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抽出温度は「気にしなくても良いし、気にしても良い」

コーヒーの抽出に関して、よく聞かれる質問は「抽出温度」に関する質問だ。「沸騰直後のお湯を使ってはダメなんですよね?」など、なぜか温度に関する質問が目立つ。

僕の考えは極めてシンプルで「抽出温度は気にしなくて良いし、気にしても良い」である。貴方のお好みで決めれば良いと思っている。その理由は「お湯の温度が味わいに与える影響はその他の要素に比べて軽微」だと考えているから。

自分の興味の赴くままに論文を読み漁るのがルーティンとなっているが、抽出温度に関する興味深い論文を発見した。

"Brew temperature, at fixed brew strength and extraction, has little impact on the sensory profile of drip brew coffee

ザックリ訳すと「固定された濃度と収率において、抽出温度はドリップコーヒーの味覚にそこまで影響を与えない」とのこと。要は「温度」のみ変えた場合の味覚への影響の話だ。

この論文は、抽出温度は複数ある抽出パラメーターのひとつでしかなく、収率やTDSほど味覚に影響を与える要素ではない、と結論付けている。特に87度から93度において目立った差異は確認できなかったらしい。

面白かったのは、ある特定のカテゴリのフレーバーを感じやすい抽出条件の組み合わせが存在するという報告だった。

例えば、ベリーやフルーティーはTDSと収率の相互作用によって生まれ、スパイスは温度とTDSの相互作用によって生まれやすい。また、ブラックティーは低いTDSと高い収率で感じやすい。フローラルの香りの元となるダマセノンという香気成分は抽出が比較的遅いからなのだが、これは実体験と結びつく。

2017年のWorld Barista Championshipの鈴木樹選手やオーストラリアのHugh Kerryのエスプレッソがまさにこの体験と合致する。通常エスプレッソは1:2の割合で抽出されることが多いが、ふたりのエスプレッソは異例の1:3の割合だった。理由は単純明快で1:3の方がブラックティーやフローラルを思わせるフレーバーを感じやすかったから。

この論文の科学的事実のみに焦点を当てれば、抽出温度に気を使いすぎることはナンセンスだろう。自宅で楽しむならば、抽出温度より濃度に影響を与える粉量や挽き目に気を配ろうよ、と言いたい。でも温度を測る工程そのものが良いんだよな、という人もいるはずで、自分好みの温度まで冷まして淹れるコーヒーだって美味いはず。

結局どっちだよと思われるかもしれないが、「気にしなくて良いし、気にしても良い」のが温度なので、肩肘はらずコーヒーを淹れてみよう。ちなみに僕は沸騰直後のお湯をワイルドに使ってます。

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