「極楽征夷大将軍」
同じ大学の同級生ということでいつも親近感を持っている垣根涼介さんが直木賞を受賞しました。今年の新作「極楽征夷大将軍」での受賞です。
実は、Facebookで出版を知り、予約で購入したのですが、しばらく積ん読していました。読了した今、すぐに読んでおけば良かったと大変反省しています。読み始めてから、とにかく時間があれば読み進め、あっというまに読了しました。同僚も言っていましたが、垣根さんはとにかく筆がなめらか。「猶子」や「頭陀袋の神」など、浅学で知らなかった単語はどんどん出てくるし、登場人物がどんどん解明したり、かなり頭を使わせられましたが、文章がうまいのでとにかく止まりません。ちなみに、語り手の一人である足利直義は、「高国」、「忠義」、「直義」、「慧源」と名前が変わりますし、官職名で「相模守殿」、住居から「三条殿」と、場面によって呼び方が変わります。正直、単語、登場人物をウェブで調べながら読み進めました。垣根さんは、相当に文献、特に現代で発掘された手紙、文書等を相当に読み込んでいます。小説のあちこちに登場人物の実際の手紙文が引用されています。熱量がこういうところからも伝わります。
垣根涼介さん自身は「エンターテイメントとして読んでもらえればいい」と語っていらっしゃいましたが、この小説は直木賞を受賞するほどですから、構成から大変考えられています。小説としては、足利直義と高師直の二人の視点から語られることに二重三重に巧みなプロットがあります。史実に暗い私は最後まで読んでうなりました。
「オビ」にあるように、「やる気なし、使命感なし、執着なし」の足利尊氏でしたが、弟の直義の危機にだけは「常勝将軍」としての力を発揮します。後醍醐天皇、楠木正成、新田義貞など、異能の人物達が明確な目的をもって一所懸命に行動を起こしていく中、なぜ尊氏が鎌倉幕府を倒し、建武の新政をも崩壊させられたのか?歴史、人物の力とは不思議なものです。私のリーダーの端くれとして、学ぶべき点があるように思います。非常に流動性、ボラティリティの激しい現代において、声高に主義主張を繰り返すだけの硬直的なリーダーにはなりたくないと改めて思いました。
枝葉な話しですが、征夷大将軍となった尊氏は、多くの御家人、公家から贈り物をもらっても、次から次へと訪れる客達にすべて分け与えてしまうエピソードがでてきます。実は、これは私の母が全く同じことをしています。駅前の銀行にお金をおろしに行って、帰りにこちらの商店ではお世話になっているから買い物を、こちらの方には先日の御礼にさきほど買ったものを差し上げてと繰り返して、結局財布は空、手ぶらのまま帰ってきました。執着がないとは言えませんが、確かにものにも、お金にも、土地にも執着しない人はいます。
ますますあぶらが載ってきた小説家、垣根涼介さんはこれから「1年に一冊」出版するとおっしゃっていました。ますます楽しみです。ちなみに、「極楽征夷大将軍」の出版が1年遅れたのは、もしかしてお怪我の性?