「なんかさ・・、思わない?」
目の前の彼女は、窓の外を見つつそうつぶやいた
「え・・なんだい?」
聞くと彼女は、「地方巡業の歌手」だという。
芸名は「リリー」
ぱっちりとした目の大きなちょいと男好きのする美人だ。
そしておいらもしがない渡世人。
ひょんな事で、この急行のボックス席でこの女と相席だ。
まぁ、旅ガラスにはよくあることだが。
リリーはちょっと涙ぐんでいた。
「やだねぇ、何か涙出ちゃうんだ。」
派手ななりの者ってのは、意外と心に「哀しい」を持っている
おいらもそうだからよくわかるんだ。
「ねえ、おにいさん、ほら、真っ暗な中にぽつんと灯りが見えるじゃない。」
「ああ、みえるねえ」
「あのひとつひとつにさ、あったかい家族がいるんだなぁって・・。」
「・・うん、そうだな、一つ一つの灯りに、父ちゃん母ちゃん、そして子どもたちがいてなぁ・・。暮らしがあるっていうな。ちっちゃいけど大事な。毎日があるよな。」
「理由はないけど、なんかさ、涙出ちゃうんだ。・・いいなぁって・・。」
なるほどなぁ・・考えてみりゃ、おいらも、いいなぁって思う。
「あたしたちってさ、なんか、どうでも良い、あぶくみたいなもんなんじゃないかな?」
「うん、そうだなぁ、そのあぶくにしても上等なもんじゃねえ、風呂でぷっと屁をして、背中からぶくぶくって沸いたようなあぶくだな。」
リリーは、腹を抱えて笑った。
カタンカタンと夜行列車は北へ向かう。