2018年に行われた4人の超有名漫画家座談会『AKT飲み会』レポート at space caiman【浅田弘幸】【上條淳士】【田島昭宇】【村田蓮爾】
2018年に行われた村田蓮爾第4弾画集の発売記念
トークイベントのレポートを転載します。
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村田蓮爾第4弾画集[廉価版]の発売を記念して
フライングゲット&サイン会が開催されました。
あれ、もっと出してないっけ?と首をかしげた方は
それはおそらくアニメ画集をカウントしていると思われる。
そういった版権に関わらないオリジナルの画集。
……まぁ正直クオリティや村田蓮爾らしさというモノは
何れも甲乙つけがたいので
好きなら当然どっちもチェックしてますよね?
というわけで、2018年2月25日を振り返りたいと思います。
上條淳士×浅田弘幸×田島昭宇×村田蓮爾トークイベント2018
浅田さんと田島さんは
以前世界堂のイベントでお見かけしたことがありますが
上條さんと村田さんはこの日完全に初めてのご尊顔。
見た目すら写真でも見たことなかったです。
space caimanへ足を運ぶのは前年度の浅田弘幸展以来二度目。
少々解り辛い場所にあるが今回は長蛇の列が出来ていたので
簡単に見つけることが出来た。
実際この日3回ほどあったサイン会は落選したので
競争率は高かったように思う。
逆に言えば、この飲み会の方が”ダメ元”だったので、
届いた当選メールを疑わずにはいられなかった。
受付で名前を伝えて入場できてようやく一安心。
ドレスコードは?資格は?条件は!?とそれまでびくびく。
というのも、アルコール一瓶とおつまみ付きでこのお値段という事は
せいぜい入場料は映画を見るより安い金額となる。
え、サイン会洩れたから画集買えてないんですけどいいんですか!?
と疑いたくなるほどの値段だったのである。
おおよそ広くない空間に80余人が詰め込まれトークショー開催。
一番キャリアのある上條先生が場を回す事に違和感がある。
こういうのって後輩がやらされるものではないのだろうか。
いや、通称”敦士の部屋”だからこれでいいのか。
早速村田へ”12年ぶり”の画集発売であることに突っ込みが入る。
ことあるごとに編集につつかれながらようやく漕ぎ着けたこの画集は
ほんとについ先日まで作業してたとの事。
いつも豪華版を出してから廉価版を出していたのに
今回は[-standard edition-]が先なのもそれに関係してそうだ。
ここで編集の愚痴タイム(笑)が始まる。
そもそも本日あったサイン会に村田が寝坊で遅刻。
おまけにサイフを部屋に忘れてタクシー代を立て替えてもらうという
散々な始まり。
「つまり今は一文無しなの?」と上條の一言で場内爆笑。
うん、笑いごとじゃないけどね!
サイン会が無事好評のうちに終って良かった。
ついでに大友克洋トリビュートでの裏話も暴露。
江口寿史氏よりも人を待たせた男として紹介された。
そんな村田は若き才能を伸ばす授業を行使する立場にもある。
仕事も絶えないだろうしその多忙っぷりが垣間見えた瞬間だ。
上條もそれを分かっていて、
「寺田(克也)くんと2台巨頭だよね」と画力に対して太鼓判を押す。
さぞや嬉しかろう、と思いきや
「ほんとやめてください!」と芸人の様な返しをするかわいい一面も。
「あの人はほんと化け物」と
いつのまにか4人がそこにいない寺田氏を褒めちぎる会と相成った。
上條が村田の画集に見入って進行が止まりかけたところで
自然な流れで質問コーナーへ。
村田のデザインへ関心が及び、
特別好きなもの参考にしてるものは昔から変わらない、とのこと。
(ボクス?とかボックス?という名詞がでたが詳細は分からない。
申し訳ない。)
あのレトロな各種パーツはそれに準ずるものである。
フェチズムを聞かれると腰回りから太ももの肉付きのいいライン、
要はお尻。
これには他の3人も同意。
確かに彼の描く美少女は後ろ向きが多いし、割とむっちりめに描かれる。
下腹部や腹筋を書き込む絵師は多いが
脊柱起立背筋や胸腰筋膜周辺をこんなに肉厚にしかも魅力的に描く者は
実はそんなに多くは無い。(単純に難しい)
ただ、あくまでメカや小物をデザインするのと
基本的には変わらないとのことで
情熱の偏りが生じてるわけではないし、
それは恐らくファンにも伝わっているだろう。
浅田にはデジタルへの移行についての質問が。
独特のフィルターによりアナログとの明確な差異をつけているが
それは手描きじゃ絶対できないことを見つけられて
楽しんでいるかららしい。
【テガミバチ】といえば紫を基調とした色合いを想起してしまうだろう。
作品を印象付ける目的ももちろんあったが
印刷の際もっとも思い通りにいかないことが多い色で遊べる事が
大きいという。
(もっとも、それは直前の【PEZ】で確立した手法だろうが。)
それに伴い村田はというと
コピックからデジタルへ移行した境が分からないほど
スムーズに馴染んでいるという話に。
確かに写真でも加工したんじゃないかというくらい写実的な着彩を
アナログの時から確立してした彼。
さぞかし念入りに調整し見極めて移行したのかと思いきや
「画材を一式大阪に忘れてしまったから」という
とんでもない事故がきっかけだったらしい。
それで仕事をこなせるんだからさすがっス!
筆を選ばない多彩っぷりと同時に
図らずもまた彼のおっちょこちょいな部分が明かされてしまった。
そんな中、田島へ飛んだ質問は
「それぞれの第一印象は?」とふつおたっぽい内容。
「俺だけそんな?」と笑うと
上條のスケボー+短パン姿にヒいたエピソードを披露。
「やべ、ヤブヘビだった」と苦笑する上條は
まさしくそんな面影が垣間見える表情をしていた。
ここで思ったのは、浅田の空気の読みっぷりである。
別の座談会(音楽関係)ではがっつり回し訳になっていたのに、
ここでは聞き役に徹していて
かといって相槌は忘れず時折フォローしたり追撃したりする。
先輩にも後輩にも好かれる理由がここで発見できた気がする。
上條と浅田の「今日俺たち散々しゃべったからさ」
の言葉を真に受けたかどうかは定かじゃないが、
この日最も場を温めたのは間違いなく田島であろう。
担当との確執やら雪道の危険すぎる奮闘記とか
身内との気の置けないやり取りやら
ここに書いていいかどうか憚れる内容も含めて笑わせてくれた。
3人とも自分の話をしつつ村田へ繋ぐ自然なチームワークで
ほんとに仲がいいんだなぁと和ませてくれる飲み会。
途中休憩もはさんでおおよそ2時間以上に及ぶトークショーに
入場者全員に行き渡るほどのお土産の大盤振る舞い、と
満足度としては申し分なかったと言わざるを得ない。
4人の中では村田だけ比較的付き合いが短いだろうが
最後4人でなんかやろうぜの声に出版社側が快く返事をした!?
もしかしたらAKTMとしてなにかが動きだしそうな未来を提示して
最高の余韻のままそろそろお開きの時間に。
最後の最後で3人から村田へケーキと花束がサプライズで手渡され
壁一面に飾られた村田のイラストの少女に負けないくらいの
参加者全員の笑顔で包まれたspace caimanでの一幕。
仲の良い同業者がしゃべってるのを聞くのはほんとに楽しいですね。
そう実感した一日でした。
くっそ、購入するのは[廉価版]で十分かなと思ってたけど
最後の話聴いてたら
後日発売の[豪華版]も欲しくなってしまったじゃないか!
まんまとこの座談会が開かれた意義みたいなものに打ちひしがれながら
ほろよいで帰路へ突きましたとさ。
~終わり~
"AKT"とは
Asada Hiroyuki(浅田弘幸)
Kamijo Atsushi(上條淳士)
Tajima Shouu(田島昭宇)
の略で、何かにつけ集まってしゃべる作家仲間の呼称である。
今回は3人ともに仲のいい村田蓮爾をお祝いするために
お店を貸し切ってお客さんも入れて盛り立てようと発起した
優しさに満ちた集会なのだ。
上條淳士とは
代表作は【SEX】や【TO-Y】。いわゆるこの集いのボス。
浅田と田島の絵柄に大きな影響を与え、自ら発起人となって二人と
それ以外の人も巻き込んでいろいろ企画する
プランナーとしても名を馳せる。
それに見合うだけの人柄と茶目っ気さで彼を慕うものは後を絶たない。
行きつけだったバーのマスターが常にお店に彼のイラストを貼りだしてたり
浅田や田島のインタビューでも必ず名前が上がるので、
実は超気になる存在である。
……つまり、ほんとは、正直に言うと、実はよく知らな
田島昭宇とは
どぎつい照明を当てたようなコントラストの強い線画が特徴。
というかそのあたりが上條リスペクトだと思われる。
かと思えばカラーは淡い一辺倒。
濃淡を極力抑えて透明感と狂気という
少しでも触れてしまえば劇的に変化してしまう
そんな二つの要素を極めた非常に繊細な技法といえるだろう。
【多重人格探偵サイコ】や【MADARA】関連のイラストは
作品性から過激な表現になっていると思いきや
これら原作付きの作品よりも
オリジナル作品のほうが嗜虐的な要素と悪魔崇拝的な雰囲気が強く
あ、この人はたぶんほんとに狂ってる……
と思ったのが好きになたきっかけだ。
裸体を描いても煽情さより先に
芸術的な印象を抱かせるセンスが素晴らしい。
村田蓮爾とは
【ラストエグザイル】【ID-0】等のアニメキャラのデザインや
ありとあらゆる雑誌やムックの表紙を強める日本を代表する女の子描き。
国外の方で国内以上の評価を受けている絵師でもある。
とにかく画力が高すぎてキャラの顔の部分を手で隠せば実写と見紛うほど
光と影の濃淡が自在で再現度が高い。
その髄を尽くして幼女とメカとおっさんを描き
そのどれもが”どうしてのその角度から描こうと思ったの!?”という
かなり独特の構図とデザインで、
しかもめちゃくちゃ可愛く描くのだから恐れ入る。
しかも芸術にありがちな分かりにくさは微塵もなく
小物やパーツにスタイリッシュなデザインを仕込むから
万人受けもしやすいのが武器。
フェチズム的な意味でも訴求力が高く
おおよそ薄い胸板と肉付きのいい腰回り~太ももを強調するキャラが多い。
こうして女性キャラは幼子ばかりなのに対して
男性は青年というより、むしろ壮年を描いてるイメージが有る。
彼の絵を見るたびに思うのは、”この人は画力を持て余している”……。
コピックからデジタル塗りになっても
少しも境界が生じない転換がそれを物語る。
浅田弘幸とは
個人的には彼の影響はかなり強い。
そりゃあ多感な中学生期に一番ハマった漫画家さんであるので
当然かもしれないが
彼があとがきで「ブランキーが好き」「ミッシェルが好き」と言えば
レンタル屋に走ったし
ケルトアンドコブラをモチーフにしたら
探してその値段に愕然として肩を落としたり
当時は彼の描く漫画の登場人物になりたくてしょうがなかった。
そして漫画家としては珍しく顔出しについての抵抗はないらしく
YouTubeにはストレイテナーのメンバー(大山純)擁する番組に
ゲストで出演している動画が今でも残っている。
このトークがまた面白い!というか興味深い!
今後も彼の音楽遍歴を覗きながら漫画を読みたい、
そう思わせてくれる魅力を持った人物である。
彼は浅井健一に対して「生き方がかっこいい」と言って憚らないが
自分にとってはまさに浅田弘幸に抱く感情がそれである。
何を隠そう、この座談会の前に
吉祥寺にて浅田弘幸と上條淳士のトークイベントがあるからと
そちらへも足を運んでしまったのだ。
おまけ:HMV KICHIRECO vol.1、プチレポ
キチレコ×HMV 上條淳士×浅田弘幸×谷澤智文 トークショーは
基本的に上條が回すが、3人とも発言数は平等で楽しませようという雰囲気に満ちていた空間で、中でも
レコードサイズの絵って飾りたくなるよね、からの
上條から浅田へ「描きたいですよね?」からの
浅田「やらせて頂けるなら光栄ですね」からの
谷澤「じゃあうちのジャケット描いてください」の
鮮やかなキラーパスが決まり、忖度ベッタベタのやり取りが印象的だった。(※すぐに「なんて言えるわけじゃないですか!」って言ってましたが)
初めて買ったレコードは?という質問には、
満場一致でサントラが良いよねという話になり
浅田のみサントラとアニソンと歌謡曲で迷い、結局歌謡曲を選んだらしい。
谷澤だけレコードではなくもうCDだったので年代が違うが
録音の際ボタン二つ同時推しで苦労したにもかかわらず
親の声等が入って台無しになるダビングあるあるに
会場の誰もが頷く平均年齢の高い現場だったことは確かだ。
(もしかしたら観覧車含め
その場にいる人物で谷澤が一番若かったかもしれない。)
カラオケも自分からは行かないが誘われたら喜んで歌うそう。
上條曰く「浅田くんは上手い」。
浅田はギターも弾くので、
ギタリストは歌が上手い説を自分も推奨したいと思っている。
チレコというモノの存在は今まで知らなかったが
作家同士が集まって何かやろうという企画に参加しまくる
上條・浅田のポリシー的なものが
ここで垣間見れたかもしれないですね。
Afterword -DAYS20220327-
ちょっと仕事が長引いて帰りが遅くなろ
改めて文章を書く時間がなかったので
過去のコラム記事というかレポートを引っ張ってきました。
もともと全3回で書いたものを一つにし編集してあるので長文御免。
あと当時の写真も見つからなかったので残念。
まぁでも漫画家同志が仲良く喋ってる姿はとても愛おしかったです。
次回の更新は3/29(火)、
月一回のアニソン作曲家紹介になります。
よしなに。
この記事が参加している募集
最後まで長文お読みいただき誠にありがとうございました。 つっこみどころを残してあるはずなので 些細なことでもコメント残してくれると嬉しいです!