給与法をめぐる議論を考える。
いわゆる給与法改正に伴い、様々な議論が行われています。公務員の給与体系について少し整理をし、私見を書き綴ります(あくまで私見であり、党や組織の意見ではありません)。
※書き殴った感はあるので、必要に応じて修正加筆する可能性があります。その場合は箇所を明らかにし、随時追記を行うかもしれません。
1.国家公務員の種類
まず国家公務員の給与制度について簡単に説明します。
国家公務員には、一般職と特別職があります。
【人事院・国家公務員の数と種類】https://www.jinji.go.jp/pamfu/R3profeel_files/03_kazu_to_syurui_342KB.PDF
一般職の国家公務員には「国家公務員法」が適用され、その給与は、「一般職の職員の給与に関する法律」(以下「一般職給与法」という。)等の法律で詳細が定められています。
これは、日本国憲法第73条第4号で、内閣は「法律の定める基準に従い、官吏に関する事務を掌理する」(勤務条件法定主義)と定められているからで、国家公務員法では各種勤務条件等の他、その給与は法律に基づき定められること(法63条「給与法定主義」)、また、金額については、社会一般の情勢に適応するよう国会により随時変更できることとされています(法28条1項「情勢適応の原則」)。
定められた俸給表の金額が妥当かどうか、どれくらい社会一般の情勢とずれているかを判断するのは「人事院」の役割になります。国家公務員の人事管理を担当する中立的な第三者・専門機関である「人事院」が、給与等の勤務条件の改定等について国会及び内閣に勧告し、この勧告に基づいて実際に内閣や国会で改正が行われることになります。
一方、特別職国家公務員は、国家公務員法を適用しないこととされており(2条5項)、特別職の給与等については、「特別職の職員の給与に関する法律」(以下「特別職給与法」という。)等により定められています。
”特別”な理由は職種によって異なりますが、成績主義(競争試験を用いた採用など)の原則の例外(内閣総理大臣、国務大臣など)や、三権分立の観点(裁判官や裁判所職員、国会職員など)、職務の性質(防衛省職員など)などが理由になります。
諸外国を見てみると、国家公務員の任用や勤務条件等々についてはもちろんそれぞれ異なる制度や運用が行われていますが、先進国においては、国家公務員の給与について言えば、その人件費は国家予算の一部を占めることから、いずれも議会の承認を必要としているところがほとんどです。
【人事院・諸外国の国家公務員制度の概要】
https://www.jinji.go.jp/syogaikoku/syogaikoku.pdf
2.国家公務員の給与制度と人事院勧告
公務員も労働者であり、勤務の対価として適正な給与を支給する必要があることから、先に述べたように、その給与額については、社会一般の情勢に適応するよう国会により随時変更できることとされています(国家公務員法28条1項「情勢適応の原則」)。
この「社会一般の情勢」について、その時々の経済・雇用情勢等を反映して労使交渉等によって決定される常勤の民間企業従業員の給与水準と常勤の国 家公務員の給与水準を均衡させること(民間準拠)を基本とした給与勧告を行うのが人事院の重要な役割の一つになります。
人事院は、毎年、公務と民間の給与を調査し比較を行った上で給与勧告を行っています。比較方法についてはラスパイレス比較という手法が用いられており、役職段階、勤務地域、学歴、年齢階層別の国家公務員の平均給与と、これと条件を同じくする民間の平均給与のそれぞれに国家公務員数を乗じた総額を算出し、両者の水準を比較するというラスパイレス方式が用いられています。
簡単に言えば、個々人の能力はひとまず置いておいて、客観的に官民同程度のポジションにある人を想定比較して、あまり差が出ないようにする仕組み、ということです。
この方式に基づいて、民間給与が上がればそれに追随して公務員給与引き上げの勧告になりますし、民間給与平均が下がればそれに伴って引き下げ勧告がなされてきました。
【人事院・給与勧告の仕組み】https://www.jinji.go.jp/kyuuyo/index_pdf/00_shikumi.pdf
また公務員給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならないとする職務級の原則に基づき、そのの内容について職種に応じて俸給表が定められており、さらに、職員の職務の複雑、困難および責任の度合いに基づいて職務の階級区分を定めています。あわせて、個別の事情への対応や、職務級の補完的役割を果たす諸手当があります。
同様に特別職国家公務員等の給与も各法律によって定められており、それぞれの職種・職責にあわせた階級区分が非常に細かく設定されています。
【人事院・俸給表】
https://www.jinji.go.jp/kyuuyo/index_pdf/houkyuuhyou.pdf
【内閣官房・国家公務員の給与(令和4年版)】
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/pdf/r04_kyuyo.pdf
なお地方公務員については、人事院勧告をもとにして地方議会での議決を経て給与が改定されることになります。
【総務省・地方公務員の給与改定の手順】
https://www.soumu.go.jp/main_content/000035140.pdf
3.今回の改正にかかる問題点とは何か。
まだまだ民間、特に地方や中小企業などで物価上昇率を上回る賃金アップが実現できていない中で、有効でスピード感ある経済対策が打てていない政府・閣僚に対して、このタイミングで給料を上げるのはけしからんという気持ちも分からないではありません。
ただ、ここまで述べてきたように、国家公務員の給与は国家公務員給与に関する「法律」に基づいて体系的に組まれており、この制度を前提とする限り「法律」については賛成をするのが妥当な判断ではないかと考えます。すなわち、総理・閣僚だけ法律上特別扱い(良くも悪くも)することは、憲法上の要請にも反しかねません。
ただ現下の経済状況や国民生活を考えれば、政府与党としては閣僚給与をあげるというのはなかなか理解を得られないのではないかという判断のもと、後出しではなく、法案提出に先立って一部返納などの措置を「運用」として対応しておけばよかったのではないかと感じます(そもそも給与に見合うだけの仕事をしていないと見られることや、自分たちでそれだけのことをしていると言えないこと自体が問題であるとは思います。他方、その職責・給料に見合わないのだと主権者たる国民が考えれば選挙で落選させることができる、というのが我が国の民主主義(の建前)ですから、選挙の重要性は言うまでもありません。)
少し話がそれましたが、もっとも法案の賛否についていえば、日本維新の会が主張されるような『そもそも、この人事委員勧告制度に基づく公務員の勤続年数に基づく俸給表ベースの給与体系が時代錯誤でおかしいから変えるべきだ!だから法案に反対だ!』というのは筋が通っていると思います(違憲性や、賛同するかは別として)。
ただ制度自体は肯定しておきながら(例えば、一般職給与法には賛成)、閣僚給与があがるのがおかしいから特別職給与法案に反対というのは一貫していないのではないでしょうか。大手報道機関ですら「総理給与アップ法案」などというネーミングを行なっており、あまりにもナンセンスすぎやしないでしょうか。
これを機会に、皆さんには「公務」とは何かを今一度考えてもらいたいと思います。
公益性・公平性や非営利性を前提に、生活や社会の維持を図るべきだとして設けられたのが「公務」であって、営利性や効率性を追求するのであれば、それは民間が行えばいいということになるでしょう。
公務員制度や公務員の体質が硬直的すぎる、融通が効かないといった点などは改善する余地が大いにあると思いますが、あくまで「公益性」「公平性」「非営利性」といった性質の職責を公務が担っているということは、改めて認識しておくべきでしょう。
いずれにせよ、政治は、停滞の続く我が国の経済状況を好転させるための政策を一つ一つ丁寧に、かつ迅速にうっていき、豊かな国づくりをやっていかねばなりません。
公務員も民間も、もちろん国会議員や閣僚も、職務職責に見合った給料が支払われ、心も財布も豊かになる国づくりに寄与していきたいと考えています。
4.余談
なお余談。
今回の法改正でも入っていますが、若年層に重点を置いた俸給引上げが繰り返されています。初任給が高くなるので公務員就職の誘因としたいのでしょうが、中間層の俸給額の引き上げ幅は低いため、結果として賃金カーブが緩やかになります(年次が経ってもなかなか給料があがらない)。これでは職員の勤続モチベーションの維持の難しさや、 30 〜 40 歳台半ばまでの職員の不満感があるのではないかと推察します。
まさにこの世代ど真ん中の私からすると、ただでさえ就職氷河期で採用が絞られていたことにより世代人数が少ない中で、実務を担わなければならないにもかかわらず給料が上がらない状況(上は多くもらっていた、下も多くもらえるようになっている)は問題であり、公務員給与のみならず社会全体の問題として喫緊の対策が必要だと強く感じています。