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人事制度:評価者のみならず、「被評価者の理解度を高める」こともまた重要

被評価者の理解度を高める

 人事制度において、評価される側(被評価者)の理解度を高めることは重要です。評価者研修で評価者の力量を高めるということは、多くの企業が行っていますが、被評価者についてはまだ足りない会社も多い印象がします。実際に、評価者研修は7割の企業で実施されているのに対し、被評価者研修は2割に止まっているというデータもあります。

 評価者の評価力をどう担保し、向上させるかは、評価制度における永遠の課題ともいえる。基礎知識の習得や、評価者間の基準を揃える研修である評価者訓練の実施状況をみると、「実施している」割合は、71.4%と7割にのぼる。また、被評価者(評価される側の従業員)に対して、評価の仕組みの理解や、どのような行動が評価されるかといったことを学ぶ研修である被評価者訓練については「実施している」が22.6%と2割にとどまった。

産労総合研究所 「2016年 評価制度の運用に関する調査」より引用
https://www.e-sanro.net/research/research_jinji/jijiromu/hyokaseido/pr1702-2.html

 調査によれば、72.7%のメンバーが目標設定に関する研修を受けたことがありません。評価も含むより広い範囲の「被評価者研修」という形でのトレーニングは、77.1%が未受講です 。これでは、頭を捻 ひね ってどんなに精緻な制度を作ったとしても、メンバーの評価観を制御することはできません。
 多くの企業は、難易度の高い目標や挑戦的な目標を持ってもらいたいと言いながら、それを伝える役目を現場任せにしてしまいます。ほとんどの目標管理制度では、一次目標設定の作業は部下側で行われます。(中略)上司も部下も「前年とほぼ同じこと」を互いに黙認し合う姿こそが、今の多くの企業の目標管理のあり方です。
 だからこそ、なんのために目標と評価の制度があり、どういった狙いを持っており、会社のビジョンや人材ポリシーとどのようにつながっているのかを、まず「部下側」に伝えることは重要です。しかし、目標管理制度を「評価と人件費配分」のシステムだと考えている日本企業は、このプロセスをスキップし、「評価者研修」という上司側への研修のみで終わらせてしまいます。

小林 祐児著『リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考~ 』(光文社新書,2023年)p271より引用

 被評価者研修は、被評価者が、仕事の目的や目標、評価基準などをより明確に理解し、仕事の品質を改善するのに役立ちます。さらに、評価者と被評価者のコミュニケーションを改善することも期待できます。

 自己評価もより正確になるため、改善点や課題を明確に把握し、改善の方向性を見出すことができます。

 評価者と被評価者のコミュニケーションが改善することで、お互いの理解度が高まり、より建設的なフィードバックができるようになります。被評価者はより具体的なアドバイスや指導を受けることができ、仕事の品質を向上させることができます。被評価者の理解度を高めることは、仕事の品質を改善するために非常に重要な役割を果たします。

 理解度を高めるための例として、建設的なフィードバックを行うことと、自己評価と評価結果が異なる場合の例を示します。 

建設的なフィードバックとは?

 建設的なフィードバックは、相手に対して肯定的な要素を含みつつ、改善点や課題について具体的なアドバイスを与えるフィードバックです。相手を批判するのではなく、成長や改善のためのアドバイスを提供することを目的としています。

 例えば、仕事の報告書を書いた被評価者に対して、建設的なフィードバックを与える場合、以下のようなアプローチが考えられます。

1.肯定的な要素を伝える:
 報告書の内容が良くまとめられていたことを褒める。

2.問題点を指摘する:
 報告書の一部に誤りがあったことを指摘する。

3.改善案を提案する:
 報告書に含める情報をもう一度確認し、正確な情報を追加することを提案する。

 建設的なフィードバックにより、批判的な要素とともに、相手が改善するための具体的なアドバイスを提供することで、相手の成長や改善に役立つものとなります。


自己評価と評価結果が異なる場合は

 自己評価と評価結果が異なる場合がよくあります。その原因を正確に把握し、改善するための対策を考えることが重要です。
 
 まず、自己評価と評価結果が異なる原因を考えてみましょう。例えば、自分が実際に思っているよりも能力やスキルが低かった、評価基準が明確でなかった、評価者とのコミュニケーションがうまくいかなかったなどが考えられます。

 自己評価と評価結果が異なる場合には、フィードバックを通じて、正確な理解を促し、改善の方向性を示すことが重要です。以下に、具体的なフィードバックの伝え方を示します。

1.肯定的な要素を伝える:
 まずは、被評価者の仕事に対して肯定的な要素を伝えましょう。被評価者が自信を持ち、受け止めやすい環境を作り出すことができます。

2.評価結果を伝える:
 評価結果が自己評価と異なることを明確に伝えましょう。その際に、具体的な点や数字など、客観的なデータを示すことで、説得力を持たせましょう。

3.原因を探る:
 自己評価と評価結果の違いについて、原因を探りましょう。被評価者の意見を聞き出し、その原因を共有することで、共通認識を持つことができます。

4.改善案を提案する:
 適切な改善策を提案しましょう。被評価者の意見を聞きつつ、具体的な改善案を示すことで、被評価者が自己評価と評価結果を一致させるための方向性を明確にすることができます。

5.フォローアップ:
 フィードバックの後に、適切なフォローアップを行いましょう。被評価者が改善策を実行しているか、問題が解決されているかを確認することで、改善の進捗状況を把握することができます。

 被評価者の理解を高め、人事制度の運用さらに強固にしていきましょう。継続的に実施していくことが非常に重要になります。

 なお、人事考課の標準的な流れは以下の通りです。

 また、被評価者研修は、自社の人事制度の「成熟度」も鑑みて実施する必要があります。評価者の理解が不十分なまま、被評価者研修が安易に行われると、思わぬ方向にいきます。



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