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【いまさらレビュー】映画:ディナー・イン・アメリカ(アメリカ、2020年)

今回は、ピカレスクロマン的であり純愛モノという一風変わった映画:ディナー・イン・アメリカがとても面白かったので、記録しておきたいと思います。
監督・脚本はアダム・レーマイア。主役のカップルをカイル・ガルナー、エミリー・スケッグスが演じています。とにかく放送禁止用語やお下劣なシーンのオンパレードなので、良い子は絶対見ないでね笑 テーマはセックス・ドラッグ・ロックンロールそしてラブ!

おはなし

舞台はアメリカ中西部の片田舎。ヤク中&売人として警察に追われるサイモンは、裏の顔が覆面パンクロッカー・ジョンQだ。一方、ペットショップで働くパティは一見内気で殻に閉じこもった雰囲気の女性だが、実はジョンQが所属するサイオプスの熱狂的ファン。だれも知らないハジけっぷりは、自分の部屋でだけ見せる本当の姿。

お金のため臨床試験に参加したサイモンだったが、そこで知り合ったベスの家に招かれる。家族と一緒に食卓を囲むものの、トラブルを起こし大暴れ。警察のマークがきつくなる中、外でハンバーガーを食べていたパティと偶然、接点ができる。お互いどんな人物かは知らないまま、サイモンはパティの家に潜伏することになる。

パンクバンド・サイオプスは、売れたいメンバーと、あくまでパンクの精神を貫きたいサイモンが対立。ギグを目前に控えて分裂寸前だ。

サイモンはパティが自分のファンと知り、パティを見る目が変わっていく。パティが書いたファンレターを読んだからであり、クレイジーな社会不適合者ぶりに共感したからである。次第に距離が縮まり、サイモンは自分がジョンQであることを告白する。サイモンの発案で、パティの詩をベースにした曲を録音。サイモンは感動で涙する。

迎えたギグの最中、分裂したバンドメンバーの通報によりサイモンは逮捕され刑務所に。だが、受刑中もサイモンとパティの絆は結ばれたままだ。パティは2人で録音したテープを聞きながら、愛を確認するところで物語は終わる。

タイトルのディナー・イン・アメリカはサイオプスの楽曲のタイトルでもあるが、劇中に数回登場する家族ディナー場面とも連動している。形だけ家族団らんの体だけど、実はギスギスした空気で一触即発。これがアメリカ式ディナー?

このディナー場面を中心として、劇中の会話はほぼ短い切り返しのカットの積み重ねで表現されている。リズム感を生み出すと同時に、コミュニケーションの齟齬を示唆してもいる。サイモンとパティのシーンでは2人がワンショットに収まっているのとは対照的だ。

ちなみに後のインタビューによると、ガルナーは10代の頃にハードコアパンクを聴いて育ったのだそうで、遠慮せずに“Fuck You! ”と言えるのはとても楽しかったのだとか。彼の演技がサイモンのキャラをとてもいきいきとしたものにしている。

エミリー・スケッグス

同作が長編映画初主演となったエミリー・スケッグス。映画では黒縁メガネの冴えないコを演じているが、メガネを外すとどことなく若い頃の大竹しのぶを思い起こさせる、とっても不思議な魅力を持つ女優さんである。

実はミュージカル俳優として活躍した経験があり、2015年にはトニー賞にノミネート(『ファンホーム』)されている。歌声や演技はYouTubeでもご覧いただけるので、興味がある方はぜひどうぞ。(※BUILD Series:Beth Malone, Emily Skeggs and Sydney Lucas on 'Fun Home')

後のインタビューによると、劇中の「スイカ」ソングは、ご自身の作詞なのだとか。可愛らしい歌声だが、歌詞の内容は…ほぼほぼセクシーな隠喩(ピコ太郎ちっく?)、ある意味ラブソングですな笑 参考までに歌詞がこちら。

アタシはスイカ。あなたのドライブウェイに叩きつけられちゃったわ
ぱっくり割れて中身を全部さらけ出したみたいよ

舌でとんとん(tongue-tongue)
耳はドラムがドンドン
かれぴっぴ、アタシをうまうま(yum-yum)味わって
呼んでよ、アタシすぐにイッちゃうわ(I'll come)

他の奴らはみんなクソ
み〜んなクソよ
アタシたちの他はクソばっか

夢見てるの?それともキスしただけ?
わかってないでしょ、でももう、アタシが恋しいはず

舌でとんとん
耳はドラムがドンドン
かれぴっぴ、アタシをうまうま味わって
呼んでよ、アタシすぐにイッちゃうわ

他の奴らはみんなクソ
み〜んなクソよ
アタシたちの他はクソばっか
ほら、もうすぐロックショー
推しのチケット、ゲットしましょ
(※拙訳)

舞台やテレビドラマの脇役が活動の中心になっているようだが、いつの日かまた歌う役柄で突如スクリーンに現れることを期待したい。

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

主人公たちは言葉は汚いし悪さばっかりするし、おまけにしまいにゃムショ送り。とても良い子には見せられない内容なので、その点を気にする方は観るのを避けたほうがいい。

一方、主人公たちのハジケっぷりやリー・トンプソンがちらりと出ているなど、見どころも多い。モラルを超越した魅力があるのも間違いない。パンクコメディの快作だ。ある種の免疫がある方にはぜひ観ていただきたい。

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