逃避の散歩 32.吉祥寺から多摩湖(都立狭山公園)
◇
ある日、グーグルマップを見ていたら、「多摩湖自転車歩行者道」という字を見つけた。その名の通り、自転車と歩行者専用の長距離道路だ。
気になってそれを辿ってみると、井の頭通りから多摩湖の方までほぼ一直線で繋がっている道であることを知る。距離も狭山公園までなら10キロ程度と自分にとってはキツくもない。というより、多摩湖が吉祥寺から歩いても14キロ弱って意外に短い所にあったのを知ったのは自分にとって驚きだった。
というわけで、いま自分は井の頭通りと吉祥寺通りが交差する吉祥寺駅前交差点にいる。ここをスタート地点として歩こうと思う。横断歩道を渡り、JR線のガード下を通る。
思えば井の頭通りでこの先を歩いたことがあるのは、せいぜいJR三鷹駅北側の中央通り交差点あたりまでで、その先は自転車で数えるほどしか通ったことがない。なので、中央通り交差点を越えた先は初めて歩く道となる。
何度もの信号待ちを経て14分経過、中央通り交差点に着く。この交差点を左折し、武蔵野警察署交差点の分岐を左側に歩くとJR三鷹駅北口に着く。
実は普段、この辺りまででも井の頭通りを利用することは滅多にない。理由は簡単で、信号が多くてよく足止めされるから。
もし吉祥寺駅からJR三鷹駅を行くならば、吉祥寺駅前交差点を井の頭自然文化園側に渡り、最初の角を右折して直進し、突き当りを左折して井の頭自然文化園の北側を通る八丁通りを経由してJR線の線路沿いに歩いた方が圧倒的に早い。
21分経過、新武蔵境通りと交差する関前一丁目交差点に着く。左前にあるのが境浄水場。この沿道は一日に二系統一便ずつしか来ないバス停が三つ並んでいる。
28分経過、境浄水場西交差点で信号待ち。ここからこの交差している武蔵境通りを左折して真っ直ぐ歩くとJR武蔵境駅北口に着くが、これから向かうのはこの先の関前五丁目交差点だ。
30分経過、関町五丁目交差点に着いて信号待ち。ここで井の頭通りは五日市街道と合流してお別れだ。右折用とUターン用の車線によって独特な形状となった中央分離帯の横断歩道の先に、多摩湖自転車歩行者道がある。
歩行者と自転車専用の長い直線道路、楽しみだ。行ってみよう。信号が青に変わり、横断歩道を越えたところで武蔵野市を離れ西東京市に入る。
32分経過、ここが起点だ。
橋のように少しだけせり上がったところを通り抜けると、木々と住宅に囲まれた道へと入る。左側が歩道で、右側が自転車用道路だ。
39分経過したところで、妙に広い公園の横を通る。案内板によると「あおぞら公園」というらしい。中央部には何かのモニュメントがあり、その周辺に小さな遊具がいくつか見えるが、ほとんど広場になっている感じだ。広さのわりに公衆トイレがないのか。
またしばらく進むと、左右に畑が広がる。ただ草木が並ぶ住宅の間を通るのではなく、こういう変化があるのは面白いと感じる。
47分経過、右側に小学校が見えたところで先に土手が見えるので、あえてそちらに移動して歩く。なぜこんなところに土手があるのかは後で調べるとして、アスファルト舗装だけでない道を歩けるのは楽しい。
土手の端まで来て、下の道と合流すると、鉄棒や滑り台などの遊具や公衆トイレが並びに設置されている。
51分経過、南町三丁目東交差点を通り抜けたとき、電柱にとり付けられている警察の交通安全を喚起する看板で小平市に入ったことを知る。
そして、ふと目に入った表示板の「鈴木街道」が気になる。人通りの邪魔にならない所へ移動して軽く調べると、さっき通った「あおぞら公園」の交差点で一度渡っていたらしい。なぜ「鈴木」なのか後で調べてみるか。
さっきの交差点から次の信号あり横断歩道に差し掛かった所で、今まで低い住宅しかなかったのが、途中からマンションなどが見えはじめる。
59分経過、西武新宿線の花小金井駅前を通過。ここで進路を確認。なるほど、ここからしばらくはこの線路と並行するように歩いていくのか。
先を進んでいる時に今更ながら気づいたことがある。この道路はところどころが桜並木になっている。こりゃ、春先には来れないな。人出が多くなるのが容易に想像できる。
1時間7分経過したところで線路沿いにちょっとした竹林がある小平市立たけのこ公園の横を通過する。
1時間10分経過、小平ふるさと村交差点に着く。この辺りを青梅街道は通っていたのか。28、29回の時に続いて横切ることに。
青梅街道は吉祥寺の北側、西武新宿線の武蔵関駅近くまでしか通ったことがないので片側2車線の4車線道路という印象があったが、この辺りになると2車線になるのか。
信号が変わり、小平ふるさと村の前を通り抜けてすぐ、進路をふさぐようなコンクリートの塀が見える。
なんということはない。都道248号線のアンダーパスが西武新宿線の線路を通っているだけだ。線路側に「コ」の字に曲がり、先を進む。
再び住宅と木々に囲まれた歩道を進んで1時間20分経過、左側にすり鉢状になっている小平市立あじさい公園を通過したところで緑道が途切れ、またビルやマンションが見えてくる。そして小平駅南口交差点を渡る。
1時間23分経過、西武新宿線の小平駅前を通過。
再び信号を渡り、自転車駐車場の脇を抜けると味のある飲食店の並びが左に見え、さらに進むと再び住宅と木々に囲まれた道になる。
おもむろに見た道路案内板で東村山市に入っていたことを知る。そうとなれば『東村山温度』が脳内でリピートせざるを得ない。
1時間30分経過したところで遮断機が降りている踏切に着く。その間に検索をすると、さっき通過した小平駅から分岐した西武拝島線のものであることを知る。
電車が通過し、遮断機も上がったので先を進む。住宅街を通り抜け、左側にマンションが見えてきたということは、今までの傾向から駅が近いのかなと思いつつ、右側に自転車駐車場が見えてある程度進んだ時に左側の柵をおもむろに見る。
あ。
時計を確認すると1時間34分経過したところで萩山駅の横を通過。出入口がわからなかった。ここから更に西武拝島線と西武多摩湖線が分岐する。これから進む道は西武多摩湖線沿いだ。
西武多摩湖線はすごく昔に何回か国分寺駅から終点の多摩湖駅まで乗ったことがある。その理由は後ほど。しかし、萩山駅を含めて路線の風景はまるで覚えていないな。
やがて盛土で線路が高架になり、駅舎だと思う建築物が見える。そのまま進み、野火止用水(近くの案内柱で知る)を渡ると左に歩道橋が通っている。右側の先に信号が見えるので、明らかに歩道橋を利用した方がいいだろう。
1時間43分経過、西武多摩湖線の八坂駅改札口前を通過。ここで萩山駅を通り抜けた直後は2本あった線路が単線になっていることに気づく。
歩道橋を下り、自転車駐車場の横を抜けると踏切が見える。
気になったので通行の邪魔にならないよう路肩に移動してから検索すると、西武国分寺線のものだ。大学受験で“1回だけ”乗ったことがあるな。“1回だけ”ということで、結果はお察しいただきたい。
踏切を渡ってすぐのところに利用の案内板があり、その説明の下部に現在地を確認できる図を見ると、起点からここまでだいたい8キロメートルくらい歩いていることを知る。目的地の狭山公園まで2キロメートルほど。あと少しだ。
ここまででスタートから1時間46分。吉祥寺から起点までを含めると11キロ強歩いていることになる。
1時間53分経過、都立東村山中央公園への跨線橋を見て、今回初めて歩いているはずなのに妙な既視感が生じる。そして、この辺りからまた線路が2線になっている。
少し歩き、何かの高架に差し掛かったところで路肩に止まり、いまどの道と交差しているのかを検索していたときにふと思い出した。
谷口ジローの『歩く人』だ。
恥ずかしながらこの作品を読んでいないのだが、少し前に世田谷文学館へ谷口ジロー展に行き、そのときに『歩く人』の原稿を見ていた。その緻密に書き込まれた風景がほぼ同じだった。それで既視感があったのか。
ちなみに、交差してる道は新青梅街道だ。
1時間56分経過。新青梅街道の高架下を抜け、空堀川の佐山堀橋を渡る。
道は東村山浄水場の横を抜けて住宅街に入り、桜並木がただ線路に沿って続いている。人通りもなく無心に歩けるのが本当に心地いい。
線路が右に曲がる手前で1本になり、歩道は交差する所でアンダーパスとなる。階段を下り、歩道から自転車道を歩いて通過する。
少し進んだところで右側の土手の奥に駅舎のようなものが見える。たぶん、あそこが武蔵大和駅だ。武蔵大和って名の由来が違うのはわかるが、旧日本軍の同型艦の名前が合わさっているなと脳内でボケる。
2時間8分経過。武蔵大和駅西交差点に出る。目の前の森は狭山公園で、あと少し坂を上れば入り口に着くが、今回はもう少し上って多摩湖堤体南岸ゲートから村山下貯水池の堤防まで行ってみる。
最後のところで上り坂はきついはずだが、そうは感じない。こういうときにこそ『ロッキー4』のサントラ『Up the Mountain』の脳内再生がよく効く。『ロッキー』シリーズのサントラは最後の詰めにテンションを上げてくれるので、脳内再生曲としてヘビーローテーションに使うほど好きだ。
2時間15分経過、多摩湖堤体南岸ゲートを通過する。
ゴール地点まであと少し。かつて堤体に使われた親柱や上空を飛ぶ自衛隊の輸送機を眺めながら歩く。
いい年してたそがれる自分が少し恥ずかしい。
2時間16分、村山下貯水池の堤防に到着。ここから第一取水塔と多摩湖をしばし眺める。
そうだ。「西武多摩湖線はすごく昔に何回か乗った」理由の説明を忘れていた。大した話ではないが、中学生の頃に学校行事で冬にマラソン大会があったからだ。朝7時くらいにこの狭山公園に集合させられて、この堤防の下で運動着に着替えて確か5キロくらい走らされたのを覚えている。
堤防の上から見下ろす。
昔の記憶だと、下の方は木々がもっと密集していて、こんなに整備されていなかった。そんな中で着替えスペースを設けずその場で着替えをさせていた学校もどうかと思う。
それはそうと、いい道を歩けた。吉祥寺から2時間半以内でここまで来れるのもわかったし。
久しぶりに西武多摩湖線に乗って帰るか。
◇
【おまけ】
多摩湖上空を入間基地の方へ飛ぶ自衛隊の輸送機。