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さユりの歌に勇気づけられていた人は多いはずだ
本日、さユりさんの訃報が公表されました。
さユりに関するお知らせ pic.twitter.com/nmFo9YHUgJ
— 酸欠少女 さユり (@taltalasuka) September 27, 2024
心より平安をお祈りいたします。
さユりの紡ぐ歌詞は刹那的
「酸欠少女」という冠が着く彼女の活動。
”酸欠世代”というのがよく分からない表現ではあるのだが
どこか生きづらいという感情を表したような言葉ではないだろうか。
部屋を暗くしてベッドにうつ伏せになって浅い呼吸で聴くのが適してるようなそんな世界観。
劣等感と共感性、不完全な故の調律、それらを内包した言葉選びは
鬱屈した日常から抜け出したいような観念とそれに相反した希望への渇望。
彼女の紡ぐ歌詞にはそんな葛藤が詰まっているように感じていた。
歌声も特徴的だ。
喉に引っかかりがありまるで爪弾かれたように弾かれる強い発声。
甲高く耳朶を叩いてくるので妙に耳に残る。
アニメとの親和性も高かった。
CDジャケットやミュージックビデオではイラストも併用しており
二次元と三次元を行き来する2.5次元パラレルアーティストと自称。
自身を投影していると公言しつつも
アニメにも違和感のない形で歌詞を提供しておりアニメファンにも受け入れられている印象だった。そこが表現の秀逸な面である。
人生を歌うため必ずしもポジティブを歌っているわけではないのに
最終的には希望の歌のように視聴後感が残るのはそのためだ。
それが唯一無二の個性として私には映る。
もっと彼女の歌が聴きたかった。
もっと彼女が紡ぐ世界観を見たかった。
そう思う人が多いというのが、この訃報への反応の数である。
人生を歌っているからなのか、
恋愛・結婚を経て明るい曲が増えていたことは事実だ。
そんな中で病気で歌えなくなったのは途方もない絶望だったかもしれない。
誰もが復帰する時を待っていた。
その苦難を乗り越えた彼女が何を歌うのか。
きっとさらに深い死生観が滲んだ楽曲が生まれたであろう。
そんな楽曲が聴きたかった。
あまりにも若すぎる逝去。
天国ではそんな病気なんてなかったかのように
生き生きと歌っていることを願いたい。
音楽は消えない
ミカヅキ
【乱歩奇譚 Game of Laplace】エンディングテーマ。
衝撃のデビュー作。
当時このアニメは見てなかったんですが有線で聴いて一発で惚れました。
まずこの振り絞る様な歌声に惹かれて。
歌詞も劣等感を抱えつつ希望にすがる悲壮感が凝縮しており
月と蝶という美しいモノへの渇望が痛いほどに共感を呼ぶ傑作。
10代ならではの表現が切なくも痛いほどに突き刺さる一曲です。
それは小さな光のような
【僕だけがいない街】エンディングテーマ。
梶浦由記提供曲。
シンガーソングライターにとって楽曲提供を受けるというのはどういう心境だったのでしょうか。
MVでマリオネットの表現があるのが意味深です。
ただ制作側がさユりを起用したいと考えるのも納得の光と影の表現。
彼女の持つ不安定さとこのアニメから香る歪さが実に合致した解釈なのは間違いないです。名曲。
アノニマス
【消滅都市】コラボソング。
RADWINPSの野田洋次郎が提供した表題曲が話題になったとは思いますが
個人的にはあまり好みではなくカップリングのこちらばかり聴いてました。
自己肯定感の希薄な自分と不安定な世界に挑む儚い終末観。
MV的にも歌詞的にも『ミカヅキ』との親和性を感じます。
さユりはこういう問いかける・訴える系の表現が非常に似合ってますよね。
弾き語りのシルエットも相俟って。
平行線
【クズの本懐】エンディングテーマ。
かなりセンシティブな恋愛群像劇のタイアップということで
緊張感のある楽曲を作成したさユり。
ともすればバトルアニメにも使えそうな曲調です。
「平行線で交わろう」という矛盾した表現が作品に合っていて面白い。
MVにも表れている通り、かなりタイアップを意識した、
というよりタイアップに沿う楽曲にも慣れてきたと言った感じでしょうか。
月と花束
【Fate/EXTRA Last Encore】エンディングテーマ
実にアニソンらしいファンタジックな一曲。
人生を歌うシンガーソングライターなのにこんなにもアニメに寄せられるものかと彼女のポテンシャルが上がってると感じた楽曲です。かっこいい!
歌詞も毅然としていて作品に似合っています。
才能もあると思うけど努力を感じる過渡期といった具合。
レイメイ
【ゴールデンカムイ】オープニング。
MY FIRST STORYとのコラボ曲。しかもちゃんと共作ですよ。
マイファスが編曲・演奏してるので髄一のロック曲。
その曲調にこの歌声がまた似合ってんだ。
間奏のポエトリ―リーディングが効果的で最後歌声が重なる部分が鳥肌もの。
異色のコラボなのにこの熱量のぶつかり合いが気持ちいい一曲です。
航海の唄
【僕のヒーローアカデミア】エンディングテーマ。
もうここまで来ると立派なアニソンメイカーと言っても過言でないくらいの安定感です。スリリングでかっこいい。
それでもカップリングに必ず弾き語りを入れてくる辺りこだわりがあって好感ですよね。
歌詞が前向きなものが多くなったのはタイアップに駆られてなのか心境の変化なのか……いずれにせよメジャーデビュー以降の進化を私は好意的に捉えていました。
葵橋
【イエスタデイをうたって】エンディングテーマ。
大好きな漫画に起用されて嬉しかったです。
今更アニメ化したことには驚きましたが。
編曲もおとなしくデビュー以前からの雰囲気を感じる一曲ですね。
彼女の根本は変わってないのだと謎の安心感があります。
歌詞はしっかりと作品に寄り添ってる気がしますね。
世界の秘密
【EDENS ZERO】エンディングテーマ。
これはアニメの内容というよりはさユり節を感じる楽曲ですね。
バラードだからかもしれませんが。
ただ心なしか大人になったさユりと言った感じがして
デビュー当時のような危うさは薄くなってる気がします。
家入レオも同じように緩やかな変化をしているので
これが女性シンガーソングライターの自然な流れなのかもしれません。
花の塔
【リコリス・リコイル】エンディングテーマ。
大ヒットアニメにもこうして関わってきました。
順調に知名度を上げてきたな、と
まさに言える器用だったんじゃないでしょうか。
思えばこんなにアニソンタイアップが多かったのは不思議な現象です。
アコースティック路上弾き語りから始まったこの活動から見ても
普通ならJ-pop的な展開を見せていきそうなものなのに。
とくに内省的な歌詞を特徴としているので、
一見アニソンとは相性が悪いように思えます。
もちろん売り出すためのタイアップ構成というものはありますが、
なんとなくレコード会社の意向というよりは
アニメ制作サイドからのオファーな気もします。
それでも彼女を「アニソンシンガー」と呼ぶのには抵抗があるんですよね。
おそらくそれは歌詞表現にある気もしてますが。
彼女の歌詞は、自己肯定感が低いんですよね。
なんだか常に足掻いてる。
それが若者の胸を打っていることは想像に難くないんですが。
ともあれ、個人的にはこんなにアニソンを歌ってくれてありがとうという感情しかないのに変わりはありません。
表現したいこととオファー・要望の釣り合いは難しかったかもしれませんが
ちゃんとアニメファンにも受け入れられていたと感じています。
純粋なさユりふぁんは元より、
アニメタイアップを担ったことにより、
より強く記憶に残る存在となってしまった事実。
今回の訃報は本当に悲しい出来事ですが
これからも、彼女の歌は語り継がれていくことでしょう。
Afterword
享年28。
余りにも若すぎる逝去に、ただ引退しただけなんじゃないの?とか冗談かとさえ思ってしまうんですが
無理やり希望を見出すとしたら、「酸欠少女」という、
自らの表題曲をしっかりと形に残せたことでしょうか。
デビュー曲にもできたであろうこの表題曲。
最新アルバムにて満を持してしかもMV付きでこの楽曲が世に残って本当に良かったと思っています。
今年7月に歌えなくなって活動休止した際はどれだけ悔しかったろう。
結婚を期に、幸せな曲が増えてく未来を見たかったですね。
大好きなアーティストの一人でした。
重ねて、謹んでお悔やみを申し上げます。
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