている一方で、AIの暴走や倫理的な問題を危惧する声も少なくありません。両氏はAIをあくまでツールと捉え、その使い方を間違えれば、危険な結果を招く可能性があることを指摘しました。AIを開発するだけでなく、AIを人間が制御し、活用していくための倫理的な枠組みづくりも必要であることが述べられました。
また、AIの進化によって、人間は何をすべきかという問題提起がなされ、過去のデータの蓄積から答えを導き出すAIとは違い、人間は、新しいものを創造し、自ら行動を起こすことができる存在であることが強調されました。
情緒社会の実現:技術と共感が生み出す未来
技術革新とともに、両氏は「情緒社会」の重要性を提唱しました。それは、技術の進歩だけでなく、多くの人が共感し、利益を得て、幸せになれる社会です。単に富や効率を追求するだけでなく、人々の心に響く価値を創造し、共に喜びを分かち合える社会こそが、これからの日本が目指すべき姿であると述べました。
まとめ:行動することで未来は拓かれる
最後に両氏は、日本の未来は、一人ひとりが危機意識を持って考え、行動するかどうかにかかっていると結論付けました。過去の成功体験に固執するのではなく、新たな時代を切り開くために、勇気をもって行動することが求められています。この対談は、日本の現状を冷静に見つめ、未来への希望と具体的な行動を促すものとして、今後の日本の進むべき道を示唆する上で非常に重要な意味を持つものと言えるでしょう。
企業人事の立場からこの対談内容を考える
危機感と同時に、将来への具体的な行動指針を得る上で非常に有益だと感じます。特に以下の点が重要だと考えられます。
まず、採用戦略の見直しです。これまでの偏差値重視の採用から、自ら考え行動する力、多様な価値観を受け入れる柔軟性を重視する採用へシフトする必要があります。また、グローバルな視点を持ち、変化を恐れない人材の採用・育成が急務です。
次に、人材育成戦略の再構築です。既存の研修だけでなく、従業員が自ら学び、挑戦できる機会を多く提供する必要があります。AIや情報技術を活用した新しい教育プログラムの導入も検討すべきでしょう。また、組織文化としても、失敗を恐れず、新しいことに挑戦する風土を醸成する必要があります。
さらに、技術革新への積極的な関与も重要です。AI技術の活用だけでなく、自社独自の技術開発を推進し、社会に貢献できる新たな価値創造を目指すべきです。そのためには、大学や研究機関との連携を強化し、オープンイノベーションを積極的に推進していく必要があります。
最後に、グローバルな視点を持つことが不可欠です。海外の大学や企業との交流を通じて、グローバルな視点を養うと共に、多様な人材を積極的に受け入れる必要があります。
これらの取り組みを通じて、変化の激しい現代社会を生き抜くための人材を育成し、企業全体の競争力向上を目指していく必要があるでしょう。
2050年 日本を富国有徳の国にするために 【我が国から勤勉・修養の精神をなくしてはならない】田口佳史さん (東洋思想研究家)北 康利さん(作家)横田南嶺さん(臨済宗円覚寺派管長)p62
2050年、日本が再び世界を牽引する「富国有徳の国」となるためには、単なる経済的な繁栄だけでなく、日本人が本来持っていた「勤勉・修養の精神」を深く再認識し、現代社会に取り戻すことが不可欠です。この精神が失われたままであれば、日本の未来は明るいとはいえません。ここでは、3名(田口氏、北氏、横田氏)が、現状の日本が抱える課題を多角的に分析し、その根源にある精神性の衰退を指摘します。そして、この危機を乗り越え、再び日本が世界に貢献できる国となるための具体的な道筋を探ります。
現状認識:日本が直面する多角的な衰退と課題
現在の日本は、表面的な経済活動や技術革新の陰で、さまざまな問題を抱えています。人口減少は深刻化し、社会保障制度の維持も困難になりつつあります。経済的にもかつての勢いはなく、若者世代からは政治に対する不信感や閉塞感が漂っています。しかし、一方で、現実を直視せず、現状に甘んじている国民も少なくありません。経済的な豊かさや技術的な進歩に目が奪われ、日本が本質的に抱えている問題から目を背けているのです。
統計データからも、日本の衰退は明らかです。例えば、OECDの調査では、日本の学生の親や教師への尊敬の念は最下位レベルです。また、「もし戦争が起こったら国のために戦うか?」という問いに対する肯定的な回答の割合も、世界で最も低い水準にあります。これは、国家への帰属意識や、共通の目標に向かって努力する意欲が失われていることを示唆しています。
さらに、企業で働く人々のエンゲージメント(仕事へのやりがい)も著しく低く、これは、会社を単なる生活の糧としか考えず、自己成長や社会貢献の場として捉えていないことを示しています。
しかし、こうした状況下でも、若者たちのイキイキとした姿や、新しい価値観を生み出そうとする動きも存在します。彼らは、過去の成功体験や固定観念にとらわれず、自由に発想し、行動しようとしています。この矛盾した状況こそ、日本の現状を映し出す鏡であり、課題解決へのヒントが隠されているとも言えるでしょう。
原因分析:枝葉末節の議論と精神性の衰退
これらの問題を根源的に見ると、日本社会が枝葉末節の議論に終始し、本質を見失っていることがわかります。個別の問題にばかり目を奪われ、根本的な原因を究明しようとしないため、問題は繰り返し発生し、深刻化していくのです。また、伝統精神文化を軽視した教育も、事態を悪化させています。戦後の占領政策は、日本人の自己肯定感や国家への誇りを奪い、それが今日の社会に大きな影響を及ぼしています。
さらに、自己中心的な個人主義の蔓延は、組織で協力して目標を達成する喜びや、社会全体で共通の価値観を共有する意識を希薄化させています。そして、安易な労働環境を求める風潮は、自己成長や社会への貢献を怠ることを正当化し、勤勉さを美徳とする価値観を失わせています。
また、命に対する教育が不足し、命を授かった意味や、絶対的存在との繋がりを理解しないまま成長していく子供たちが増えています。そのため、生命の尊さを感じることができず、他者への思いやりや倫理観が欠如した行動が目立つようになっているのです。
提言:先人の知恵に学び、精神性を再興する
こうした課題を解決し、日本が再び「富国有徳の国」となるためには、まず、先人の知恵や生き方を学び、尊敬や感謝の念を復活させる必要があります。伝統精神文化、儒教、仏教、禅などの教えを再評価し、それらを現代社会に適用していくことで、失われた道徳心や倫理観を取り戻すことができるはずです。異なる価値観を理解し、融合させる日本の「和」の精神は、現代社会が抱える様々な対立を解決する糸口となるでしょう。
また、教育の質を向上させ、教師を尊敬する文化を醸成することも急務です。教師を憧れの職業にすることで、優秀な人材が教育現場に集まり、子供たちの成長を力強くサポートすることができます。さらに、「働く」ことを、単なる生活の糧として捉えるのではなく、自己を高めるための修行として捉えることで、仕事への意識を変え、喜びや達成感を見出すことができるはずです。
私たちは、過去の成功体験にしがみつくのではなく、過去の教訓を踏まえ、未来に向けて行動しなければなりません。そのためには、正しさ、倹約、精勤の精神を養い、チームで力を発揮する日本人の強みを活かす必要があります。一人ひとりが自己を高め、身近なところから貢献することで、社会全体のレベルを上げ、「一隅を照らす」存在になることを目指しましょう。そして、日々の行動や仕事において「至誠」の精神を大切にし、自己中心的ではなく、他者を思いやる気持ちを育むことが重要です。
希望と展望:困難を乗り越え、世界を牽引する日本へ
過去を振り返れば、日本は幾度となく困難を乗り越え、素晴らしい文化を築いてきました。日本の歴史は、危機を乗り越えるごとに、国民が結束し、より強固な絆を築いてきた歴史でもあります。現在、若者たちの間には、新しい価値観やイノベーションを生み出す力が秘められています。そして、新たな起業家が次々と誕生しており、日本の潜在的な力が再び開花しようとしている兆しも見られます。
しかし、「国が滅びる時には必ず不吉な前兆がある」という言葉があるように、油断は禁物です。現状を直視し、危機感を持ち続けることが重要です。二宮尊徳、渋沢栄一、稲盛和夫といった先人の教えを胸に、私たち一人ひとりが、自己の役割と責任を自覚し、行動を続けることで、日本は必ず再び世界を牽引する「富国有徳の国」となることができるでしょう。
企業人事の立場から、この提言を考慮すると、以下のような視点と具体的な取り組みが考えられます。
まず、採用においては、単なるスキルや学歴だけでなく、企業の理念や価値観に共感し、自己成長意欲を持ち、チームで協力できる人材を見抜く必要があります。そのためには、従来の面接に加えて、グループワークやディスカッションなどを導入し、協調性やコミュニケーション能力を評価するべきでしょう。
人材育成においては、座学や研修だけでなく、実践的な経験を通じて、社員の「働く」意識を変える必要があります。例えば、インターンシップやOJTを充実させ、現場での課題解決や自己成長を促進することが重要です。また、企業理念や倫理観を学ぶ機会を設け、社員の道徳心や倫理観を涵養することも重要です。さらに、社員一人ひとりのキャリアプランを支援し、自己成長を後押しすることで、社員のエンゲージメントを高めることができるでしょう。
評価制度においては、目先の業績だけでなく、社員の成長や貢献度を総合的に評価する必要があります。そのためには、多面的評価や、個々の目標設定と達成度などを考慮した評価制度を導入し、社員のモチベーションを高めるべきです。
組織文化においては、社員が安心して働ける環境づくりと、心理的安全性を確保することが重要です。そのためには、風通しの良い職場環境づくり、コミュニケーションを重視した組織運営、多様性を尊重する文化の醸成などが求められます。
今回の提言を参考にして、社員一人ひとりの成長を促進し、企業全体のエンゲージメントを高める必要があります。
人生の成功とは子供の頃の夢を追い続けること 天野惠子さん(内科医)p102
この記事は、内科医として長年活躍し、現在は静風荘病院顧問を務める天野恵子先生へのインタビューを基に構成されています。82歳という年齢を感じさせない精力的な活動を続ける天野先生は、自身の医師としての道のり、女性医療への貢献、更年期障害という試練、そして未来への展望について、その深い洞察と温かい言葉で語ってくださいました。
医師を志した原点:幼い日の記憶と母の言葉
天野先生が医師の道を志したのは、幼少期の鮮烈な体験がきっかけでした。1942年に生まれた天野先生は、地方を転々としながら育ちましたが、ご両親はともに病弱で、特に父親は結核を患っていたそうです。そのため、近所の子供たちからいじめられることもあったと言います。そのような環境の中、近所に住んでいた仲良しの女の子が突然亡くなってしまうという悲しい出来事が起こります。当時7歳だった天野先生は、「人はどうして死ぬの?」と母親に尋ねました。その時、母親は「恵子がお医者さんになって、死なないようにしてあげて」と答えたそうです。この言葉が、幼い天野先生の心に深く刻まれ、医師という道を志す原点となりました。
医師としての道のり:困難を乗り越え、女性医療の先駆者へ
天野先生は、東京大学医学部を卒業後、アメリカの病院での勤務を経て、東京大学医学部附属病院第二内科に入局しました。そこで、研修医の指導や外来診療を担当する中で、当時の医学界が男性中心であることを痛感しました。医学界のみならず、社会全体としても女性が活躍することが難しい時代でした。しかし、天野先生は患者さんの命を第一に考え、常に最善の医療を提供するために、研究に励み、知識や技術を磨き続けました。
その過程で、性差医療という概念に出会い、男女の疾患の違いに着目した研究に取り組みました。当時は、性差による疾患の違いを考慮する考え方は一般的ではありませんでしたが、天野先生はアメリカでの研究成果を参考に、微小血管狭心症など女性特有の疾患があることを突き止め、日本の医療に取り入れる必要性を訴えました。
そして、数々の困難を乗り越えながら、日本初の女性専用外来の開設に尽力しました。これは、女性が安心して医療を受けられる環境を整える上で、非常に重要な取り組みでした。その後も、天野先生は公立病院で女性外来を立ち上げ、多くの女性患者の治療に貢献し、女性医療の発展に大きく貢献しました。
更年期障害という試練:自身の経験から得た学び
医師として活躍する一方で、天野先生は自身の更年期障害という試練にも直面しました。50歳の時に子宮筋腫と診断され、手術で子宮と卵巣を全摘出したことがきっかけとなり、ホルモンバランスが大きく崩れてしまいました。その結果、ひどい倦怠感、関節の痛み、強い冷え、のぼせ、異常な発汗など、様々な症状に苦しみました。
様々な治療を試みましたが、効果は得られず、医師として知識を持っているにも関わらず、自身の症状を改善することができませんでした。その過程で、天野先生は日本の更年期医療の遅れを痛感しました。また、更年期障害の辛さを男性医師に理解してもらうことが難しい現実にも直面し、女性医師による、女性患者のための医療の必要性を改めて強く感じたそうです。
未来への展望:生涯現役、そして「和温療法」への希望
数々の困難を乗り越えてきた天野先生は、「人生の成功とは、高いポストや高額な収入を得ることではなく、子供の頃の夢を追い続けることができること」と語ります。これは、7歳の時に医師になることを決意し、ひたすら医療の道を進んできた天野先生の実感に基づいた言葉でしょう。
また、天野先生は「もし生まれ変わっても、また医師になりたい」と断言します。それほどまでに、医師という仕事に情熱を傾け、患者さんのために全力を尽くされているのだと感じられます。
さらに、天野先生は、自身の経験を活かし、低温の乾式サウナで全身を温めることで不調を改善する「和温療法」の普及にも力を入れています。この療法は、更年期障害の症状緩和にも効果があると考えており、より多くの人にこの療法を知ってもらいたいと考えています。
天野恵子の言葉:患者第一主義と「私は私」という信念
インタビューの中で、天野先生は「患者さんファースト」を信条として診療にあたっていると語っています。初診の患者さんには、時間をかけてじっくりと話を聞き、過去の病歴や治療内容などを細かく確認します。また、診療の前には患者さんのカルテを丁寧に読み込み、疑問点を洗い出した上で診療に臨みます。これは、患者さんに最善の医療を提供するための、天野先生のこだわりです。
そして、男性中心の医療体制の中では、理不尽な扱いを受けることもありましたが、天野先生は「私は私、人は人」という信念を持って、周囲の言葉に惑わされることなく、自分のやるべきことをやり続けたそうです。それは、患者さんを第一に考え、最善の医療を提供したいという強い気持ちがあったからこそ、成し遂げることができたのでしょう。
総括:天野恵子の生き方から学ぶこと
天野先生は、医師として、そして一人の女性として、数々の困難に立ち向かい、乗り越えてきました。その経験と知識は、多くの人々に勇気と希望を与えてくれるでしょう。天野先生の生き方から、私たちは、自分の信念を持ち続けること、困難を乗り越える強さを持つこと、そして、何よりも患者さんのために尽くすことの大切さを学ぶことができます。この記事は、天野先生の情熱と献身的な姿勢を伝えるとともに、女性医療の重要性を改めて認識させてくれる内容となっています。
企業人事の立場から、先生の記事から考えることも多くあります。
・多様性とインクルージョンの推進
天野先生が性差医療の必要性を訴え、女性特有の疾患に対応した医療を確立したことは、企業における多様性とインクルージョンの重要性を示唆します。従業員の多様なバックグラウンドやニーズを理解し、それに対応した働きやすい環境や制度を整備することが、組織全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。女性特有の健康課題への理解促進や相談窓口の設置も有効です。
・キャリア形成における柔軟性と継続
天野先生は、結婚・出産を経てからも医師としてのキャリアを継続し、晩年まで活躍されています。これは、企業が従業員のライフステージや健康状態に合わせて柔軟な働き方を支援し、長期的なキャリア形成をサポートする必要性を示しています。育児や介護との両立支援、時短勤務制度の導入、健康診断や相談機会の提供など、多様なニーズに応じた制度設計が求められます。
・リーダーシップと情熱
天野先生の困難を乗り越える力、医療に対する情熱、そして患者さんを第一に考える姿勢は、まさにリーダーシップの鑑です。企業においても、変革を恐れず、課題に立ち向かうことのできる人材を育成し、組織全体で情熱を持って目標達成に向かう風土を醸成することが重要です。天野先生のように、信念を持ち、自己研鑽を続ける姿勢を、従業員が学ぶことができる機会を提供することも有効です。
これらの観点から、人事部門は組織全体の持続的な成長のために、従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮できるような環境づくりに尽力していく必要があると考えられるでしょう。