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俺たちのフィールドのこと
1998年フランスワールドカップに日本代表は初出場。
アメリカ大会予選において今も語り継がれる「ドーハの悲劇」を味わい、次回2002年の母国開催を控えていた日本サッカー界は歓喜に沸くと同時に金でW杯を買ったといわれずに済んだことに胸を撫で下ろした。
1993年Jリーグ開幕からの熱狂的なサッカーブームは、今にして思えばバブル終焉と共に下降線に入った経済を忘れるための狂った祭りのようでもあった。
その時代を小学校低学年の子供として過ごした僕は、素直にサッカー熱に浮かされ、地上波のゴールデンタイムに放送されていたJリーグの試合を熱心に観ていた。ヴェルディの帽子やスパイクを模した靴を履き、日本代表のユニフォーム柄のシャツを着て学校に通った。
実際に地域のサッカークラブにも入ったが麻疹に罹ったことで練習を休んだ後、行きづらくなってすぐに辞めてしまった。
それでも当時の熱は燻ったまま自分の内側にあって、今でもヴェルディのファンだし、16年ぶりにJ1を戦うクラブを応援している。
『俺たちのフィールド』について
サッカー熱が猛威を振るおうとしていた1992年、ひとつの漫画が『少年サンデー』で連載を開始した。
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現在は『新 仮面ライダーSPIRITS』で知られる村枝賢一先生による『俺たちのフィールド』略して「俺フィー」である。
サッカー選手だった父親に憧れる主人公が少年サッカー、高校サッカー、アルゼンチン留学、プロサッカー、日本代表と活躍の場を広げて成長していく作品。作品中盤からのプロサッカー選手としての活躍を描いた内容は、1993年のJリーグ開幕やドーハの悲劇、ワールドカップ・フランス大会出場などの、現実の日本サッカー界の流れとリンクした作品内容となっている。
正直に言うと、連載開始当初はまだ子供過ぎて読んでいなかった。
「俺フィー」の凄さに気づくのはだいぶ遅かった方で大体96~97年頃だった。Jリーグ開幕から数年経ち、物語の舞台がJリーグに移った頃にようやく知った。僕個人は当時『SLAM DUNK』にはまってバスケに熱中していたが、親戚の家に転がっていた「俺フィー」の単行本を偶然読んだことでサッカーへの思いも再燃した。
時代の空気に面白いほど左右される子供時代だったから、Jリーグバブルが終息してからはクラブも辞めていたしサッカーからは少し遠ざかっていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1713501812410-nKDPOz839M.jpg?width=1200)
Jリーグによるグラフ通りの動向を示していてちょっと恥ずかしい。
魅力
「俺フィー」には、幼少期から読んでいた『キャプテン翼』とは一味違ったリアリティーがあった。
それというのもJリーグ開幕からフランスW杯まで、ほとんどリアルタイムと同時に進行していく物語の推進力があったからだろう。
主人公・高杉和也が所属するバンディッツ東京(ヤマキ自工)はジュビロ磐田(ヤマハ発動機)がモデルだったし、ゴン中山こと中山雅史が出演していたヤマハJOGのCMのパロディシーンが作中にあったりした。子供には縁遠かった親会社と福利厚生としてのサッカーチームの描写など、読みごたえがあった。
そうかと思えば三浦知良と中山雅史を合わせたような伊武剣輔というキャラクター率いる若手主体の「リザーブ・ドッグス」というB代表チームを編成して修行させ、A代表にぶつけるという漫画ならではの展開で物語を盛り上げ、話が代表を中心に描かれるようになると、当時のアジアのライバルたち(韓国のホン・ミョンボ、イランのアリ・ダエイなど)を模した敵が登場し主人公たちと壮絶な戦いを繰り広げ、最終的にリアルと同じく日本代表は見事W杯出場を掴み取る。国によって気候などの環境条件が違うというのもリアルで新鮮だった。
このように『俺たちのフィールド』という漫画は、まだ一度もW杯の舞台に立ったことがない当時のリアリティー最前線でありながら漫画ならでは面白さを盛り込んだ素晴らしいサッカー漫画だった。
更に
主人公・高杉和也の小学生時代から始まり大人なってサッカー選手としても人間としても成長していくというビルドゥングスロマンでありながら、どこかに漂う抒情性も魅力だった。
なかでも僕が好きなシーンが、和也たちが家で食事をしながら94年アメリカW杯予選を観ているシーンだ。和也の幼馴染で後に妻になる愛子が席を立ち台所のコンロに火をつけた瞬間、日本が失点するというもの。
子供ながらに当時の空気を覚えていた僕は、あの弛緩した一瞬とその後の絶望が濃厚に香り、ドーハの悲劇をこんなふうに描いていたのかと後追いで読んでとても驚いた。
最後に
ニークやダミアンなど魅力的な登場人物も多く、アルゼンチン留学編など、好きなキャラクターや場面を挙げればきりがない。物語全体を通し漂う昭和の匂いも今になってみると魅力だ。
海外、特にヨーロッパの主要リーグで活躍する選手が増えて、海外組だけで代表を組むことも可能な現代とは違い、まだ見ぬ世界に向けて泥臭く前進を続けていた当時の日本サッカーと軌を一にするかのように物語を進めた稀有な漫画である『俺たちのフィールド』を僕は忘れられない。