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「キーエンス解剖」から教育・福祉(保育)従事者は何を学ぶか

今年はたくさんのビジネス書を読みました。
私の研究分野から言ってビジネス書は縁遠いものではあるのですが、保育や教育、福祉の分野の今後を考える上ではビジネスライクな発想を持つべきだ、という思いと、個人的な興味から色々読みました。今日は「キーエンス解剖」から得たことを少しご紹介したいと思います。

「キーエンス」ってどんな企業か?

恥ずかしながら私も企業名と「高収益で給料がべらぼうに高い」くらいの知識しかありませんでした。
キーエンスは大阪・東淀川区に本社がある企業向けセンサーを得意とするメーカーです。基本的に「機械」の会社なのでその商品等についての紹介は割愛しますが、株式時価総額はトヨタ自動車、ソニーグループに次いで第3位(2022,11,28現在)の14兆4782億円、自己資本比率93.5%、そして社員の平均年収はトヨタ自動車の857万円(2022年3月期の有価証券報告書に記載された従業員の平均年間給与)に対して、2183万円ととんでもない金額を叩き出しています。

高収益=ブラック企業では?

確かにハードワークであることは本著を読めばわかります。しかし、いわゆる「気合と根性」とは根本的に異なるのです。この会社はいわゆる「業界」を相手に商売をする(小売では無い)ので、いかに取引先企業との信頼関係を結び、維持していくかが企業の成長を支えるわけです。ですから、営業への力の注ぎ方はハンパではありません。しかし、営業先企業の情報を共有化するシステムや「個人としての成長」よりも「組織としての成長」を全社で共有する姿勢は大いに学ぶべきだと思います。実際、評価の手法が独特です。詳しくは本著を読んでいただきたいのですが、「組織としての成長が従業員個々の幸福につながる」という私なりの理解に達したのです。

キーエンスから福祉・教育現場は何を学ぶか

では、この機械メーカーから福祉(保育)・教育現場は何を学べというのでしょうか。いや、大いに学ぶべきものがあります。
まず、通信教材の「スマイルゼミ」をご存知ですよね。これが「ジャストシステム」の商品だとは全く知りませんでした。ジャストシステムは日本語ワープロソフト「一太郎」で有名です。私も公務員だった時に、上級庁が「一太郎派」で、送られてくるテンプレートがことごとく「一太郎」。他方私たちの役所ではマイクロソフトのWordを使っているわけでして、それはそれは面倒な思いをしたものです。しかし、最近は中央省庁でもWordなどマイクロソフト系のソフトを使うことが多くなり、ジャストシステムは失礼ながら「終わった企業」と思い込んでいました。しかししかし、ジャストシステムは現在キーエンスの関連企業になり、株式の44%を保有しているとか。2022年3月期までの5年間で売上高は2倍超、営業利益は3倍超になっているとのこと。その売上に大きく貢献しているのが「スマイルゼミ」だったのです。
「進研ゼミ」など通信教育業界は熾烈な競争をしていますが、「スマイルゼミ」が好調な要因として挙げられるのは、その開発に徹底した「データ分析」があるということです。

「根拠」無くして仕事を語るなかれ

この「データ」=根拠の活用が我々大学を始め、教育業界、福祉・保育業界に最も足りない部分かなぁ、と思っているのです。
例えば、大学は年に数回のオープンキャンパスをします。その参加者数はある種、その年度の志願者数を占うバロメーアーではあるのですが、「オーキャンの参加者が◯人で去年より多い。だから、志願者は増えるだろう」みたいな分析は「それってあなたの感想ですよね」レベルに価値の薄い分析と言えます。同様に「雨だからオーキャンの参加者が少なかった」と結論付けるのはあまりにも拙速で、「”雨だからオーキャンに行かない”程度に高校生が考えてしまうのは、本学に何が足りなかったのか」を多角的に分析することが大切なのでしょう。
また、幼児教育、福祉、保育関連でも「●●すると保護者が喜ぶ」「◯◯すると保護者ウケがしない」というのはあくまで経験値に基づく「感想」レベルであって、その園が出した結論が本当かどうかはかなり疑わしいということになるのではないでしょうか。
これらのデータに基づく分析をすることで、業務の効率化や真のニーズに基づくサービスの提供につながるのです。
従って、「データって大事」と改めて思い知らされたように思います。

まとめ

私は大学教員(しかも経済・経営とは無関係な専門)ですが、ビジネス書から学ぶことは多いです。これから日本は急激な人口減少に転じます。今、目の前に広がっている風景は当たり前ではなくなります。
この年の瀬、多くの教育機関、福祉・保育の施設では「来年のこと」を考えていることでしょう。それはそれで大事なのですが、5年先、10年先、20年先を考えることも大事です。
例えば保育園や幼稚園の場合、自治体のホームページなどで3年後の3歳児の人数を把握することができます。多くの自治体では地区別に把握できるのです。それは今年の出生数から計算すれば多少のずれはあるものの、おおまかな人数を把握できる(おそらく厳しい数字でしょうが)からです。ですから新入園児の獲得に向けて、今から対策を取ることが可能なのです。もちろん我々大学も然りです。18年後にはとんでもないことになります(私はざっくり計算しました)。
今後の教育、福祉業界を考えるきっかけに、ぜひ本著などのビジネス書を参考にしてはいかがでしょうか。



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