粘り強く考え続ける子ども達
曽於市教育委員会で見せていただいた授業のビデオは、中学1年生の10月の数学の授業でした。問題として出されたのは「ランドルト環」です。
先生(私)は、視力検査で0.1の大きなランドルト環でも、視力が測れませんでした。0.05の人の視力を測るランドルト環を作るにはどうすればいい?
視力によって輪の大きさ、太さ、あいているところの幅などが違うという気づきが、声やつぶやきとして出されました。
分かったらコンバスを使って描いてみて。
ここまで約4分ほど。
あとは、4人のグループでの思考が始まります。グループで問題をシェアし合う中で何を考えたらよいかが、はじめて分かる子もいるようでした。
授業の残り10分くらいまで、ずっとこれが続きます。先生はと言うと、個人やグループが思考しているかどうかをそっと見ています。
先生が授業をコントロールしないので、子ども達は試行錯誤しながら黙々と考え続けているようでした。グループ内で粘り強く頑張ることがルールで、グループ内の他の人がやっていることをのぞき込んで気付く子もいるようでした。
他にこんなルールみたいなものもあるそうです。「きかれない限り教えない」「他のグループに尋ねに行ったりしない」「先生にこれでいいですかと聞いても教えてもらえないはず」「勉強は、はじめは分からないのが当たり前」
一応、考えが整理できたところで、誰かが前に出て発表していました。
その後、次の「ジャンプの問題」が出ます。
では、視力3.0を計測する方法は?
小さすぎてコンパスでは描くことができず、新たなアイデアが必要です。普段、勉強ができる子どもでも新たなアイデアなしでは解決できません。このアイデアには、ちょっとしたヒラメキが必要で、意外と勉強が苦手な子どもがよい発想をして、グループの仲間に賞賛されることがあるようです。
授業終わりのチャイムが鳴った瞬間「えっ、もう終わり?」という声が聞こえてきました。授業が終わってからも話し足りずに意見を述べ合う子もいたようです。
翌日や翌週に「ジャンプの問題」の解答を持ってきて「先生出来た!」と報告する子どもが続出だったそうです。
子ども達は、これまで授業中粘り強く長時間思考する習慣がなかったので、4月からしばらくは学習は遅れがちで時間がかかったそうです。しかし、この思考する習慣を続けていると、どこかの時点で壁を突き破るんでしょうね。だんだん思考することを楽しめるようになり、思考速度もだんだん加速していくのだそうです。まるで、4月からランニングを少しずつ始めて、だんだん距離が伸びてきたような感じですね。
それに、勉強が苦手な子どもがよいアイデアを出すことで、グループの学習が前に進むことがあるというのもいいですね。勉強苦手な子どもが勉強ができる子どもに教えるという場面は、普通の授業ではほとんど起きませんから。
また、先生は自信を持って子どもに丸投げして、いちいち指示を出さないところも素晴らしいと思います。せかされ、時間を切られる学びは、子どもにとってストレスでしょうから。
これまでの授業では、やはり先生が説明、解説などを入れすぎ、子ども達の思考が中断させられていたのだと思います。この授業では先生のおしゃべりの時間はムダな時間という考え方でした。
数学が得意な子も、苦手な子も、一人で分からないときは仲間に声を掛け合い、考えを伝え合い、協力しながら、考えることを楽しんでいたようです。
(この学習の副産物)
1 学校で一番時間の長い授業時間で、誰でも認められる場面があり、自己肯定感が上がっていくためか、不登校の子どもも減っているようです。
2 前頭葉を鍛えているので、全国学力テストの成績もいつの間にか上がっていくようです。
もちろん、教えることが必要な時間もありますので、そんなときはきちんと教えて理解させるとのことでした。これについては、授業を見ていないので、どんな授業になるのか分かりません。
ただ、別の「学びの共同体」実践者は、「教えないといけないような時間は、YouTubeで学習内容を分かりやすく説明した動画があるので、それを参考に自分で説明動画を作って、子どもたちのタブレットで繰り返し見れるようにした。」と言われてました。
教えないといけないことを一斉授業の形式で何度も繰り返して丁寧に教えていると、分かっている子は飽きて退屈してしまうので、そこは個別に何度でも繰り返して学べる仕組みを作っておく。なるほど、徹底して教えて理解させないといけない「筆算の仕方」、「10進位取り記数法」「単位換算」(それぞれにYouTube動画のリンクを張りました。)などには使えるかもしれない、などと授業の様子を勝手に想像することでした。