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一期一会のアスリート/プロアスリートのセカンドキャリアを考える

INDEX
■プロアスリートとの別れ
■様々なプロアスリートのセカンドキャリア
■生え抜きプロアスリートがフロントに入る意味
■私の夢

■プロアスリートとの別れ

 前回のコラムで、選手や監督、コーチングスタッフとの別れ方の良し悪しで、そのクラブの業界評価が透けて見える、というお話をしました。両者の別れ方に、それまで培われてきた信頼関係の深さがわかるからです。そしてその評価は業界に広まり、よく言うところの「あのクラブでやってみたい」かどうかが決まっていきます。

 では、業界評価を上げ、良い選手を獲得するために、深い信頼関係を作るのかというと、それは違います。信頼関係の深さは、クラブのために築くのではなく、相手をおもんぱかる心の在り方から作られるものです。私は、契約非更新にあたり、涙を流しながら伝えたベテラン強化部長や、ロッカーを整理して去った後も、代理人と一緒に移籍先の世話を一生懸命している強化スタッフを見てきました。彼等の下には、多くのアスリートやコーチングスタッフが「一緒にやりたい」と手を挙げてきます。かくして良い別れ方に心を砕ける人は、良い補強が出来ると思っています。多少のお金は必要ですが、彼等に必要以上のお金は不要です。結果、彼等をして会社は「信頼と節約」を獲得したことになります.

 かく言う私も同じ釜の飯を食った選手や監督コーチングスタッフとの別れにはことさら心を砕いてきたつもりです。それはプロスポーツ業界に身を投じる以前に勤めていた会社で、工場閉鎖により何千人という現場の方々に配転をお願いした経験が大きく影響しています。購入したばかりの家を手放さないような勤務地はどこ?病気がちなご両親の世話がある人の異動の限界は?持病のある高齢作業者の新しい職場配慮…出来るだけのことをしなければとの思いで一杯でした。選手や監督、コーチングスタッフも全く同じです。出来る限り彼らのその後が幸あるものになるよう、出来ることはやってあげたいと常々思っています。私が逆の立場になったこともあります。長年慣れ親しんだ英国勤務を終わった時に、作業衣のまま車を飛ばして空港まで見送りに駆けつけてくれた当時の上司の涙は一生忘れられません。

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■様々なプロアスリートのセカンドキャリア

 クラブで一期一会の出会いをしたからには、去った後もずっと気にかけていて、それは現役引退後まで続きます。ただ単に気になるのです。幸せに暮らしているのか、移動の多い職種ですから家族とはうまくやっているのか、食うに困らぬ報酬は得ているのか…自分が最後まで面倒を見てあげられなかった分、今在籍している選手達以上に気になるのです。一番困るのは行方知れずの選手がいることです。もう13年沙汰がない。大学の同期や同じクラブの仲間に聞いたりしていますが未だに消息がなくて、どうにもこうにも困り果てています。(この選手の話はまた別の場で)

 通常、現役引退後の方が人生としては長い。引退後、何をするにしてもそちらの仕事とのつきあいの方が長く、やはり納得のいく仕事であって欲しいと思います。比較的ポピュラーな職種は、コーチや監督職。初めはスクールコーチや育成年代の監督、大学の監督職、そしてトップチームと「現場畑」ですね。他にメディア系の解説者やライターさんといった「やる側から診る側」への転換。或いは柔整鍼灸師さんといった国家試験に合格してなる「メディカル畑」。一方で全く今までの現役とは違う一般企業での会社員というパターンも少なくありません。プロで培われた「規律を重んじ粘りのきく気質」などは社会人となった後も大いに重用される特質でもありますので、私は社会人としての要件が整い、競技関連以外の仕事にためらいのない選手には一般企業入りも率先して勧めています。

 そうした観点から、入団以来のクラブ生え抜き選手には、そのクラブのフロント入りを積極的に勧めています。私が在籍していた湘南ベルマーレでは、ミスターベルマーレこと坂本紘司、清水エスパルスでは、斉藤俊秀(現日本代表コーチ)、杉山浩太、高木純平、兵働昭弘と、特にエスパルスでは多くの選手達がフロントで活躍してくれています。

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■生え抜きプロアスリートがフロントに入る意味

 生え抜きアスリートのフロント入りには様々なメリットがあります。有期限雇用、無期限雇用や仕事内容、就業時間が大幅に異なる現場とフロントのブリッジ役として、或いはその粘り強さを活かした営業職もいいでしょう。またサポーターに近いところの興行運営職もハマる可能性が高い。クラブブランドという観点からは、選手のセカンドキャリアにも積極的な面倒見の良いクラブとして評価されるはずです。選手側からしても、慣れ親しんだ土地での生活や選手時代から応援してくれていたお客様に囲まれて仕事が出来ますので、悪くないキャリアパスでしょう。

 ただ、幾つか注意しなければならないこともあります。例えばOB風を吹かしたり、現役の生え抜き選手とそれ以外の選手で話し方、接し方を変えてはいけない。極端な例ではありますが、ユース出身の選手には馴れ馴れしく、他クラブから移籍した選手にはよそよそしくといった場面を何度か見たことがあります。このようなことは厳に慎まなければなりません。また、役員を含めたフロント職員側の方でも、彼等のような元選手との接し方の注意点として、一般の社員とは異なった道を歩んできたキャリアを意識するあまり、知らず知らずのうちに特別扱いをしてしまうと、その他社員が悲しみますので、よくよく意識して接しなければなりません。特に現役時代に華々しい成果をおさめた選手には、礼儀のつもりで敬意を払いがちですが、社会人としては若葉マークのつもりで普通に接してあげることが、結果的には彼等の成長を促すことにもつながるものです。

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■私の夢

 私が社長を務めていた時に、いつも心がけていたことがあります。それは「お客様を知る。商品を知る。現場を知る。」ということでした。この三点を知らずして、やれ見える化だの数値化、標準化だのと管理手法を振り回しても何の意味もありませんし、お客様が喜び、現場がはつらつと良い商品を作ることにはつながらないでしょう。そのために、社長になる前もなってからも、常々お客様や現場と肌感覚で触れ合い、自ら商品を使い(食品なら食べる、スポーツなら観るですね)続けて初めて「何を管理することがこの会社にとって望ましいのか」という「活かせる管理」が見えてきます。

 その点、生え抜きの選手OBは、多くのアドバンテージを持っています。お客様とはギリギリの厳しい状況でもサービスを提供し続けてきました。また、彼等は商品の生みの親であり、現場そのものです。言わばそのクラブの酸いも甘いもよく知っているはずです。そこにフロント経験を積ませていけば、将来的にはトップになることも夢ではありません。未来のプロアスリートを目指す子供達やその親御さんの夢を、そのセカンドキャリアまで含めたものとするためにも、是非とも元プロアスリート社長を目指してもらいたいものです。私はそういう候補者には、一般社員からの社長候補同様に、私のこれまでの知識、経験、ノウハウを惜しみなく提供することをお約束致します。

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