大学生と地域でつくるグラスルーツのかたち:その3
僕が大学1年生から7年間過ごしたつくばでは、伝統的に筑波大学蹴球部(サッカー部)と女子サッカー部が地域のサッカー少年団と密に関わっています。
前回の「その2」では、日々の少年団での活動とあわせて開催している、イベントやクリニックについてご紹介しました。
今回は、このような活動を展開していくうえで僕らが心掛けていたことや、統括する立場だった僕自身が大切にしていたことをお話しようと思います!
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自分たちならではのことをしよう
各地の少年サッカーで課題になっているかと思いますが、
最近の子どもたち、忙しい子が多いです。
平日1~2回と土日のサッカーに、平日は塾や習い事がびっしり。もちろん学校行事もたくさん。
それなのに、少年サッカー界はとにかく試合の数が多い印象。徐々に浸透してきたリーグ戦があっても、○○杯とか○○大会とか、週末を丸ごと使うような試合が度々開催されています。
まさに過密スケジュール。
僕らが活動するつくば市も例外ではありません
だから、僕たちが何かイベントを開催するというのはその過密スケジュールを助長している可能性があります。それについては、「何もしない」というのが根本的な解決になるのかもしれません。
しかし子供たちによりよい活動を、と大学生はイベントや大会を考えてくれているし、僕も彼らが考える素晴らしい取り組みは一緒にやっていきたい。
そこで重要になってくるのが、それが「自分たちならではのこと」かどうかです。
ここでいう「自分たち」とは、「筑波大学の学生であり、現役の選手である自分たち」こと。
県や市のサッカー協会ですでに行っていることやできそうなことを僕らがさらにやっても、それこそ子供たちのスケジュールを圧迫するだけで、価値は高くなりません。
そうではなくて、この地域で自分たちにしかできないこと、自分たちだからことできることをしていこうと考えています。
例えば、大会を開催するときに特別ルールを採用したことがありました。これには「ゴール前のシーンを増やしたい」「ゴールキックがピンチになる状況をなくしたい」「後ろからパスを繋いでいくことを学ばせたい」という意図があって、参加するチームの学生コーチ同士で事前に打ち合わせをすることで、特別ルールをうまく活用できました。
例えば、低学年向けのフェスティバルも大勢の子供たちと一緒に遊ぶには多くの人手が必要となります。準備にも打ち合わせを重ねたり時間がかかったりします。
でも大学のサッカー部である「自分たち」なら可能です。
そしてこのイベントは主に大学1年生の学生にアトラクションの準備と当日の運営をしてもらっていて、つくばに来て子供たちと最初の出会う場であったり、学年としてのチームビルディングの機会としても機能しているように思います。
▼これからプロになるような選手と一緒にサッカーをするのも、僕らだからできることです。
特に、「つくばGKスクール」と「つくばなでしこクラス」はこの点で価値が大きいと思っています。
GKスクールもなでしこクラスも、GKや女子の現役選手がこれだけ大勢指導にあたれるということはなかなかありません。
「大学サッカー部」という人的リソースや施設環境、そして大学生本人たちのモチベーションがあって、自分たちにしかできないことで地域のニーズに応えることができています。
クラブを越えた繋がりを生む
筑波大学のグランドでイベントをするときは、複数の少年団から子供たちが集まります。そのイベントを通して、子供たちがサッカー仲間をたくさん作れるように仕掛けを作っていきたいと思っています。
例えば、イベント中に一緒に活動するメンバーを縦割りにして複数のクラブの子どもたちを一つのチームにしたり、隣の人と手を繋いだり協力することが必要なルールにしたり。誰であってもサッカーを一緒に楽しむ「仲間」になれることが子供たちに伝われば嬉しいですね。
GKスクールやなでしこクラスでは特に、コミュニティの構築を意識しています。参加する子供たちは何かしらの意思をもってそこに集っているので気が合いますし、そんな子供たちがお互いに「仲間」になれるような活動やアプローチを学生コーチたちにはお願いしていきたいです。
(この点において、僕自身は保護者同士のコミュニケーションをどう発生させるかを考えながら動くことが多かったです。)
そうやって、サッカーを通じて仲間が増える経験を子供たちに得てもらいたいと願っています。
「あなた」が楽しいことが、なにより大切
僕がこれらの活動を通して最も大切にしていることです。
各少年団には学生コーチを束ねている「ヘッドコーチ」という代表職があります。またイベントや大会、クリニックを行う時もその中心となる学生がいます。
僕は普及活動の全体を統括する立場として、そういったマネージャー層になるメンバーと直接関わることが多かったのですが、その時に「自分たちが楽しむこと」を強く意識していたし、彼らにもその視点を持ってもらいたいなと思って伝えてきました。
正直な話、僕はこの立場にあって、「そのイベントを子供たちが楽しんでいるかどうか」にはあまり関心を向けませんでした。「少年団での活動を子どもたちが楽しんでいるか」も然りです。
僕が気になっていたのは、活動の中心となって動いてくれる「あなた」が充実した気持ちになっているか。それが一番でした。
もちろん「子どもたちのため」って大切で素敵なことです。
でも僕がそれを言って、リーダーの彼らにああしろこうしろと指示をするのは、彼らに必要以上にストレスがかかる可能性があります。
どんな取り組みやイベントでもそうですが、主催側がいい表情をできていないのにそれが最高のものになるわけがないと思っています。
そしてそんな空気を、参加する子供たちは敏感に感じ取っていたりします。
僕が心掛けていたのは、リーダーになる学生たちの「やりたい」を尊重して、彼らが「楽しい!」「これは最高だ!」と自信をもって言えるようになっているかどうか、それに気を配り続けることです。
そして、そのリーダーたちには「子どもたちよりも協力してくれる仲間の表情を気にしてほしい」と伝えていました。僕がリーダーたちに向けている目と同じものを仲間に向けてほしいと。
そして、その協力してくれる運営メンバーが、子供たちの笑顔を引き出すことに喜びを感じれるよう「うまくスイッチを入れよう」と。
それが上手くいくと、誰にも無理がかからないのです。
運営側の学生も含めて、「楽しい」の総和が大きくなる。
その先にあるのは「活動継続の意思」であり、「細やかな引継ぎ」です。
自分がやっていて楽しかったから、学びがあったから、「続けていきたい」「後輩にも継承してもらいたい」という思いが生まれて、後輩たちにしっかりと引き継いでいってくれる。
僕らは学生組織なので人の入れ替わりが激しく、だからこそ「引継ぎ」をどれだけの想いをもってできるかが、未来に大きく関わります。
だから、まずは「あなた」が誰よりも全力楽しむことを大学生たちにお願いしてきました。自分が全力で楽しんでいたら周りの仲間も子供たちも一緒に楽しんでくれるものです。
「自走」を目指す
各イベントの反省会や少年団のヘッドコーチが集まる月1回の定例ミーティングもそうですし、
GKスクールやなでしこクラスが終わった後にその日の反省会を熱心にする大学生たちをみていると、この先もしばらくは安泰だなあと感じます。
▲GKスクールではコーチ発案で、中学生クラスでの練習映像の撮影・配信も始めました。
自分たちが望んでコトを起こし、だからこそ改善に前向きで次のアクションを起こせる。そしてその姿勢が継承されていく。
ここ数年でまた一段と、まさに取り組み自体が「自走」する状態に近づいてきました。
なんであっても、地域での活動はその時だけうまくいけばいいビッグイベント的な発想ではなく、環境や取り組みが「継続されていくこと」「持続すること」「持続可能であること」が重要だと思っています。
一過性のイベントではなく、
僕らがつくりたいのは「日常」なのです。
特別な出来事ではなくて、それが関わる子どもたちや家族、大学生の生活になじむこと。そのためには、無理がなくて、楽しくて、またやりたくて、もっと良くしたくなる。そんな前向きな気持ちを育んで、誰に言われるまでもなく、自分たちで前に進んでいける「自走」の状態を作っていきたいと思ってきました。
これからも思いを繋ぎながら前に進んでいく、筑波の大学生がつくるグラスルーツの光景が、より多くの人の「日常」と結びついていけば嬉しいです。
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ここまで続けて読んでくださった皆様、ありがとうございます。
この春で筑波大を去る僕がこのnoteを書く必要を感じていました。
「ほかの地域の参考になればいいな」ということももちろんあるんですが、
一番は、いつかこれを読んだ後輩がこの想いを継承してくれるかもしれないなと思っています。
繰り返しますが、一番大事なのは「持続可能であること」で、学生組織である僕らにとって大きな課題でもあります。
だからこそ、「想い」を語って、ちゃんと引き継いでいくことが大事だと思ってきました。
それが少しでも伝えわればいいなと思っています。
さて、
「大学生と地域でつくるグラスルーツのかたち」と題して筑波大学蹴球部・女子サッカー部の普及活動について、ざっくりと全貌を紹介できたかと思います。
一旦ここで一区切りしますが、つくばのグラスルーツの現場で感じたことをまた小出しに書いていこうと思うので、
またどうぞよろしくお願いします。
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