わたしの映画日記(2022年4月9日〜4月15日)
4/9
『It Felt Like Love』 Eliza Hittman 2013年 アメリカ(MUBI)
主人公は14歳の少女。母を早くに亡くし、父と小学生の弟との3人ぐらし。彼女は2歳年上の親友とそのボーイフレンドのデートにいつも付き添っている。いちゃつく二人を羨ましそうに見ていたある日、”誰とでも寝る”と評判の青年が目の前に現れる。青年のバイト先に押しかけてなんとか仲良くなろうとするが相手にされない。手を変え品を変え接近を試みた末に青年と二人の友達がたむろする部屋にたどり着く。強がる少女を前に友達たちは”自分の相手をしろ”と迫る。果たして少女は男たちと寝てしまうのか?実際の行為に及んだのか明確には映し出されぬまま、帰りのバスに乗る少女が映し出される。
リベラルで性にオープンというよりは、早熟な周囲の若者たちにほだされてよくわからぬまま性に憧れる少女が痛々しく描かれている。別の国や地域に舞台を移したとしても似たような少年・少女はきっと存在していると思う。
4/10
『アクターズ・ショート・フィルム2』 青柳翔、玉城ティナ、千葉雄大、永山瑛太、前田敦子 2022年(シネモンドにて上映)
5人の俳優が撮られる側から撮る側へ。WOWOWが今をときめく俳優陣と立ち上げたプロジェクトの第二弾。ラインナップは以下の通り。
すぐになんの話を描いているのかわかるものもあれば、一度見ただけでは「ちょっと何言ってるのかわからないです…」と思ってしまう物語まで個性的な5作品が並ぶ。
特に印象的だったのは千葉雄大が手掛けた『あんた』。寂しげなバーのマスターが忘れられない女性について回想する。友達以上、恋人以上、家族未満の伊藤沙莉と千葉雄大がキャンプにやってくる。お互いの恋愛事情からシモの話まで明け透けに話せるお似合いのカップル。まして未婚の男女が二人きりでキャンプにやってくるのだから結婚するに違いないと思わせる。別の日に再びキャンプにやってくると、伊藤沙莉は年上の彼氏ができたことを告白する。千葉雄大はいつまでも続くと思っていた二人の関係が終わることに同様を隠しきれない。お互いに”あんた”と呼び合っていた懐かしい日々を思い出し、年を重ねた想像の”あんた”とハグして物語は終わる。
『ボクたちはみんな大人になれなかった』『ちょっと思い出しただけ』に続く忘れられない伊藤沙莉の傑作と言えるだろう。劇中の伊藤沙莉は年上の中年男と交際をスタートさせるのだが、まさかこの映画を観た数日後にこれが現実となるとは…
4/11
『日本無責任時代』 吉澤賢吾 1962年 日本(U-NEXT)
無職の男が天才的なハッタリを武器に洋酒会社に潜り込む。買収騒ぎやに労働組合の結成などの事件をいとも簡単に解決していく。最後にはクビを切られるがそれでも顔色ひとつ変えない。大出世して再び登場する。植木等演じる主人公の名前が平均(たいらひとし)であることは有名だが、実際に映画を見ると平均どころか人間力MAX。クレージーキャッツの面々が周りを固めているので、本来なら緊張感のある場面も絶妙な温度感。観れば観るほど面白さが増す作品だと思う。
4/12
『乒乓(ピンパン)』 田中羊一 2016年 日本
卓球場で黙々と練習に打ち込む女性が主人公。卓球場オーナーからの試合の誘いを拒み、職場ではセクハラに耐え続ける。ある夜、資材置き場から資材を盗み出すカップルを目撃する。別の日には同じカップルが近くに車を停めていちゃつく音が聞こえてくる。遂には卓球場にまで二人はやってくる。にぎやかな打ち合いを横目に、黙々と玉を打ち込む主人公が対照的。そして中国人女性からの「我想跟你打乒乓(あんたと卓球したい)」のひとことが今まで見たことのないような笑顔を生み出す。芹澤興人のセクハラにひたすら耐えていた主人公の人生に小さな変化が生まれる短編だった。
4/12
『The Chess Game of the Wind』 Mohamad-Ali Keshavarz 1976年 イラン(MUBI)
裕福な家長の死後に豪邸で繰り広げられる財産争い。家長の娘は体が不自由で車椅子生活。この家には二人の男が養子として迎え入れられている。男たちは自分こそが家長の娘と結婚すると意気込む。財産を奪われることを恐れた家長の娘はメイドと結託して傍若無人な養子のひとりを殺害する。全員が口裏を合わせて隠蔽を図るが捜査の手が及ぶ。そして「そもそも彼は死んだのか?」という疑惑が立ちあがり凄惨なラストにつながる。コーランの引用で始まる物語に明確なレズビアン描写。イランでただ一度限り観客の前で上映され革命後に上映禁止とされた作品の復元版。暗い場面があまりにも暗すぎて何が起きているのかわからなかったのが残念だった。
4/13
『France』 Bruno Dumont 2021年 フランス(The Criterion Channel)
レア・セドゥ演じるフランスを代表するニュースキャスター兼ジャーナリストが主人公。マクロン大統領を前にしても物怖じせずズケズケと質問する。街を歩けばすれ違う誰もが写真とサインを求める。しかし夫と幼い息子との家庭生活は冷めきっている。ある朝、息子を学校へ送り届ける道すがらに前方を走っていたバイクと接触する。大事に至らなかったが事故をきっかけに人生の歯車が狂っていく。
戦地取材でマグリブの兵士たちを演出したり、インタビューでは編集も考えて同じ質問を2度繰り返す。最初は被写体と自分自身のツーショット。次は質問している自分自身の顔のアップ。人生の絶頂とどん底を経験した彼女が最後に見せる笑顔が意味深だった。ジャーナリズムを皮肉を交えて描くのか、セレブリティ・キャスターの人生を描きたいのか。ちょっとフワフワしているのが気になった。
4/15
『偶然と想像』 濱口竜介 2021年 日本(The Criterion Channel)
遂にクライテリオン・チャンネルにて配信がスタート。英語字幕で視聴すると印象が少し違う。例えば第一部『魔法(よりもっと不確か)』では古川琴音が親友を”グミちゃん”と呼びかける。アクセントが”グミちゃん”の”ミ”に置かれていて、不思議な耳障りがある。これが字幕になるとシンプルに”Gumi”となる。女性二人の会話から伝わる独特な関係性がすっぽり抜け落ちてしまうのだ。
村上春樹の英訳を手掛けたことで知られるジェイ・ルービンは「翻訳は必要悪である」と語っている。彼は文学作品の翻訳について言っていたのだが、映画字幕にも同じことが言えるだろう。字幕なしで理解できるならそれにこしたことはない。とはいえ字幕なしで外国映画を楽しむのは簡単なことではない。かつてポン・ジュノがゴールデングローブ賞のステージで語った言葉もまた真実だ。「字幕という1インチの壁を越えれば、もっと多くの映画を楽しむことができる」字幕翻訳家も映画に欠かせない尊いお仕事だな。
番外編
深夜に眠れなくなり某動画サイトで『私立探偵 濱マイク』を観ていたら、永瀬正敏が事務所を構える映画館の上映作品がこれ。
ジム・ジャームッシュとアキ・カウリスマキ。在りし日の横浜日劇が渋すぎる。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?