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人を雇うことについて

パン屋 Humme (ハム) は今年の3月に移転する。
これまでは夫婦2人で営んできたが、移転後は主に販売スタッフとして数名雇う予定だ。今この時代に人を雇うことはかなりリスクであり、昨今のパン屋の流れでもひとり親方のお店や夫婦のみで成り立たせるお店が増えている。

実際、私がお店を始めたときも誰かを雇おうとは全く思っていなかった。自分たちが暮らしていけるだけの稼ぎがあればよく、誰かを雇うと制約が増えると感じていたから。

そんな私たちが移転を機に人を雇おうと思った理由を、今回は書くことにした。

人を雇うことを考え始めたのは、お店を始めて1年ほど経った頃。
人手が欲しいといより、働ける場所をつくることが地域のためになるのではと考え始めたからだ。

そもそもパン屋をしようと思ったのは、この場所で暮らしていくためだった。いつか妻の地元である鹿児島で暮らしたいけれど、今の仕事では難しい。ではなにをするか?と考えたときに、「食」を仕事にしたいと思った。
中でもそのときパンに強く惹かれていたこともあり、パン屋で働き、準備をし、開業した。だから地域のためではなく、自分たちのため。というのが始めた理由の大部分を占めていたように思う。

ところが鹿児島に移住し、お店を営みながら暮らしてみると、それまで感じていなかったこと、見えていなかったものが見えるようになった。
人口減少、空き家、荒れた土地、働く場所の選択肢の少なさなどなど。東京にいると対岸の火事のようだったことが、今目の前で起きている現実。
そしてそこに拍車をかけたのが、娘が生まれたこと。
この子が大人になる頃に何もない寂れた田舎になるのは嫌だなと。暮らすかどうかはさておき、たまに訪れることが億劫になるような街にはなって欲しくないと強く思うようになった。
今のままでも10年後ぐらいならなんとかなっているかもしれない。でも20年後は厳しい気がする。高齢者が今以上に増え、移動も気軽にできない人が増えた地方の田舎街でパンが売れるだろうか。その流れを止めるまでは難しくても、少し遅れさせたり、訪ねてもらえる場所にするためにできることがあるのではないか。

人を雇う。
その人の生活を支え、責任を持つということ。

働きたいと思う場所をつくる。
ここで暮らす人にとってだけでなく、移住してでも働きたいと思う場所をつくるということ。

これらは私の中の定義。
仕事の都合で転勤してきて渋々暮らすのではなく、この店がある街で、この店で働きたいから暮らす。そんな場所をつくりたい。
小さな店ができることなんてたかが知れている。人口減少を止められるとも思っていない。それでもそういう場所ができれば何かが変わるかも知れない。だから人を雇いたい。

あの店があるからその街で暮らす。
東京や都市部ではそんなに珍しいことではない、と思う。好きな喫茶店があるからこの街に住みたい。よく訪れる地域、お気に入りのお店が多い地域、そういう場所で次は暮らそう。そういうことは少なくない。暮らしたい街とはそういうことだと思う。

ただ、地方だと今暮らしている場所から離れるとなると、今の仕事を続けながらというのは難しい。仕事をどうするかという難題が付いてくるため、軽い気持ちで暮らすことはできない。
私のお店もまだまだ働く方が暮らしていけるだけの稼ぎを渡せるレベルではないけれど、まずは一歩。そして二歩、三歩と進めていければと思う。

移転後のお店をしっかり軌道に乗せる。
そのあとは人ありきでやることを増やしていく。
何かをやりたいから人を雇うのではなく、働きたいと来てくださった方がいて、それを起点にやることを増やす。そういうかたちで人を雇っていきたい。

人手不足が叫ばれる今。働きたいと言ってくれるだけで本当にありがたい。
Humme で働いて良かった。
そう思えるような職場にしていくのが、経営者としての今の私の仕事。
もちろん、美味しいパンと心地良い空間で、来て良かった、ここに Humme があって良かったと思ってもらえるお店をつくるのも、私の仕事。
どちらも両立させる。それが今年の目標。

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hidekuni.mw
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