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【いまさらレビュー】映画:レア・セドゥのいつわり(フランス、2021年)
フランス流のエスプリかそれとも巧妙な欺瞞か、今回は変化球ラブストーリー映画:レア・セドゥのいつわりについて記録しておこうと思います。
監督・脚本はアルノー・デプレシャンでフィリップ・ロスの小説『いつわり』を原作としています。ドゥニ・ポダリデスが主人公の作家役、日本版のタイトル通り、フランスの女優レア・セドゥが魅力的な愛人役を演じています。
おはなし
広い意味でラブストーリー。原作者フィリップ・ロス自身ともいうべきユダヤ人作家フィリップが、何人もの女性と語り合う。その会話の積み重ねが、小説として作品になっていくという体(てい)。どこまでが現実でどこからが小説の世界なのか、あえてはっきりさせないままストーリーが進む。
ストーリーは愛人とフィリップとの対話でスタート。愛人は夫と子供ありだが、夫婦関係は破綻し家庭での生活は煮詰まっている。愛人とは作家はお互いに問いかけ、お互いの問いに答えていく。そして、フィリップはそれをメモに書きとめ小説のエレメントにしていく。
対話のテーマはさまざまだ。男と女のこと、夫婦関係のこと、政治・ユダヤ人のこと、身の上話、そしてセックスのこと…
入院中の女性とのシーケンス。語り合うのは命や愛について…
映画監督のシーケンス。彼の妻との背徳の関係性を示唆…
裁判のシーケンス。被告はフィリップ、ほか裁判官・検察を含めて全員女性。「あなたの著作は女性蔑視だ」と責め立てられるフィリップ。女性遍歴を肯定しつつ女性蔑視を否定するが、明らかに劣勢で作家の主張は認められそうにない…
フィリップのかつての教え子とのシーケンス。教え子とは以前、性的関係にあったらしい。教え子が現在、精神的に不安定になっていることを知り、動揺する作家…
フィリップとその妻とのシーケンス。メモは架空の女性との会話だと主張するフィリップに対し、そうではなく明らかに不倫だと怒る妻…
かくして、フィリップの小説は出版される。出版サイン会に訪れる愛人。小説のベースとなっているのはもちろん、愛人と語り合った対話である。不倫関係にはピリオドが打たれているものの、お互いの心が複雑につながっていることを示唆しつつ映画は締めくくられる。
ひとこと、ふたこと…
女性に節操がない既婚者の作家と既婚者の愛人。背徳の関係性に波風が立たないはずはないが、それでもよどみなく時が流れていくのが不思議に感じられる。作家がいつも本気の目で見つめて語りかけ、愛人はエスプリに満ちたリターンを返してくるからだろうか。時にリターンは、作家の言葉よりもよほど“文学的”だ。一方、建前上“小説は創作だよ”との逃げ道を用意しているのは、作家の欺瞞である。
原題は英語で「Deception」フランス語で「Tromperie」、どちらも欺瞞・ごまかし・詐欺といった意味。日本語訳の小説出版時にタイトルを「いつわり」(集英社、1993年)としたセンスには感服するが、映画になったとたん「レア・セドゥの〜」とくっついてしまったのは、どうだかなと思う。いつわりの男女関係を重ねているのはレア・セドゥじゃなくて作家だしね。
ちなみに、作家役を務めたドゥニ・ポダリデスはとてもたくさんの作品に出演する人気俳優だ。2025年現在、メグレ警視の新作が準備中らしい。役柄はメグレ!
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フランス語でなら下ネタ言っても許されるのかい?という気分にもなるが、なんとなくシャレて聞こえてしまう。そこが鼻につく!という方はご覧にならないほうがいい。イラッとするだけだ。
フランス語の語感や背徳の愛にも抵抗がないのであれば、楽しめる作品ではないかと思う。何より、愛人としてのレア・セドゥを堪能することができる。密かに不倫願望を持っている人だと、もしかすると響く内容かもしれない。